表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/74

風見風子の葛藤


 僕だって、やらなきゃいけないときくらいはわかっているつもりだ。例えそれが僕にとって苦手なことでも、向かい合わなきゃいけないときは来る。

 

 僕は『製図室』の前で深く深呼吸を繰り返していた。


 確かに最近風見さんの様子がおかしかったのは、僕の目から見ても明らかだった。だって風見さんの『風見鶏騎士団副団長』って立場を考えると、こんな勝負の勝敗はどうでもいいはずなのに、風見さんはやけに勝ちにこだわっていたから。


 別に負けても元の鞘に戻るだけ、のはずなのに、風見さんのこの決闘に対する熱意は目を見張るものがある。もちろん僕たちにとってそれはいいことであってそれ以外の何物でもないはずなんだけど、やっぱり不自然なのは不自然で。その違和感に僕が目をつむり続けていたのもまた事実で。


 僕はふーっと息を吐きながら『製図室』のドアに手をかける。そして風見さんが待つ空間に足を踏み入れた。






ーーーーーーーー






「……ふぇありー、何か用?」


 タブレットと渋い顔でにらめっこしていた風見さんが鬱陶しそうに顔をあげる。こんな風に怒気の含んだ顔を向けられると僕の身が縮み上がるような錯覚に襲われる。

  

 だ、大丈夫。僕だって、僕だってもう昔とは違うんだ。言いたいことだって言えるはずだ。


「……いや、その、風見さん、えっと、だ、大丈夫?」


 と、僕が風見さんのプレッシャーに圧されつつも絞り出すように声を出すと、風見さんは少し驚いたような顔をした。


「……ふぇありーに心配されるなんてね。あなた、私を誰だと思ってるの?」

「知ってるよ。でも、最近様子がおかしかったから」

「……様子がおかしい? 誰の? もしかして私?」

「……うん」


 そこまで言うと、風見さんは突き刺さるかのような責める視線を僕に送ってくる。その視線に僕は胸を締め付けられるのを感じながらも屈してしまわないように強く心を持つ。

 


「何が? 私は勝つために全力を尽くしてるのよ? ふぇありーももしかして東藤みたいに私のその姿勢に反対だって言うの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「じゃあ何が? 私は必死にやってるわ。勝つために」


 そこまで言うと風見さんは少し迷ったように視線を落としたが、すぐにもう一度僕を見つめ直し、口を開く。


「全ては、そう。全ては、『悠久機プロジェクト』の未来のために」


 そう言いきる風見さんだけどその言葉の端々にはいつもの自信は表れていない。嘘じゃないんだけど、本当じゃない。そんな風に僕が思うには十分なほど力のない口調だった。


「でも、それは風見さんらしくはないよ」

「……っっ!! はぁ!? だから何が!? 私が『勝ちたい』って思ったらいけないの!? 何のために私が東藤と喧嘩してまで無茶を通すかわからないの!?」

「だからそれがおかしいって言ってるんだ」

「……っ!!」


 鼻息を荒くして僕をきつく睨み付ける風見さんに負けないように僕も声を張り上げる。やっぱり今の風見さんは変だ。暴走してる。

 だから、だから、だからこそ、僕は。


「だから一体何が……」

「……無茶を言うのは風見さんの仕事じゃないよ」

「……はぁ!?」

「無茶を言うのは僕や弓佳ちゃんの仕事でしょ? そしてそんな暴走気味の僕たちを止めて、現実的な路線に引き戻すのが風見さんだったじゃないか!」

「……っ!」

「『皇帝(ツァーリ)』も、『皇帝改(ツァーリセカンド)』も、風見さんは僕や弓佳ちゃんの無茶な要求を止めてくれてたじゃないか! だから僕たちは安心して目茶苦茶言えたんだよ!?」

「そ、そんなの知らないわよ! なんで私が止めなくちゃならないのよ。自分で止めなさいよ!」

「そうさ。今度は僕の番さ。だから、だから僕はこうやって風見さんを止めに来たんだよ!」

「……」


 怒り五割、困惑五割とでも言わんばかりに風見さんの瞳は揺れていた。実際、僕が言ってることが無茶苦茶なのはわかってる。でも間違ってはいないはずだ。

 さっき僕が感じた違和感だってそうだ。風見さんが感情的に無茶を言って、弓佳ちゃんや東藤さんが止めに入るなんて今までになかった光景だった。


 でも風見さんも自分がなんだか焦っていることに気づいているとは思う。その証拠に迷ったように今も瞳が揺れている。


「風見さん。何をそんなに焦ってるの?」

「……焦ってない」

「でも焦ってないにしては、風見さんのやってることは無茶苦茶だよ。数ヵ月かかって作ったシステムを三日で作り直せるわけなんてないもん。そんなこと、僕にだってわかるよ」

「……できるわ。私なら」


 風見さんは吐き出すように言った。まるで自分の言葉に矛盾がないかを確かめるように紡ぎだされた言葉だったが、その口調にいつもの自信は含まれていない。


「できないと、また、私は……私の、価値は……私の『約束』が……」


 そして風見さんは唇を噛み締めながらうつ向いた。その様子の風見さんにいつもの凛々しさ、強さはなかった。そこにいたのは何かに怯えるようなただの弱々しい一人の女の子だった。


「……風見さん。何に追われてるの?」

「うるさいっ!! あなたにはわからないわ! とにかく、とにかく私は『アイツ』に勝たなきゃいけないのよ!」


 風見さんは追い詰められたように僕を睨み、盛大に机を叩いた。


 


 

 

 















 何気に初めての連日更新。不定期にも程がありますね。すいません笑

 ふぇありーが苦しむからなるべく早く投稿したいんです笑。まぁ実際苦しんでるのは風見さんですけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ