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風見風子は強くなんてない

 目の前にはいつもの風見さんはいなかった。


 強くて立派で、自信に満ち溢れている彼女はいない。


 彼女は今も、不安げに、憎々しげに僕を睨み付けている。


「……風見さん」

「……そう。私は、私はもう負けられないのよ」


 辛そうに、懺悔するかのように、風見さんは言った。

 そして彼女は囁くように言葉を紡いでいく。先程までの怒気と敵意を押し隠すように、彼女はもう一度僕を見据えた。



「ねぇ、ふぇありー。あなたが私に抱いているイメージってどんなの?」

「イ、イメージ?」

「えぇ。あなたから見た私は、どんな風に見えてるの??」


 風見さんは持っていたタブレットを置き、おぼろげで不安そうな言葉で僕に問いかける。そしてその表情は相変わらず曇っていてどこか弱々しい。


 質問の意図がわからない。このタイミングで彼女がこんな質問をしてきたのだから無意味なんてことはありえない。

 僕が風見さんに対して思っている事なんて、いっぱいあるのに。でも逆にありすぎてなんて答えたらいいかわからない。

 だけど、確実に言えることは。


「……僕は風見さんのこと心の底から凄いと思ってるよ。僕にないものを全て持ってるし、そしてなによりいつも真っ直ぐだ」

「……そう」


 僕のその言葉に喜んでいるのか、悲しんでいるのか、怒っているのかはその表情から推し量ることは僕にはできない。でも僕は目をそらすことなく風見さんを見つめ返した。


 今の言葉に嘘偽りはない。だけど、なんとなくだけど、なんとなくだけど、風見さんが悲しそうなのは何でだろう。

 なんだか風見さんはまるで昔の僕のように、何か見えないものに追い詰められているように見えた。

 


「……風見さん! 僕は弱くてダメな人間だけど、風見さんが困っているのなら助けてあげたい、力になりたいと思ってる。だから……」

「私はね、ふぇありー。あなたが思っているような立派な人間じゃないのよ」

「……は?」


 風見さんは悲しそうにそう呟いた。


「……私はダメで、弱くて、嘘つきで、逃げてばかりで、口だけは達者の負け犬なのよ」

「え? な、なんで……? そんなこと……」

「ねぇふぇありー。私が、私がもし何も持っていなくて、性根がねじ曲がっていたらどうする? それでも今言ったみたいに私を助けてくれる?」

「どうって……」

「嫌……よね。でもごめんなさい。それが風見風子の真実よ。私は矮小わいしょうで利己的で、からっぽの人間なの」


 僕を置き去りにするかのように、風見さんは畳み掛けてくる。彼女は拳を固く握り、そこには誰に向けているかわからない怒りの捌け口を溜め込んでいる。


 その言葉を聞いて、僕の内側にもふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じた。

 風見さんがからっぽの人間だって? そんなわけ、そんなわけないじゃないか。そんなこと、誰が言っても僕は認めない。他でもない風見さんが言ったとしても、僕は認めはしない。


「そんなわけないよ!! 実際、風見さんは、風見さんは僕の過去を知っても何も態度は変わらなかったし受け入れてくれたじゃないか。そんな人が利己的な人間なわけないよ……!!」

「それは違うわ。私が受け入れたのは、あなたじゃなくて私の『優越感』よ」

「……は?」


 困惑する僕をよそに、風見さんは悲しそうにくつくつと笑う。そして力のない笑みを僕に向けた。


「ふぇありー。あなたのその『過去』の話を東藤は知っているのかしら?」

「……!? 知らないと、思うよ」

「くっくっく。それよ、それ。それが私が浸っていた小さな『優越感』」

「……は?」

「私はあの『東藤』が知らないことを知ってる。……それだけで嬉しく感じるのよ! 悪い? それってつまりふぇありーが私を信頼してくれた証ってことでしょ!? ふぇありーにとって私は『特別』ってことでしょ!?」


 虚しく風見さんの声が部屋の中に響く。まるで彼女の懺悔を嘲笑うかのように、静寂がこだましていく。

 

 風見さんの今の言葉が本当なら、風見さんがあの時の開発でへそを曲げたのは、ただの嫉妬や疎外感が原因だったということになる。『悠久機』が人型だとか人型でないとかは大きな問題じゃなかったってことにも。

 だとしても。だからと言っても。


「……でも、だとしても。僕の風見さんへの見方は変わらないかな」

「……っ!? 私がしていたのは密かに裏で東藤を嘲笑っていたことに他ならないのよ!? 下らない『優越感』に縛られて、いつも感じる『劣等感』にも縛られて……」


 不審そうに、不安そうに風見さんが僕の瞳を覗き込む。風見さんはまるで叱られるのを怯えている子供のように、早口に言葉を紡いでいく。  


「もう、今だから言ってあげるわ。私がこの勝負を受けてもいいって言ったのも、私が初めふぇありーを『風見鶏騎士団』に誘ったのも、私が『悠久機プロジェクト』に残ったのも、全て『自分』のためよ」


 憎々しげに風見さんはそう言いきった。その口許からは冗談の類いは一切感じられない。彼女はあくまで淡々と、まるで意思を持たない機械のように口を動かしている。


「当然よ。そうでなければこんなどうでもいいロボット開発に心血を注いだりしないわ」

「……」

「あなたが思っている『風見風子』は幻想よ。ここにいる私は、あなた達を利用し、自分自身の目的を達成する事しか考えていない正真正銘のクズよ」


 風見さんは辛そうにそう言いきると、淀みきった瞳のまま肩をすくめた。


「……はぁ。なんで言っちゃったのかしら。ふぇありーのせいよ」

「風見さん……。風見さんのその『目的』ってなんなの?」

「……目的? もうわかるでしょ? 『風見風太(クソ兄貴)を打ち負かす』。私がここで活動してるのは、その理由が全てよ」


 風見さんは自嘲気味にそう言った。

 『風見風太』に勝つこと。僕個人の感想から言わせてもらうと、風見さんがその目的を達成することが難しいとは思わない。風見風太さん自体もそこまで凄い人物なのかと言われると首を傾げるレベルだし。 


「……ふぇありーには失望されるかも知れないけど、私は常に『二番』なのよ。いえ、『一番』になれる人間じゃないってとこかしら。私がどれだけ努力しても、研究を重ねても私は凡人だから、あの天才の兄には何をもってしても勝てなかった」

「……」

「結局、この高校でもそうだけどね。私は次席で、東藤は首席。凡人には努力だけでは埋められない『差』ってのがあるのよ」


 なかば諦めたような、投げ出すような口調で風見さんは答える。だが悔しそうに握りしめる拳は、彼女の行動と心の相反する様子を表しているようだった。

 そしてそのまま絞り出すように風見さんは言葉を紡いでいく。


「でも私は負けず嫌いだから、自分の価値を何としても証明しようって毎日必死なの。こんな『劣等感』は打ち砕きたいの。……自分だってクソ兄貴や東藤みたいに『特別』な何かだって証明したくて……。だから貴方達を利用するの。この『人型ロボット』って分野ならひょっとすると勝てるかもしれないから」

「……」

「何よりそれは、本当に大切な『約束』だから」

「約束??」


 そこまで言うと風見さんは小さくため息をついた。まるで何かを諦めるかのようなその様子に僕は自らに燃え上がりつつある使命感に驚きを隠せないでいた。


「……でもどうせ今回も無理ね」

「なんで? そんなのわからないよ」

「弓佳の報告で確信したわ。アイツは私の『皇帝(ツァーリ)』の改良機を出してくる」

「……それがどうしたの? 僕たちの機体の二番煎じになんて、僕たちは負けないよ」


 僕の断言にも近い口調に、なかば呆れたように風見さんが言い返す。


「無理よ。……ふぇありーは知らないかも知れないけど、アイツは真の意味でも『天才』よ」

「そんなこと……」

「ないって言える!? 何も知らないあなたが? どうせ今回もアイツの作る人型兵器に勝てっこないわ。いつもそうよ。アイツが作ったもの、アイツが考えたものは、いつも私のより遥かに優秀なのよ」


 そう断言する風見さんはなんだか泣きそうな、いつもにはない弱々しさで溢れていた。その言葉にはこれまでの彼女の過去が含まれているような気がした。

 僕が知らない、風見さんが抱える劣等感があふれでるような告白に対して、僕が言えることは多くはない。でも確実であることは。



「……そんなことはないよ。僕が断言する。風見さんは風太さんに劣ってなんかいないし、敵の『二番煎じ』なんて僕たちの『土竜』が絶対に叩き潰す」

「……どうして貴方はそこまで言い切れるの!? アイツは、アイツは本当に化け物なのよ!」

 


 僕の断固とした物言いに対して、風見さんは様々な表情が入り交じった視線を向けてくる。

 信じたいけど信じられない。迷いたくないけど迷ってしまう。その視線にはそんな複雑な思いが込められているような気がした。


 僕はそんな風見さんを見て、なるべく冷たく、まるで当然のことであるかのように言う。







「……だから何?」









「はぁ!? 何って……」

「敵が『化け物』ってのはわかった。でもそれが何?」


 敵が化け物だろうがなんだろうが僕には関係ない。


 過去に何度だって僕は『化け物』と言われる集団を撃ち破ってきた。別に風太さんがいくら凄かろうと、彼だって同じ人間だ。これまでの実績がどうであろうと、それが僕の勝負を決める要因にはならない。


「……これまで何度も『化け物』、『最強』と呼ばれている人達とぶつかってきたけど、どれもこれもそんなに大したことはなかったよ」


 そんな僕を風見さんは目を丸くして見つめている。

 しばらくすると彼女は堪えきれないように、ぷっ、と吹き出した。


「……ぷっ、あははははは! そうね、貴方はそう答えるわよね! あははははは!」

「か、風見さん?」

「あははははは! そ、そうね。確かにアイツがいくら『化け物』だっても、こっちもそれ相応の『化け物』を飼ってるのを忘れてたわ」


 少し目を擦りながら、風見さんは嬉しそうに言った。 


「もう。真剣な話をしてたのに、笑わせないでよふぇありー」

「えぇ……? 僕も至って真剣だよ?」

「うふふ、そうね。あなたはいつだって真剣で真っ直ぐだもんね」


 そして僕は強く頷きながら、どこまでも真っ直ぐに風見さんを見つめ、精一杯力強く息を吸った。


「見せつけてやろうよ。僕たちの『悠久機』はとっても凄いんだて」

「……」

「認めさせようよ。風見さんは風太さんに劣ってなんかいないってことを」


 風見さんは不安そうに僕を見つめている。まるで心の中の何かと戦っているようで、その視線はずっと揺れていた。



「僕たちは負けない! 絶対に勝って風見さんの『凄さ』を僕が証明してみせる!」

「……えぇ」

 

 そんな僕の決意はRW全体に響き渡ったような気がした。


 僕の(つたな)い言葉が風見さんの心に響いたかどうかはわからない。だけど、僕を救ってくれた風見さんの言葉のように、僕の言葉が届くことを祈るばかりだ。



 風見さんは戸惑ったように顔を伏せ、そして迷い抜いたすえに小さく首を縦に振った。そして、恥ずかしそうに下を向いたまま、風見さんは僕に向かって手をさしのべる。


「じゃ、じゃあそこまで言うなら、頼むわよ……、月島くん」

「う、うん」


 突然の名字呼びに戸惑いつつも、僕は風見さんの手をしっかりと握りしめたのだった。







 


 



 

 


 














 風見さんの独白回でした。ちなみに次回は初の視点移動で、風見さん語りの過去話になったりします。一話だけですけど。

 早く『悠久機』ぶっ壊したいですね。もうしばらくお待ちを。(壊れるとは言ってない)

 あ、あと『風見製悠久機』を『風見製人型戦車』に変更します。また『人型ロボット兵器』を総称する『機動兵器』という単語を追加します。修正を入れてごめんなさい。詳しくは活動報告を見ていただけると助かります。

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