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ロマン>物理法則

「きゃっ!!」

 こんな風に僕から女の子にぶつかりに行くなんて本当に何年振りだろうか。

 風見さんの、茶色が入った肩まで届く髪を小さく纏めたようなポニーテールが大きく浮き上がり、勝ち気な瞳が驚きに揺れる。

 その柔らかい体とぶつかった瞬間、ほのかに香る優しい匂いが僕の鼻孔を刺激する。ような気がした。

 

 そして僕はその衝撃で尻餅をつくかのように倒れ込み、それこそ恋愛ゲームのテンプレート通りに風見さんとの出会いを果たす……予定だったのだけど。

 しかし彼女は倒れなかった。激突に行った僕は反作用でものの見事に尻餅をつき、それこそ弓佳ちゃんの計画通りの動きをしたのにも関わらずだ。風見さんは余裕で衝撃に耐えきり、そして見下すように僕を睨んできた。


「あなた、どこ見て歩いてるの?」

「ひぃ! ご、ごめんなさい……!」

「……? あなたは……」


 なんだこれ……! ぶつかってきた男を弾き飛ばして、見下すような視線を送る女の子と、送られる僕。

 なんだこれは! 弓佳ちゃん! 君の計画はすでに頓挫の予感がするよ!



ーーーーーー


 時は遡って30分前。



 早朝。午前五時五十分。日が昇り初めて間もなくたった頃。僕は一人で橘宅の門の前で弓佳ちゃんを待っていた。

 昨日のようにRW(Real World)に長く居すぎると、この現実世界の自分の体がとてつもなく重く感じる。ゲームは1日1時間。これは守らないとねぇ。守れた試しないけど。

 そういえば昨日ログアウトしにくかったのは何でだろう。運営から何か発表があったわけでもないし、ただのラグなのかな? いつもならログアウト確認画面も出るのに、それもでなかったし。


 ま、どうでもいいか。


 で、今僕がいる弓佳ちゃんの家は、The・お金持ちと言わんばかりの豪邸で、庶民の僕は前に立っているだけで縮こまってしまう程立派なものだった。

 

 しかも女の子との待ち合わせなんて人生初めてだ。それも可愛い女の子となんて。日も昇りきってないし、待ち合わせの理由も意味不明だけど、そんなことは気にせずこの僕『月島妖精ようせい』のリアル充実っぷりを祝おうではないか。少し前までこの名前のせいで友達もいなかったんだぜ。よく頑張りました僕。ありがとう僕。ありがとう弓佳ちゃん、僕を誘ってくれて。


「何朝からにやけてるの?」

「うわっ! お、おはよう弓佳ちゃん」


 僕が脳内で万歳三唱を行っているといつの間にか弓佳ちゃんが僕のすぐ傍まで来ていたようで、怪訝そうな表情で僕を見つめている。だけどあっという間にいつもの笑顔に戻り、嬉しそうな顔を見せてきた。 

 まずいまずい。すぐ妄想の世界に入ってしまうのは僕の悪い癖だ。最近はやっと『友達』が出来たんだから大切にしないと。


「おはようふぇありー! キャプテンって呼べって何度言わせるの? アホなの?」

「ふぇありーって呼ぶなって何度言わせるの? バカなの?」


 お互いが張り付いたような笑みを浮かべつつそうやって挨拶を済ませる。そして学校へ向けてゆっくりと歩き始めた。


「……で? 何でこんな時間に僕を呼んだの? あらかじめ言っておくけど、僕は戦力にならないよ?」

「ふっふっふー。ふぇありーには大きな役目を用意しているから楽しみにしておいて!」


 口元に手を当て、くつくつと意味深に笑う弓佳ちゃん。

 当たり前だけど、彼女は今日は制服だ。濃い藍色のブレザーに、それと同系色のネクタイ。真っ黒の手持ちの鞄を両手に抱え、いつもの通り目を輝かせながら歩いている。


「具体的に僕は何をするのさ? ていうかそもそも『風見風子』さんのことほとんど知らないんだけど」


 嬉しそうに歩く弓佳ちゃんにそう問いかける。

 風見さんの事は風の噂で聞いたことがある程度だ。何でも東藤さんに次いで学校で二位の成績を修めている秀才だとかどうとか。

 僕自身も勉強は比較的得意な方ではあるけれど、東藤さんには全くもって敵わない。そんな彼女と争う位なんだから、風見さんもよっぽどの天才少女なんだろう。


「ふぇありーには風見さんに告白してもらいまーす」

「……は?」


 右手の人差し指を天に掲げ、飛びっきりの笑顔でそう宣言する弓佳ちゃん。

 でたよ。出ましたよ弓佳ちゃんの無茶ぶり。僕は思わず顔が引きつってしまいそうになるのを必死で堪えながら弓佳ちゃんの顔を見つめていると、様々な思いが頭をよぎっていく。


よく知りもしない女の子に告白なんて出来るわけないじゃないか。まともな友達もいない僕が。ていうかそもそも何で僕が風見さんに告白するんだろう。

 

 はぁ。弓佳ちゃんのいい所はグイグイと人を引っ張っていく所だけど、時々今回のように無茶苦茶な難問を出してくるのが玉にきずだ。


 そういえば『桜』の時もそうだった。僕と東藤さんの反対を押しきって『SAKURAソード』を機体に装着させたんだ。武器のない人型ロボットなんていらないんだよ! とか言って。

 言っておくけどあの刀、六メートルという巨大さのせいで抜刀しようものなら慣性力と自重でひしゃげるからね。

 なんという事でしょう。刀を抜くとその瞬間鎌みたいな形状に早変わりです。弓佳ちゃんには言ってないけど。


 そうして呆れ顔で僕が弓佳ちゃんを見つめるのもはばからず、弓佳ちゃんは嬉しそうに『風見さん勧誘計画』を話始めた。


「いくら二年生になって新学期が始まったからと言って、いきなり知りもしないゲームを始めさせるのは不可能だと思うの。しかもあたし達はもう高校二年生だし、大学受験の準備も始めなきゃだし」

「そうだねぇ」

「だから、彼女の生活に大きな『変化』を与え、戸惑っているうちにうやむやにこちら側へ引き込む! って作戦。引き込むのはあたしがするから、ふぇありーは風子ちゃんを動揺させること!」


 させること! って言われてもなぁ。傍目にしか見たことはないけれど風見さんは近づかないでオーラを放っていた気がするし、そもそも友達もいない僕がそんなチャラ男みたいな真似出きるわけ無いんだけど。


「……何でそんなに嫌そうな顔してるの」

「そりゃあよく知りもしない子に告白なんてできっこないからね」

「別に『好きです! 付き合ってください』って言わなくても、『友達から始めて下さい!』でいいんだよ?」

「いやあんまり難易度変わってないよ……」

「大丈夫! あなたなら出来るよ! 私と東藤ちゃんがわざわざふぇありーを選んだんだよ?」


 一欠片も根拠のない自信だけど、不思議とこの子にそうやって断言されるとなんだか出来るような気がしてくる。何でだろう。

 はっ! これが僕の追い求めるカリスマってやつか! 弓佳ちゃんのカリスマが僕に一縷の希望を抱かせているというのか!


「あっ! ほらそこの曲がり角だよ! まずはぶつかって風子ちゃんの気を引くの!」

「ぶつかるの!?」

「そうだよ! よくアニメとかでみるじゃん? まぁふぇありーがパンでもくわえてれば上出来なんだけど」


 だからそんな風に期待した目で見ないでよ。男として断れない雰囲気を作らないでよ! はぁわかりました。やりますよやればいいんでしょ! 必死に!

 こういうところで断れないのも僕の悪い所だよなぁ。イエスマン月島とでも呼んでください。イエスマンふぇありーはやめてください。


「よし! じゃあそこの角で風子ちゃんを待ち伏せだよ!」


 

 



ーーーーーーー







 時は戻って絶賛困惑中です。動揺しまくっているのは僕一人で、風見さんは怪訝な顔を僕にぶつけています。


「えっと……あの、その、話が! あるんだけど……」

「……何かしら」


 そんな嫌そうな顔で僕を見ないで! せっかくな綺麗な顔が台無しだよ! なんて言えるはずもなく、僕はオロオロとしたまま言葉を紡ぐ。


「えっと、あの、えっと、あの」

「何よ」 

「えー、か、風見風子さん」

「だから何よ。さっさと言いなさいよ?」


 えーいままよ! 男は度胸! 盛大に嫌われても構うもんか! 弓佳ちゃん達の期待を裏切る方がイヤなんだ!





「ぼ、僕と友達になってください!」

「……は?」




 いやー! 無理、告白なんて無理! なんだこれは! 僕ただの変な人じゃないか! いきなり激突してきて勝手に倒れて友達になってください宣言。主観的に見ても客観的に見ても立派な変態だよ。

 そして、まるで不審者を眺めるような訝しげな視線が容赦なく僕に突き刺さってくる。やめてください! もう僕のライフは残ってません!

 そして僕が恥ずかしさの海に溺れ死にそうになっていると、おずおずと言った様子で風見さんが僕に話かけてきた。


「話の流れが全く読めないんだけど、いいわよ。友達になってあげても……」

「本当!?」

「え? えぇ。その代わり一つ聞きたいことが……」

「なになに? 何でも聞いて!」


 弓佳ちゃん! やったよ! 僕、友達が一人増えたよ! 当初の目的からは大きく逸脱しているような気がしなくもないけど、僕はやったんだ! 

 そうして、達成感に浸る僕に対して風見さんが質問をしてきた。


「あなたってもしかして『閃光の妖精ふぇありーフラッシュ』?」

「なんでその名を!?」


 風見さんのその言葉は僕の心の底を深くえぐりとるものだった。そして僕の反応を見た風見さんの視線が、怪訝なものから尊敬のそれに変わっていく。


「やっぱり……。実は前からそうじゃないのかと思っていたのよね。よし! ねぇ『閃光の妖精ふぇありーフラッシュ』!」

「やめて! その名で呼ばないで! もう僕はそれを封印したんだ!」


 僕の悲痛な叫びなんてどこ吹く風。風見さんは期待いっぱいの瞳で僕の目を見つめてくる。


「『閃光の妖精ふぇありーフラッシュ』、私の『風見鶏騎士団』に入隊する気はない?」

「だからその名で呼ばないでって! 風見さんって『風を見る』んじゃないの!? そんな名前なのに空気も読めないの?」

「は? 何下らない事言ってんの?」

「ひぃ! ごめんなさい!」


 封印した僕の名前『閃光の妖精ふぇありーフラッシュ』。それは僕がRW内のBW(Battle World)で獲得した二つ名だ。


 僕たちが昨日プレイしていたゲーム『RW』には大きく二つの世界がある。その内の一つは『CW(Create World)』で、僕たちが居たのはその世界だ。種々の素材を広大なオープンワールドから探しだし、様々な道具、家、食べ物、武器、を創造クリエイトする。作り方はそれこそ無限大で、木の棒から銃、戦車、人型ロボットまで作ることが出来る。

 それとは異なり『BW(Battle World)』では、『CW』で作った武器や装備、車両を使い、プレイヤー同士でバトルを楽しむワールドだ。


 まぁ実は『CW』と『BW』の中にはまた様々な世界があるけれど、まぁそれについては今回は関係ない。


 僕は『BW』の日本ランカーで、最高記録は日本三位の成績を修めた事がある。どやぁ。

 で、その時に『閃光の妖精』という二つ名を自称で名乗っていたという黒歴史。


 それにしても『風見鶏騎士団』か。なんだか聞いたことがあるような気がする。確かBW用の『戦車』を主力商品として展開しているチーム、だったかな?

 名前から察するに、もしかして風見さんが代表だったり?


「で? どうなの『閃光の妖精』? 『風見鶏騎士団』に入隊してくれるの?」

「え? あの……それは、ちょっと」


 思ったよりもグイグイと勧誘してくる風見さんとは目を合わさないように注意しつつ、目の隅で弓佳ちゃんを探す。ていうかいつの間に立場が逆転したんだろう? 僕が勧誘するはずなのに。

 それより助けて弓佳ちゃん! 僕断るの超絶苦手だから、このままじゃ『風見鶏騎士団』に入っちゃうよ!


「ねぇ? ねぇ? 『閃光の妖精ふぇありー・フラッシュ』なら戦闘員バトラーとしてあっという間に隊長クラスになれるわよ?」

「あー、うーん。そうだねぇ……」

「風見鶏印の超高速バトルタンクは知ってるでしょ? それを運用出来るのよ?」


 近い! 近いです風見さん。

 いつの間にか風見さんは尻餅をついている僕の目線に合わせるようにしゃがみ込み、キラッキラの瞳を僕に向けてくる。

 なんだかいい匂いがするし、勧誘に来たのに勧誘されているという謎の状況に僕はもう抗えません。


「はーいはいはいそこまでだよー!」

「ゆ、弓佳ちゃん!」

「は? 貴女誰? 今忙しいの見てわからないの?」

「よくぞ聞いてくれました! あたしはキャプテン・ユミーカ! キャプテンって呼んでね!」

「弓佳、と言ったかしら? 何の用? 閃光の妖精は私の『友達』よ?」


 友達……! 何ていい響きなんだ!


「キャプテンだってば! ところで風見さん、『悠久機プロジェクト』に参加しない?」

「しないわ」

「まぁまぁ話でも聞いてみてよ。『悠久機』っていうのは、あたしが考えた最強のロボットで、ゆくゆくはRWで一世を風靡しよう考えているの。勿論、貴方がRWで戦車を製造しているのは知っているよ? それをあたしの人型ロボット製作に生かして欲しいの!」

「いやよ、くだらない」


 おおぅ。風見さんは弓佳ちゃんの怒濤の勧誘に全くなびく様子はない。『悠久機プロジェクト』にも微塵の関心も示さないし。

 そしてその様子を見て、キッ、と僕を睨みつける弓佳ちゃん。え、なんで僕の事睨むの? 全然動揺させられてないじゃないかって? 精一杯やりましたよ! 必死に! でもダメだったんです!


 そして弓佳ちゃんの勧誘もどこ吹く風に、風見さんは僕の手を取り真剣な眼差しで僕の目を見つめてきた。

 

 手! 手を握られてるよ! いやぁぁぁぁ! 柔らかい! 風見さんの手柔らかいし暖かいよ!


閃光の妖精ふぇありー・フラッシュ。貴方の噂は本当によく聞いているわ。まさか私にとっての英雄がこんな近くにいるなんて思いもしなかったもの」

「あ、ありがとう」

「だから貴方と一緒に戦いたいの。私達の生産する装備は超一流品よ?」

「ちょ、ちょっ、ストーップ!」


 弓佳ちゃんを押し退けるように僕の勧誘をする風見さんを見て不安に思ったのか、弓佳ちゃんが焦ったように僕と風見さんの間に割り込んできた。弓佳ちゃんによって振り払われる僕と風見さんのつながり。そして代わりに弓佳ちゃんのぬくもりが伝わってきた。

 恥ずかしくて死にそうだ。顔が火照ってまるで火が出ているみたいだ。女の子に触れられるなんて久しぶり過ぎて変な汗が出てきたよ。 


「ダメだよ風子ちゃん! ふぇありーは『悠久機プロジェクト』の一員だから、そっちにはいけないの!」

「そんなの関係ないじゃない。一流の戦闘員バトラーには一流の武器を。こんなこと当たり前でしょう?」

「それでもダメ! ダメだよねふぇありー……?」


 少し心配したような表情で僕を眺めてくる弓佳ちゃん。

 まぁ、良い創造員クリエイターが作った武器で戦闘員バトラーが闘うのは一種の夢ではあるし、RWの遊び方として十二分に王道なんだけど……。

 僕はなるべく頑張って風見さんの目を真っ直ぐに見て、ゆっくりと大きく息を吸った。


「風見さん。ごめんなさい。僕、もうBWは飽きちゃったんだ。だから引退してる」

「飽きた!? あんなに強いのに!?」

「うん。日本ランカーにも入れたしねー。だから僕は戦闘員バトラーじゃなくて、今は創造員クリエイターなんだ!」

「は? ……何よそれ」

「だから、その、えっと、『風見鶏騎士団』? に入ることは出来ないかなー?」


 小学校の高学年から始めたRW。もうかれこれ七年もプレイしているからね。ものを造るCW(Create World)の方は、それこそ想像力が尽きない限り無限大に遊べるんだけど 、なかなかBW (Battle World)の方はそうはいかない。性格的にもあんまり向いてないと思うし。


 まぁ理由はそれだけではないんだけとね。


 そして、驚きと微かな怒りを表情に込めた風見さんが僕の事を真っ直ぐに睨む。


「信じられないわ。BWで勝てば世界クラスの名声と富が手には入るのに……」

「ふっ。一人きりで名声と富を手に入れても虚しいんだよ」


 僕は生粋の野良ぼっちプレイヤーだったからなー。勝っても祝ってくれる人もいないし、富って言ってもゲーム内の貴重な資材の事だし、正直あんな大量の資材使い道ないし。

 あ、今は凄い勢いでなくなってるけどね。人型ロボット製作で。


「じゃ、じゃあ閃光の妖精。貴方は今、何を作ってるの?」

「閃光の妖精って言わないで。今? 今僕が作っているのは……」


 と、言いかけて僕は弓佳ちゃんの顔色を伺う。すると彼女はニヤリと綺麗な歯を見せた後、僕の言葉を引き継いだ。


「よくぞ聞いてくれました! 戦場を駆ける漆黒の稲妻。それは永久に君臨する絶対王者。電光の一撃は山をも穿ち、堅牢な装甲は全てを阻む。その名も『悠久機』!」


 後光を放つかのように輝く少女。橘弓佳ちゃん。通称キャプテン・ユミーカ(笑)。心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべている弓佳ちゃんは、その愛くるしい笑顔を僕と風見さんに向けてそうやって言い放った。

 その様子をみた風見さんは、呆気にとられたように目をパチパチと開閉させている。そんな風見さんを見ていると何となく自分が物凄いバカな事をしているんじゃないかと思ってしまう。

 そして、風見さんが呆れたように大きなため息をついた後、見下した視線を僕達に送ってきた。


「貴方たち……。本当に何もわかっていないようね」

「何がさ! 人型ロボットの良さはこれ以上ないくらいわかってるよ! 戦場で人型という汎用性を生かして、拠点の占領から種々の武器を扱う器用さを兼ね備えた……」

「弓佳ちゃんストップストップ」

「汎用性? 器用さ? はっ! 笑わせないで。人型なんて戦場でなんの役にも立たないわ。貴方達の作る人型ロボットなんて私の超高速バトルタンクの足元にも及ばないわ! そもそも『漆黒の稲妻』って何? お菓子?」

「ブラックサ○ダーじゃないよ! バカにしないで!」


 熱が入りかけの弓佳ちゃんを制すると、畳み掛けるように風見さんが弓佳ちゃんを煽る。いやー! ケンカしないでー!


「はっ! 戦車なんてよわっちい兵器しか作れない人に、『悠久機』の何がわかるって言うの?」

「は? 戦車が弱いですって? 高機動、重装甲、高火力を備えた最強の兵器相手に何を言ってるの?」

「段差があったらそれを登れもしないくせによく強いとか言えるよねぇ? しかも戦車は上面装甲が薄いんでしょ? なら人型ロボットにそこを撃ち抜かれてお仕舞だよ!」

「人型だって足を撃ち抜かれたらお仕舞じゃない」


 もう勧誘なんてそっちのけで激しく火花を散らす二人。今はまだ早朝で人が少ないからいいものの、これがもう少し時間が遅かったら騒ぎになっていたんだろうなぁ。

 そして痺れをきらした弓佳ちゃんが盛大に風見さんに向けて指をさし、声高々に宣言した。


「もー怒った! そこまで言うなら勝負だ! あたしの『悠久機』と風子ちゃんの『バトルタンク』。どっちが強いか清々堂々勝負しようよ!」

「えぇ!? 弓佳ちゃんちょっと待って!?」

「えぇ望むところよ! ただしそっちが負けたら、閃光の妖精はもらっていくから!」

「ふん! ならこっちが勝ったら風子ちゃんには『悠久機』のハードの設計をしてもらうから!」

「えぇいいわ! 私の全ての知識を使って完璧な設計してあげるわよ。だったら勝負は三日後、私の『BW』で、ルールは『チーム殲滅戦』ね」

「わかったよ! せいぜい首を洗って待っている事だね」

「ふん! こちらのセリフよ。それじゃあ三日後。私の『BW』で」


 そこまで言うと風見さんはゆっくりと立ち上がり、僕に向かって可愛らしくウインクをした。途方もない輝きを放つその行為を見ると、僕の心臓は大きく脈打つのを感じた。

 そして風見さんは、じゃあね、と一言だけ言うと、さっと踵を返して学校へ向かって歩きだした。


 そして、しーんと静まり返る住宅街。閑静な様子と小鳥のさえずりがなんとなく心地いい。

 僕はゆっくりと腰を上げて少し茫然としている弓佳ちゃんに向かって手を差し伸べる。すると彼女はしゃがんだまま僕の手を握りしめ、泣きそうな顔を僕に向け、絞り出すような声を出した。


「ふぇありー……。どうしよう……」






 初めまして。勇者王ああああです(最近名前変えました)。好きな作品は『∀ガンダム』です。憧れるロボットは『チェインバー』です。この作品を書き始めて改めて量産機が大好きになりました。

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