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巨大人型ロボットに物理法則を適用したら一体どうなるのだろうか  作者: 勇者王ああああ
悠久機試作16号機『皇帝(ツァーリ)』
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『皇帝』出撃!

 アリシアさんの脅しに近い喝からしばらく経った後、僕は鉄臭く、そして狭苦しいコックピットが迫ってくるような感覚に包まれていた。

 僕は今、『皇帝ツァーリ』コックピット内部で弓佳ちゃんによる出撃の朱鷺の声を今か今かと待ちわびているところだ。


 種々の計器はおおよそ期待通りに動いており、機体の状態が上々であることを表している。もう『皇帝ツァーリ』に火は入った。いつでも稼働可能だ。


 全長18mの巨体に、安定感を求めるために肥大化した下半身。右腕には追加武装のマシンガンを装備しており、左手にはロボットお馴染みの盾を装着している。無論、頭につけた『風見砲』を忘れてはならない。

 漆黒に塗られたその体躯は、見るもの全てを引き込むような雰囲気を醸し出しており、肩に金色で描かれた『皇帝』の文字は美しく爛々と輝いていた。


 今、機体の外部光学センサーから入ってくる外部の情報が目の前のモニターに写し出されている。といってもまだ格納庫内だから、それほど変わった様子はないんだけど……。


 高い。改めて見ても高い。とりあえず高い。


 18mといえばビルの五階部分に相当する。下の方でアリシアさんがこちらへ向けてカメラを回しているが、僕の緊張も合わさって彼女が米粒程度にしか見えない。

 


 僕はそんな自分自身の堅さを取り除く為、僕の右下についているスイッチを押し上げて機体頭部のアイライトを点けた。僕のいるコックピットからは機体の様子が見えないからわからないけど、今ごろ『皇帝ツァーリ』の|視覚センサー(目)は怪しくかつカッコよく光っている事だろう。


 無論意味なんてない。そんなものを求めるのはナンセンスだ。

 まぁ強いて言うなら……目立つくらい。


『ふぇありー! 目のライトついたよ! カッコイィィィィ!!』


 と、興奮したように叫ぶのは弓佳ちゃん。こんな無意味なボタンを付ける事に風見さんは渋い顔をしていたけれど、備えていて良かったと心から思う。

 何となくだけれど、その弓佳ちゃんの様子は僕の緊張した心を癒してくれるような気がした。


『ふぇありーさん。間もなく試合開始時刻です。準備はよろしいですか?』

「僕の方は大丈夫! 機体の調子は?」

『上々です。もっとも、まだ動かしてないですから、どうなるのかわからないですけど』


 と、半ば諦めたような、達観したような、そんな不思議な口調で東藤さんは言った。


 機体の主回転軸に動力を伝達する為のエンジンがけたたましく鳴り響いている。コックピットの真下から聞こえるエンジン音は、腰回りの主要間接部を駆動させているディーゼルエンジンの駆動音で、その大きな出力は戦車にも利用されている事で有名だ。


『いいですかふぇありーさん。度々言っていますが、『桜改』の時のような急激な動作は絶対にしないでください』

「う、うん……」


 東藤さんの言葉に頷きはしたものの、『桜改』は急激な駆動がどうのこうの言う前に壊れた気がするけどそれは黙っておこう。

 

 まぁ今回は前回とは違って『悠久機』を飛行させたりはしないはずだから、やはり一番破損する確率が大きくなるのは『皇帝ツァーリ』を動かした時だろう。


『ふぇありー! 確認だけど主砲は一発しか撃てないわよ!』


 そして今度は東藤さんに割り込むように風見さんからの無線が響いてきた。

 僕たちの絶対兵器『風見砲』。こいつは皇帝ツァーリの右側頭部に装備されている戦車砲だ。だけど反動を吸収する機構を最後まで製作しきれなかったため、一発しか撃てない設計になっている。

 

 本体を守るため、自らを破壊することにより反動を受け持つロマン兵器『風見砲』。うーん、素晴らしいね。標的に当てられる気がしないけど。


『あと副砲はどれだけもつかわからないから、ダメだと思ったらすぐに切り離しなさいよ!』

「わかってるよ!」


 副砲とは風見さんがギリギリに付け足した、碗部マシンガン、『風見ガトリング』だ。ガトリング、と言っても既存のマシンガンをそのまま腕に引っ付けたような突貫工事丸出しの兵器で、撃つことは出来るものの飾り以上の効果は期待しない方がいいというのは風見さん談。


 ちなみに『皇帝ツァーリ』が装備している盾は風見さんがいきなり持ってきた曰く付きの代物。この間、東藤さんが渡していたデータを元に作ったらしく、その素材には研究段階の『炭素繊維』を使っているとかどうとか。

 


『こっちはいい感じに盛り上がってますよー。やっぱり皆さん『悠久機』が気になっているみたいですね』


 僕はひとしきり脳内で皇帝ツァーリを動かしてから、アリシアさんの方へとチラリと視線を向けた。彼女の姿はモニターの端に捉えているだけだが、何となく嬉々とした表情をしているような気がする。


『『皇帝ツァーリ』、『トウドウシステムDX』による制御開始します』

「う、うん」


 『トウドウシステムDX』とは主に弓佳ちゃんと東藤さんが二人で開発していた『皇帝』の制御システムの事だ。RW既存のOSに適したシステムで、生物の歩行システムが適用されている……らしい。様々な状態量を変数として取り込み、それを組み込み関数に対して同期させるとかどうとか。


 僕も手伝ったはずなんだけどなぁ。中身の詳細はほとんどわからない。


『システムによる全モーターの同期制御開始』


 その言葉とほぼ同時に『皇帝』がゆっくりとした周期で振動を始めた。

 これは上手くいっている証だ。人間が完全に静止するのが不可能のように、『皇帝』もシステム制御を開始すると完全には止まらなくなる。


 ……まぁ。この辺りは改善の余地があるかも知れないけど、取りあえずはこれでいい。


『『皇帝』、安定域に収束。問題ありません。……システム、オールグリーンです』


 と、吐き出すように東藤さんは言った。


 その言葉はすなわち、全ての準備が整った事を意味している。『皇帝』を生かすも殺すも、もう僕の裁量次第ということだ。


『よし。……それじゃあ皆、準備は出来たようだね』


 僕が深く息を吐いていると、仰々しい弓佳ちゃんの言葉が聞こえてきた。彼女も緊張しているようで、言葉の端々が震えているような気がする。

 緊張するのも無理もないか。この大会で結果を残さなければ、様々な人たちから罵詈雑言を浴びせられるだろう。それだけならまだいい。最終目的である『悠久機』の量産計画も頓挫しかねない。

 散々僕たちは『皇帝ツァーリ』を煽ってきたんだ。やっぱりダメでした、なんて言えるはずもないという重圧がのし掛かってくる。


 そして、どんな胸中をしているかはわからないけど、弓佳ちゃんは確かにゆっくりと口を開いた。


『……取りあえずあたしが言いたいことは二つ。まずはふぇありー、風子ちゃん、東藤ちゃん。私の無茶苦茶なお願いを聞いてくれて、ありがとう』

 

 弓佳ちゃんの心からのお礼。その言葉を聞くだけで、僕は何となく救われるような気がした。


『当たり前だけど、私一人だけの力じゃこんな大きくてカッコいい機体を作ることなんて出来っこなかった。だから、その、えっと、ありがとう』


 弓佳ちゃんに改めてそう言われると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。礼を言わなきゃならないのは僕の方なのに。

 ドン底にいた僕を救ってくれたのは他でもない弓佳ちゃんだ。あの時の気持ちを僕は一生忘れる事はないだろう。


『これからも私は我が儘を言うと思う。でも、みんな優しいから、文句も言わずに手伝ってくれるよね』


 と、弓佳ちゃんは言葉を続ける。まぁ、文句は言うけど、何だかんだで手伝っていくんだろうね。 

 これまでだってそうして来たんだ。きっとこれからだって続いていける。


『だから、新しい『悠久機プロジェクト』としての、全世界に向ける『悠久機プロジェクト』としての最初の我が儘を聞いてください』


 弓佳ちゃんはそこで一旦言葉を切り、ゆっくりと息を吐いた。


 僕の目の前には、初めて会ったときの弓佳ちゃんが浮かび上がっていた。

 嬉しそうな笑顔を浮かべながら僕を見つけた彼女は、まるで子犬のように近付いてくる。そしてこう言った。


 ねぇ、あなたがふぇありーだよね?


 その笑顔はいつまでもいつまでも僕の中で消えることはなくて。その言葉はいつまでもいつまでも僕の中で回り続けて。


 そして、スピーカーから本物の弓佳ちゃんの声が聞こえてくる。


『これからも、あたし達の巨大人型ロボットを作る為に。これからも、皆で楽しく『悠久機プロジェクト』を続ける為に! 『皇帝ツァーリ』の勇士を世界に知らしめてきて!』


 僕は笑顔で大きく息を吸い、その声に答える。


「了解! 任せて弓佳ちゃん!」



『じゃふぇありー、風子ちゃん。『皇帝ツァーリを頼んだよ?』


 最後に弓佳ちゃんはそう締め括った。

 

 その瞬間、不思議と僕の口角が上がりはじめた。抑えきれない高揚感が僕を絶え間なく襲ってくる。まるで心のそこから僕自身が喜んでいるようで、溢れる情熱がはち切れんばかりに込み上げてくる。


 ついに、待ちに待った瞬間ときが来たんだ。今、この瞬間をもって『皇帝ツァーリ』は世界へと羽ばたくのだ。


 弓佳ちゃんの小さな息遣いが聞こえた。


『『悠久機プロジェクト』、第一戦闘体勢! 『皇帝ツァーリ』スタンバイ!』


 その言葉は僕たちの回りに転移の光子を産み出し、僕の集中力を高めていく。


『了解しました。『皇帝ツァーリ』フルシステムオールグリーン! いつでも出撃可能です!』


『了解! キャプテン・ユミーカの名より命じる! 『皇帝ツァーリ』よ、閃光の妖精ふぇありー・フラッシュの力をもって、その姿を世界へと知らしめてきて!』


 弓佳ちゃんの朱鷺の声と共に、今度は僕を含んだ皇帝ツァーリ全体が光の粒子を帯び始めた。これは転移の証。『皇帝』はこれより戦場へ進む。


 僕は溢れる笑顔を抑えるのを止めて、大きく息を吸った。


「『悠久機プロジェクト』、第一搭乗員エースパイロット閃光の妖精ふぇありー・フラッシュ、行きます!」


 その声と同時に『皇帝ツァーリ』と僕は光の先へと運ばれていった。




 




 














更新遅れてごめんなさい。

オルフェンズ面白いですよね。やはりビーム兵器がないというのもそれはそれで大いにアリですね。決めました。この『巨大物理』(略称を今考えました。タイトル長いので)にもビーム兵器は出さなくてもいい!

単純にビームの理論が思いつかなかったのではありませんよよよ。

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