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悠久機試作15号『桜改』

「感情を処理出来ない人類はゴミと教えたはずですよ。弓佳さん」

「はい……」


 午後7時、CW内の『基地』、ブリーフィングルーム。

 東藤さんの冷たい視線が弓佳ちゃんを絶賛貫き中です。弓佳ちゃんは正座したまま縮こまり、申し訳なさそうに頭を垂れている。


「ま、まぁまぁ東藤さん。弓佳ちゃんも反省しているみたいだし、それくらいにしてあげても……」

「いえ、一応弓佳さんはキャプテンなのですから、逐一敵の陽動に引っ掛かってもらっては困ります。今回は完全に風見さんにいいようにやられているんですし」

「まぁそれはそうだけど……」

「うぅ……ごめんなさい……」


 弓佳ちゃんはますますしゅんとして辛そうに謝罪の言葉を述べた。

 でもまぁ弓佳ちゃんも反省したみたいだし、現実問題彼女を責めても仕方がない。何とかして風見さんの部隊を撃退する方法を練らなくちゃ。



「そ、そうだ! 東藤さん、『悠久機』の改修はどうなったの?」

「まだ弓佳さんの断罪は終わってませんが……まぁ、いいでしょう。『桜』ですが、肩回りの形状を球状よりに変更し、少し装甲を厚くしました。重量は微増したものの、風圧で吹き飛ぶ事はありません」


 すこし物足りないような表情を見せる東藤さんだったが、瞬く間に切り替えてプロジェクターに改修した機体を写し出した。

 すぐに凛とした表情まで出せるのは凄い事だよなぁ。と、思いつつ僕は目の前の映像を眺める。


 そして、そこには以前とは少し異なる『悠久機』が写し出されていた。基本のフォルムは『桜』と変わりはないが、大きな変更点として肩回りが何となく滑らかになっているような気がした。


 そもそも当たり前だが『人型』は空を飛ぶためには出来ていない。流体力学に真っ向から喧嘩を売っている形状なのだ。風向きや突風など様々な事が原因で容易に荷重の集中が起きてしまい、いとも簡単に破壊が発生する。

 もちろん今回は肩回りの形状を変更したものの、今度は逆に肩回りに来ていた負担が別の場所に移っているかも知れないのだ。そういった背反性の確立も設計者の重大な責務だ。


 まぁその辺りはシミュレーションだけではわからないから、実際に作って飛ばさないといけないんだけどね。

 

 もちろん。設計者故のメリットもある。それはあの肩回りの文字だ。以前は右肩に黄金の楷書でかっこよく『桜』と書かれていたのが、今度は逆肩に『改』と付け足されている。


 あれは東藤さんの趣味だろうなあ。カッコいいしなぁ。

 あの辺に自分のロマンを付け加えられるのは設計者冥利に尽きるだろう。


 そして東藤さんは『桜改』の肩回りを指差しつつ口を開く。


「見ていただければわかると思いますが、試作14号機『桜』は以後、試作15号機『桜改』と呼称します。因みに機体の重量モーメントが崩れた点については『SAKURAソード』の重量バランスを変更することで事なきを得ました」


 と、淡々と説明を続ける東藤さん。

 ていうか『桜改』の装備している刀、もう武器じゃなくて完全におもりになっちゃってるじゃん……。まぁ抜けもしない武器をむしろ有効活用している方か。


 しかし、そんな裏事情に微塵も気付く様子のない弓佳ちゃんは、目を輝かせて『桜改』を食い入るように見つめている。


「『桜改』……! かっこいいー!! いけるよ! これなら風子ちゃんに勝てるよ!」

「いえ、どう足掻いても勝てません」


 弓佳ちゃんの期待を一瞬の内にバッサリと切り落とす東藤さん。

 まぁそうだよねー。『桜改』じゃどう逆立ちしたって勝てっこない。逆立ちなんてしたら腕が折れそうだけど。

 そもそも攻撃する手段がないもんね。強いていうなら、体重を生かして踏み潰すくらいかなぁ。


 そして僅かに顔をしかめながら、東藤さんはモニターを指差した。


「現状、『桜改』の走行時推定最高時速は時速30キロメートルです。それに対し、風見さんの『風見レオパルド』は最高時速120キロで、なおかつエリクサー加速装置を使っているので、トップスピードまでものの2.4秒で加速する化物戦車だそうです」


 続いてプロジェクターに写されるのは、特徴的な大きな砲門を装着した戦車『風見レオパルド』だ。車体は目立たない迷彩色の塗装を施されていて、『悠久機』とは事なり実用性に富んだ形状をとっている。

 大きなキャタピラは自らの踏破性能を如実に示しているかのようで、車体後部のガソリンタンクには、エリクサー加速装置らしい装置が備え付けられている。


 そこまで説明すると、東藤さんは手に持っていたペンライトを置き、じっと僕の瞳を見つめてきた。

 

「さて。ふぇありーさん。ここで質問があります」

「ふぇありーって言わないで。うん、なに?」

「具体的にBWの『チーム殲滅戦』とはどういうルールなのですか?」

「あ、あたしも気になる」


 弓佳ちゃんと東藤さんが僕を見つめる。

 いや、ていうか弓佳ちゃん。君はルールも知らないのに戦いを挑んだの?

 と、内心弓佳ちゃんに呆れつつ僕は口を開く。


「五人VS五人で戦うモードの事だよ。基本的に部隊四人と司令官一人に別れて戦闘を行って、全滅した方が負け」

「こちらは三人しかいませんが」

「そうだね。さらに言うなら、弓佳ちゃんも東藤さんもBWに行ったことなんてないでしょ? だから実質的な戦闘員バトラーは僕一人。つまり5VS1って事かな」


 僕がルールを口にすると、その度に弓佳ちゃんが申し訳なさそうに縮こまる。そして、言い終わる頃には東藤さんに彼女は頭をつつかれていた。


「あぅぅ。ごめんなさい」

「厳しい状況ですね。どうするんですか。ふぇありーさんが獲られますよ」

「ま、まぁまぁ東藤さん。多分敵の編成は『風見レオパルド』一両に搭乗者二人、随伴歩兵二人。で来るはずだから、戦車を何とかすればあるいは……」


 なんとかなるのかな? 『桜改』であの化物戦車を何とか出来るとは思えないけど。ていうかせめて遠距離で使える武器でもあればいいんだけどな。


 そして難しい顔をした東藤さんが相変わらず弓佳ちゃんをつつきながら口を開く。


「調べた所によると、敵戦車の射程は約1500m。さらに『桜改』の巨大さから考えてもこちらが近付く前に撃ち抜かれるのは必至です。『桜改』の装甲の関係上、どこに被弾しても損壊、下手をすると一撃で大破なんて事もあり得ます」


 今度は弓佳ちゃんのほっぺを引っ張りながら話す東藤さん。

 東藤さんは怒っているんだろうけど、なんだかこの光景は見ていて微笑ましいなぁ。


「だ、だったら盾を装備はしゅればいいんじゃにゃい?」


 東藤さんに頬を引っ張られ、上手く話せない弓佳ちゃんがそんな提案をした。


「盾……ですか」

「うん! 上手く構えれば戦車砲を逸らすことくらいは出来るだろうし、ロボットアニメでもよく盾を持っているよ?」 

「そう……ですね。どう思いますかふぇありーさん?」

「うーん。歩兵が持っているであろう対戦車兵器には盾があればある程度対応出来るだろうけど、戦車の主砲は無理だろうね」


 敵のカタログを見るに使用砲弾はAPFSDS弾だ。装甲を貫通することに特化した弾で、少々盾を構えた所で何の苦もなく貫通してくるだろう。

 かといって分厚い盾は重くて持てないだろうしなぁ。どうにも八方塞がり感が否めない。


「困りました。まさか戦車一両を破壊するのにこれ程頭を抱えるなんて」

「まぁ戦車は『陸の王者』なんて言われるしねぇ。そうそう簡単にはいかないよ」


 ふーっ、と大きな溜め息をつき、イスに深く座り込む東藤さん。彼女の顔には若干の疲れが見えるけれど、目に宿る聡明な輝きは未だに衰えていない。

 

「わかりました。少し考えますので時間を下さい」


 東藤さんは目を細め、手元のタブレットを操作してなにやら難しそうな顔をした。顔にかかる髪をかきあげ、耳にかけるその姿は惚れ惚れする程可愛らしく、白い肌とプルプルした唇がより一層の美しさを醸し出しているような気がした。


「あ、東藤さん? 一つお願いがあるんだけど……」

「はい? 何ですか?」



ーーーーーーーー




 東藤さんが一人にしてほしいという事なので、僕は弓佳ちゃんと共に『町』へ繰り出して来ていた。

 『町』とはCW(Create World)のオンラインサーバーの事で、多数のプレイヤーやNPCが集まり、商売や飲食、仲間探しなど様々な事が行われている。

 自然が溢れる僕らのCWとは異なり、白い石造りの家や道路が目に次々と飛び込んでくる。さながら中世ヨーロッパを彷彿とさせるその街作りは、初めは違和感を覚えさせたものの、今ではすっかりと慣れ、自分達も街の喧騒に溶け込んでいた。


「ねぇふぇありー。『風見レオパルド』の情報を集めに来たの?」

「それと『エリクサー』を集めに来たかなぁ。あと、少し武器を買おうかな」


 自分達で作った道具や武器を『商品』として売り出す。それもRWの楽しみ方の一つで、ゆくゆくは『悠久機』も売り出したいのが我らのキャプテンの願いだったりする。


「あー! ふぇありーさんじゃないですか! 久しぶりですね! え? 女の子!?」


 と、声をかけてくるのは商店『未来の武器やさん』店長のアリシアさんだ。回りに合わせた白石の店の中から手を振ってくる。


 真っ赤の髪に白い肌。そして燃えるような赤い瞳をその目に宿している生粋の商売人だ。武器屋さん、とは思えない程にRWの情報に精通しているらしく、武器どころか兵器の販売まで行っている凄い人だ。

 『未来の武器やさん』とロゴが入ったエプロンをその身につけていて、顔にはうっすらと泥がついている。


 噂によると、『未来の武器やさん』の収入をリアルマネーに変えて生活しているとかどうとか。


 僕は一応ここの常連で、昔はよくお金を落としていたんだけど、最近BWに行くことが減ったから、ここに来ることもめっきり少なくなった。


「あ! なるほど! NPCですね!? ふぇありーさん、いくら友達が欲しいからってNPC連れ回すのはカッコ悪いですよー」

「いや違うよ!? ぼ、僕だって友達いるもん!」

「えぇー? こんなに可愛らしい子がぁー? 嘘つかないで下さいよぉー」


 なめ回すような視線で弓佳ちゃんを眺めるアリシアさん。弓佳ちゃんは意外と怯えているのか、僕の後ろで縮こまっている。


 ちなみにRWでは現在、仮想アバターを使うことは出来ず、現実世界と同じ姿でプレイしなければならない。なんでも顔を変えられると驚くほど犯罪行為が増加するからとかどうとか。

 だから、基本的に可愛い子を連れていたらその子はNPCである事が多い。特に僕みたいな野良ぼっちプレイヤーが連れている子なんてほぼ100%NPCだろう。


「まぁ、なんでもいいですがね。で? 『未来の武器やさん』にようこそ! 本日はどういったご用件で?」


 怯える弓佳ちゃんなんてどうでもよさそうに、アリシアさんが笑顔を見せる。

 僕は軍服のポケットに乱雑に突っ込んでいた紙切れを彼女に渡しながら口を開く。


「えーっと、このリストにあるものを全部僕のCWに送って欲しいんだけど、出来る?」

「お? 何々? あーはいはい出来ますよ。ですけど……この『風見レオパルド』? あんな最高級戦車もいるんですか? ソロプレイヤーなのに?」


 ふんふんと頷きながら、赤い瞳をこちらに向けてくるアリシアさん。流石は武器屋兼情報屋。これくらいは簡単に用意出来ちゃうか。

 まぁ一言余計だけどそれくらいは許してあげよう。


「うん」

「……はっはーん。さては貴方、『風見鶏騎士団』と揉めましたね?」

「うぐっ! ……どうしてわかるの?」

「風の噂で聞きましたよ。何でも兵器対決だとかどうとか。まぁまさか揉めた相手が貴方だとは思いませんでしたがねー?」


 にやにやと張り付いた笑みを浮かべ、僕の胸をつついてくるアリシアさん。最近は人と接する事が増えた来たものの、こんな行為は本当に照れるからやめてください。


「まぁ私の店で買う分には構いませんが、所詮『風見鶏騎士団』製作の量産機ですよ? あんまりあてにならないと思いますがねー」

「そうなの?」

「えぇ。『風見鶏騎士団』所有の戦車はたぶん、カタログスペックの1.5倍は性能が良いと思っていた方がいいですよ」


 と、言い切るアリシアさん。弓佳ちゃんを見ると、不安そうに揺れる瞳が目に飛び込んできた。

 弓佳ちゃんはやはり縮こまったまま、僕の袖を掴んでくる。そして、おずおずと口を開く。

 

「ねぇふぇありー。……あたし達勝てるの?」 


 少し震える声にはいつもの覇気はない。 

 あぁ。そうか。この子はアリシアさんに怯えていたんじゃなくて、僕達が勝てるかどうか不安なのか。一応キャプテンとして僕が獲られないか心配してくれているようだ。


「うーん。まぁ頑張って、運が良ければ……勝てる……かも知れないかな?」


 と、何とも歯切れの悪い返事を返す僕。

 実際問題、果てしなく勝率が低いんだ。『桜改』に何か不思議な力が眠っていて、本番の時にその真価を発揮するタイプの機体だったら良かったんだけどねぇ。世の中そんなに甘くはない。


「まぁなんにせよ、ふぇありーさんがBWに戻るなら大歓迎ですよ! 頑張って下さいね!」

「ね、ねぇ武器やさんの貴女!」

「あら? 何ですかNPCのお嬢さん?」

「NPC……?」


 弓佳ちゃんが一歩足を踏み出し、アリシアさんに声をかけた。

 ていうか弓佳ちゃん、絶対おすすめNPCの意味わかってないな。まぁまだ会ったことないのか。

 

「ていうか弱点はないの? 『風見レオパルド』の弱点」

「えー? 弱点ですかー? えーどうだったかなー。あ、そういえば最近はこの『激化C4』がうちのトレンドでしてね」

「買った! ふぇありーが!」

「えぇ!?」


 ものの三秒程で契約締結。はぁ新製品かぁ。新製品って高いんだよなぁ。まぁ別にいいけどさ。


「うーん、あと『クランチSMAW』ってのも主流でしてねー。これを買ってくれれば思い出すような……」

「買ったぁぁぁ!」

「弓佳ちゃん!? それって僕のお金だよね!?」

「毎度ありー。うーんそうですねー。『風見レオパルド』の弱点は……」


 

 



 


 

 

 










 ロボットアニメでは、ロボットは人類対人類の戦争の道具として使われるか(ガンダムなど)、それか人類以外の生物と戦うための道具(エウレカなど)として使われることが多いですが、皆さんどっちが好きですか。

 私は前者が好きです。熱いおっさんの会話のドッチボールとか見てると脳汁が止まりませんよね。

 本日も、読んでくれてありがとうございます。

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