結果発表2
そして今、第四位のインタビューが終わると会場は何となく和やかな雰囲気に包まれた。一つのお祭りが終わったあとのような心地よい高揚感だ。
しかしそんな全体の様子を破壊するかのように、司会者は再び口を開いた。
『さて! では惜しくも敗退してしまった『悠久機プロジェクト』にお話を伺ってみましょう!』
その瞬間、会場にどよめきが走った。
敗者インタビューなんて聞いたことがない。やはりこの大会の運営側もこの異常な盛り上がりを意識しての配慮だろうか。
しかし僕たちの気持ちも考えてほしい。僕なんてこれから先またあの悪意に苛まれることを考えると今すぐにでも消えてしまいたいのに、更に燃料を投下するなんて勘弁してくれ。
まぁでも弓佳ちゃんならもしかすると僕への皆の反感を別の物に変えてしまうかもしれない。そうなることを願っておこう。
しかし、なんと驚くことに弓佳ちゃんは僕の袖口を掴むと可愛らしい笑顔をこちらに向けた。
「さっ! いくよっ、ふぇありー!」
「え? ちょっ! 待って……!」
そして弓佳ちゃんが僕の袖を掴んだまま、スタジアムの中心に備え付けられた舞台上へと僕を引っ張って行く。
こんな結果に終わってしまった今、僕は人前に立つという行為は心の底から避けたかった。しかし、弓佳ちゃんの有無を言わさぬ牽引は僕に反抗の術を持たせなかった。
そして僕は瞬く間に壇上に引き上げられた。あろうことか我らのキャプテンの手によって。
僕を貫くたくさんの、目、目、目。
まるで僕を責め殺さんが如く、かつてない数の人の視線が僕を射抜いてくる。
スポットライトが眩しく僕を照らしている。僕は予想外の眩しさに思わず目をすぼめてしまった。
先程までの和気あいあいとした雰囲気からは打って変わって、静かで張り詰めた空気が辺りを包み込む。
『えー、『悠久機プロジェクト』さん。惜しくも五位敗退してしまいましたが、この大会はいかがでしたか?』
司会者が優しく笑顔を浮かべながら僕たちに話しかける。だけど、頭が真っ白になっている僕は彼の言葉の意味を理解することはあまりできなかった。
緊張とはまた違う気持ちの悪い何かが僕の中を駆け抜けていく。
ごめんなさいごめんなさい。僕が調子に乗ったばかりにこんな結果に終わってしまって本当にごめんなさい。
そんな言葉が僕の中をこだましていく。
僕は困ったように弓佳ちゃんに助けを求めて視線を投げ掛けたが、彼女は小さな笑みを浮かべながら耳打つように言った。
「ほらっ、ふぇありーから先に答えて? 貴方なら大丈夫だから。みんな、わかってくれてるから」
会場は先程までの喧騒は嘘のように静かな雰囲気に包まれている。みんな僕の言葉を待っているのだ。
僕は弓佳ちゃんに小さな恨みを覚えつつ、司会者が差し出してくるマイクを手に取った。
そして小さく息を吸ってゆっくりと口を開く。
僕が言うべき事はたった一つだ。自分の保身の為に言い訳をしたいけれど、そんなことをしてもきっと後悔するだけだから。
『……えっと、その。僕達を応援してくれた人達へ。えっと、負けてしまって、ごめんなさい』
意を決して僕は呟くように言った。僕の言葉はスタジアム内を反響し、そして虚空へと飲み込まれていく。
スポットライトが眩しいためか、僕が緊張しているからかはわからないけど、あんまり他の人の姿は見えないことは助かった。
こんな人前で話すなんて、僕の人生で初めての経験だ。緊張しない訳がない。
会場からは観客の微かな息遣いが聞こえてくる。僕の次の言葉を待っているのだろうか。
『僕が……。僕が不甲斐ないせいで『悠久機プロジェクト』は負けてしまいました。でも、情けなくて弱くて、ヘボパイロットだったのは僕だから……! 『悠久機』は凄いってことはわかってください』
泣きそうになるのを堪えながら、僕は言葉を続けた。次の言葉を言うのは心が辛い。まるで風見さんに僕の過去を打ち明けたときのように、重くて冷たい何かが僕の心にのし掛かってくる
『僕の事はどれだけバカにしても、蔑んでも構いません。実際僕は結果を残せませんでしたし……。でも、『悠久機プロジェクト』だけは本当に凄いんです! だから! それを、その、忘れないでください……』
手が震えて口元が震える。仮想空間のはずなのに、とてつもなく喉が乾く。皆の視線がまるで刺すようにずっと僕を貫いてくるみたいだ。
でも、自分が言いたいことは伝わったかな……? 僕は決して口が上手い方ではないけれど、それでも誠意だけは伝わっていてほしい。
僕的には取りあえず言いたいことは言った。言えた。だからこれで少しでも『悠久機プロジェクト』の評価が挽回できたといいな。
……その変わりに『閃光の妖精』また炎上したとしても、『悠久機プロジェクト』が無事ならまだ頑張れるから。
そして、沈黙が辺りを支配する。
水を打ったように静まり返った観客席は、まるで僕に対して非難の重圧をかけているようだった。
これ以上は言うことは何もない。だって僕は失敗したんだから。
辛いけれど、どんな扱いだって潔く受け入れてみせるさ。
僕は小さくお辞儀をして、マイクを弓佳ちゃんに渡そうとしたその瞬間、会場から大きな声が届いてきた。
「かっこよかったぞー! 閃光の妖精!」
『え?』
思わず僕はすっとんきょうな声をあげてしまった。キョロキョロと辺りを見渡すが、相変わらず静寂が会場を支配している。
ついに追い込まれすぎて幻聴まで聞こえるようになったのかな。なんて思いながら僕は再び弓佳ちゃんへと向き直りマイクを差し出す。
しかしそんな僕の考えを否定するかのように、再び会場から声が届いてきた。
「『悠久機プロジェクト』かっこよかったよー!!」
「『閃光の妖精』強いぞー!」
そんな声が会場のあちこちからどんどん上がってきた。僕は思わずスタジアム全体を見渡し、音の出所を確認する。
「『皇帝』凄いぞー!」
「キャプテン結婚してくれー!」
「『閃光の妖精』最強!」
「おもしろかったよー!」
次々と沸き上がってくる僕たちへの賞賛の嵐。
嘘でしょ? 幻聴じゃないの? 僕たち負けたのに、みんななんで……。
と、僕が困惑に囚われていると、誰が言い出したのかはわからないが、『悠久機』のコールが会場から巻き起こった。
「『悠久機』! 『悠久機』! 『悠久機』!」
それは初めは小さなものだったが、次第に会場全体へと浸透していき、瞬く間に大きな声援へと変わっていく。
「『悠久機』! 『悠久機』!」
そして僕たちへの声援へが大きな波となってうなりを伴って大きくなる。『応援』という質量を持った波が押し寄せてくるような不思議な感覚。まるで背中を押されているような勢いに思わずよろめきそうになるけれど、それは決して不快なものではない。
僕はなんだか感慨深い何かによって胸が熱くなるのを感じながら、深々と頭を下げた。
「ほらね? ふぇありー。言ったでしょ? 大丈夫だって」
頭を下げる僕の背中をポンポンと叩きながら、弓佳ちゃんがマイクを僕から取り上げた。
僕は顔をあげて、笑顔が溢れる弓佳ちゃんの顔を真っ直ぐと見る。
正直、僕は誰よりも自分を信じてなかったんだ。でも弓佳ちゃんは信じて僕を送り出してくれた。僕を再び戦場へと導いてくれた。
そして僕と『悠久機プロジェクト』の尊厳をあっという間に取り戻してしまったんだ。
ありがとう弓佳ちゃん。
と、僕が口を開こうとした瞬間、弓佳ちゃんが手をあげて大きな声を出した。
『いやーいやーみんな! ありがとうー!』
なりやまぬ『悠久機』コールに弓佳ちゃんは満足そうに頷くと、制するように手を振った。すると会場もそれに合わせるように、声が小さくなる。
『負けちゃったけど、『悠久機プロジェクト』の凄さはわかってくれましたか?』
何とも答えがたい矛盾した質問に、観客はざわざわとした喧騒を持って返答した。
そりゃあ、僕らは負けたのだから弱いだろうに。『スモールカップ一回戦敗退』なんて雑魚の象徴のような結果なんだから。
しかしそんな事は微塵も気にする様子はない弓佳ちゃんが満足そうに頷いた。
更新ペースを落とした結果、着実にストックが溜まってきてます。また三日ペースで更新したいなぁ。と考えているのですが、なかなか上手くいきません。毎日更新してる化け物作者達は一体どんな生活を送っているのか……。一日500文字くらいなら毎日更新できそうですが、それもどうかなぁ、と思いますしね。




