死闘の先に
「風見ガトリング、発射!」
僕は敵が先程撃ってきたと思える場所に、腕部に装着された機関銃の火を吹かせた。すると、激しい銃声と共に、恐ろしい集弾性の悪さ、すなわち大きなバラツキを伴いながら弾がばらまかれていく。
なんだこれは……! まるで使い物にならないじゃないか!
狙っている点を中心に、半径15mの円を描いた地点にバラバラに着弾している。何という命中精度の悪さ。僕なら目を瞑って適当に撃っても遥かにマシな射撃ができるよ。
しかし次の瞬間、遺跡の一部が赤く光ったと思うと『風見レオパルド』が飛び出してきた。射撃音だけは大きいから威嚇には成功したのかもしれない。
あの敵戦車の神々しい赤色は『エリクサー加速装置』を使っている証だ。
敵は『皇帝』の射撃を掻い潜りながら、『エリクサー』を生かしたスピードで距離を詰めてくる。
『敵戦車、急速に接近しつつ『皇帝』の左側へと回っています!』
「わかってる!」
機体左側は『皇帝』の弱点だ。『風見砲』は右側頭部に付いてるし、『風見ガトリング』も右腕についている関係上、左側に回られると攻撃が出来なくなる。
くそっ! しかもなんて反応速度の悪さだ! 必死で『皇帝』の腕を敵に向けているのに、敵の旋回の方が早いじゃないか! なんでだよ!
首も着地の衝撃でいかれてしまっているため、上手く動かせない。不味い。このままじゃ敵の主砲が飛んでくる。一発でも貰えば終わりだ。それだけは何としても避けないと……。
「くっ! 『皇帝』再び転回します! 一か八かで『風見砲』で決めてやる!」
『だ、ダメです! さっきの転回時の轍から抜けないと転倒しますよ!』
「そんなことしてる暇なんてないよ!」
戦場では一瞬の迷いが『死』に繋がる。そんな風に東藤さんの言葉に僕が一瞬迷っているうちに、敵戦車は完全に『皇帝』の死角へ回り込み、主砲を『皇帝』へと向けてしまっていた。
時が止まったように感じる。これは走馬灯の一種だろうか。今にもあの『風見レオパルド』の砲塔から音速でAPSFDS弾が発射され、『皇帝』を木っ端微塵に砕くのか。
短かった。余りにも短い出撃だった。
やっぱり。巨大人型ロボットなんてムリだったんだよ。
そして僕が思わず目を瞑った次の瞬間、耳を打つような爆音が僕の耳を襲ったのだった。
機体に痺れるような振動が走り抜け、その轟音に僕は身を震え上がらせる。
そして訪れる沈黙と静寂。
静かで、心地よい揺りかごのような揺れが僕を柔らかく包み込む。
……あれ? 何か変だ。
撃たれたとしたら、コックピットに直撃しなかったとしてももっと大きな衝撃が襲ってきているはずだ。そらこそあんな音による衝撃なんて比べ物にならないほどに。
にも関わらず、不安になるほど静かすぎる雰囲気が僕を包み込んでいた。
『皇帝』は被弾したのか? それともこの様子だともしかして敵が外したのか?
『皇帝』も止まっていて敵も止まっていたのに?
僕はおそるおそる目を開けると、さっきまでと変わらないコックピットの様子が目の前には存在していた。
計器を確認してみる。が、右腕にかなりのガタが来ているようだけど、それ以外は際立って変わった様子はない。
おかしい。もし被弾していたら、もっと様々な部分から機体の悲鳴が上がっているはずだ、
そして、そんな僕の疑問を解決するかのように風見さんの明るい声が聞こえてきた。
『ふふん。まぁ私にかかればこんなものね』
その瞬間、僕は何が起こったのかを全て理解した。
『て、敵戦車、風見さんの攻撃により轟沈! やりました! やりましたよふぇありーさん!』
「か、風見さんか! た、助かったぁ!」
『ふっふふーん! どう? 私の力もバカに出来ないでしょ?』
僕はすっかり頭から抜け落ちていたが、風見さんはしっかりとその役割を果たしてくれたみたいだ。
『敵接近時は身を乗り出して携行火器で砲撃する』。これが風見さんを不安定な肩回りに配置している理由だ。
この戦法は、『皇帝』を一つの移動要塞として考えた際の運用方法における結論だ。
『皇帝』に乗っかっていれば、敵戦闘車両の弱点である『上面』を攻撃可能という位置的アドバンテージは常に確保することが出来る。
だからわざわざ『皇帝』上部に、全方位を攻撃可能な人員を配置する第二コックピットまで無理矢理作ったのだ。
ふーっ。と僕は溜め息をつきつつ、きつく握り混んでいた操縦幹から手を離す。そして座席に深くもたれこみながら口を開いた。
「風見さん、『皇帝』動かすよ」
と、一声かけつつ、僕は『皇帝』を動かして自らが掘り下げた地面から脱出する。自らの轍が大きすぎる為、同じところを何度も走ってしまうと転倒してしまう可能性があるのだ。
『皇帝』を器用に轍から脱出させると、メラメラと赤く燃え上がるひしゃげた戦車が視覚センサーに飛び込んできた。
先程の爆発音は風見さんのロケット砲が敵戦車を捉えた音だったんだ。その証拠に、敵戦車は中央部分から背部のエリクサーエンジンに向かって被弾痕が残っている。
す、素晴らしい。急所に直撃じゃないか風見さん。心の中で全く期待してなくてごめんなさい。
まさか本当に敵戦車が肉薄してくるなんて思ってもみなかったから、風見さんはオマケ意外の何物とも思っていなかったのが正直な僕の感想だったんだ。
しかも不安定に揺れる機体の上から当てるなんて……。流石は重火器のお姫様とでも言ったところだろうか。
「いや、でも本当に凄いよ風見さん。ありがとう。君がいなかったら即死だった」
『ふん! ふぇありーばっかりにいい格好はさせないわ』
スピーカー越しだけど、黄色いお気に入りのヘルメットを得意気に被りながらふふんと鼻をならす風見さんの姿が見えるような気がする。
そして僕は、そんな風見さんの様子にニヤリと微笑みながら、『皇帝』を遺跡の側に寄せて停車させた。
ーーーーーーーーーー
「どう? 切り離せそう?」
コックピットから降りた僕は愛銃を片手に、『皇帝』の腕部機関銃付近で作業をしている風見さんに声をかけた。
彼女は工具をガチャガチャと『皇帝』の腕にあてがいながら、こちらを振り向かずに答える。
「切り離すのは出来るけど、今は絶対に敵を近寄らせないでね」
「わかってるよー」
完全に役目を終えた、という訳ではないけれど今『風見ガトリング』を風見さんに切り離してもらっている。もう右腕部の負荷が許容量をオーバーしてしまっているのだ。なのでいずれこのままでは『皇帝』の右腕が故障するだろう。だからそうなる前にもう落としてしまおうという風見さんの提案だ。
ていうかあんな武器あってもなくても同じだ。腕が上がらなくなったら威嚇にも使えないし。
あれがあるのとないのとでは腕部の反応速度に大きな違いが出るだろう。
まぁ、早く腕が動いたからどうしたって話にもなるけどさ。
後はできれば首が回転しない故障を何とかしてもらいたいけど、取りあえずは機関銃を取り除いてくれればそれでいい。あんまり作業に時間がかかっても仕方ないしね。
僕は周囲の警戒も行いつつ『皇帝』に目を運び、その様子を観察する。
……それにしても、なんだかボロボロになったなぁ。なんだか嬉しいような悲しいような不思議な気分だ。
『皇帝』は一つの戦闘を行った兵器らしく、泥や土に汚れた機体となって僕の前で鎮座していた。砲弾の破片を受けとめた黒い炭素繊維の盾は複数の欠片をその身に食い込ませており、一部が断裂したかのように裂けている。
そして庇いきれなかった破片の影響かわからないけど、機体の至るところにえぐりとったような傷痕が残っている。幸いなことに装甲を掠めただけのものが多く、装甲を貫通しているものは無さそうだ。
『皇帝』の目のライトも、右目は既に消えて左目だけが鈍く光っている。
まぁこれに関しては消えてもらっても特には差し支えはないんだけどね。
そしてしばらくすると、がちゃん、という大きな音とともに『皇帝』の機関銃が地面に落ちた。機関銃は着地の衝撃でひしゃげてしまい、見るも無惨な様子となってしまった。
これで『皇帝』の武装は『風見砲』を唯一残すのみとなってしまった。
「さて。切り離したわよふぇありー」
「ありがとう! 首の故障って今修理出来るかな?」
「首は無理よ。装甲が変形して食い込んでるもの。もっと重機が必要ね。手元に電導ノコギリならあるから、ある程度装甲を切り離すくらいの応急措置なら出来るけど……」
風見さんは『皇帝』から飛び降りつつ答えた。着地がかなり痛そうだったけど、そりゃあそれなりの高さがあるからねぇ。
「やってもあんまり改善しないと思うわ。時間もかかりそうだしね」
と、痛そうに膝をさすりながらこちらへと歩いてきた。
それにしても、やっぱり首回りの故障は何とかならないのか。まぁ元々『風見砲』を当てられる気はしなかったけど、さらに確率が下がってしまった。
「まぁこればっかりはどうしようもないわ。ふぇありー、次はどうするの?」
「……うーん。そうだねぇ」
僕は被ったヘルメットの位置を直しながら、首をかしげた。すると、ヘルメットから東藤さんの声が聞こえてきた。
『我々が戦闘、そして修復作業をしている間に最前線の戦況は収束に向かっています』
「そうなの?」
『はい。敵裏取り部隊、というより待ち伏せ部隊でしたが、は我々が迎撃したものの、状況としてはやはり前半遅れたことが響き、こちらが劣勢です。』
「そっか……」
『敵の残存兵器としては一台、重戦車が脅威として残っておりますが、こちらにそれを撃ち抜ける火力を持った兵器が残っていません。ある一台を除いて』
「ある一台?」
いきなり矛盾をしたような東藤さんの言葉に首をかしげながら僕は聞き返した。すると東藤さんは小さく息を吸い、覚悟を決めたように呟いた。
『……その兵器は、『皇帝』の『風見砲』です』
厳しい東藤さんの声が僕たちに届いた。
風見さん無双回でした。ちなみに風見さんは最強です。




