キャプテン、『悠久機』に乗りたい!
『皇帝』の再設計を風見さんがしている間、僕は弓佳ちゃんと一緒に東藤さんの『悠久機』制御システムの改良を手伝っていた。と、言うよりほとんどは弓佳ちゃんのパイロット練習だけど。
「違うよ弓佳ちゃん。手動入力を入れ過ぎだよ。もっと自動制御に頼らないと」
「うーーーー」
ここは『ブリーフィングルーム』横にある、『コックピット制御実験室』だ。主に東藤さんと弓佳ちゃんはここで『悠久機』の制御方法を改良している。
僕の目の前にある機械に弓佳ちゃんは乗り込んでいて、これは疑似的に『悠久機』の制御を体験できる、いわば仮想コックピットだ。ここで実際のパイロットの反応速度に合わせた制御式の実験や、『悠久機』との接続部分の調整を行っている。
「難しいぃぃぃぃよぉ!」
「あああ! 適当にやっちゃダメだよ! ……あぁーあー」
ゲーム内部のシミュレーションというと何だか馬から落馬というか、そういう類の重複感を感じるけど、細かいことは気にしない気にしない。
で、弓佳ちゃんの操るシミュレーション内部の『桜改』はものの見事に横転してしまっていた。
「弓佳ちゃん。何度も言っているけど、東藤さんのプログラムに逆らっちゃダメだって」
「うー。わかってるよぉ。わかっているけど難しいんだよぉ」
まぁこうやって偉そうな事を横で言っている僕だけど、そんな僕も相当時間をかけて操作を練習している。
そして仮想コックピットの操縦桿から手を放した弓佳ちゃんは、頬を膨らませながら僕を見る。
「こんなに操縦が難しいの扱えるのふぇありーだけだよー」
「そ、そんな事ないよ。弓佳ちゃんも確実に上達してるよ」
「ていうか何で操縦方法がレバーとボタンなの? 他に方法ってなかったの?」
弓佳ちゃんは疲れてしまったのか、コックピットから離れて近くの椅子へと腰を下ろした。そして疑似コックピットのすぐ近くでパソコンを叩いていた東藤さんがメガネを外しながら振り返った。
「よく言いますよ。昔のマスタースレーブ方式でもひっくり返っていたじゃないですか」
「あ、あ、あ、あれは違うもん! 今よりも難しいもん!」
と、弓佳ちゃんは顔を赤らめて否定する。ちなみに『マスタースレーブ方式』というのは、近代的ロボット操縦法の一つだ。その方法は極めて単純明快で、操縦者とロボットの動きを追従させるというやり方で操作するのだ。
例えば、操縦者が右腕を上げればロボットも右腕を上げる。左腕を上げれば左腕が上がる。といった風に、人とロボットの動きを同期させる事で高い操縦性能を発揮する。
「そういえばどうして『ますたーすれーぶ』ってやめたの? 操縦が難しいから?」
「いえ。単純に『悠久機』が大きすぎて対応しきれなくなったからです」
「……?」
東藤さんの説明がわかりづらかったようで、弓佳ちゃんは不思議そうに首を傾げる。
悠久機も昔は、確か試作10号機くらいまでだったと思うけど、『マスタースレーブ』を採用していた。
が、ある事情によって変更を余儀なくされたのだ。
「……弓佳さん。右腕を上げてください」
「……? 何で……?」
何でと言いつつも、東藤さんに言われるがままに弓佳ちゃんは右腕を上げた。不思議そうな表情で東藤さんを見つめている。
「はい。ありがとうございます。今、正確に測ったわけではありませんが、弓佳さんが右腕をあげるのに0.5秒かかりました」
「……? うん」
「弓佳さんの腕の長さを0.7mとすると、上昇距離は1.4mですね」
「そうだね」
「それに対し『悠久機』の大きさは弓佳さんの約12倍ですので、弓佳さんの動きを悠久機に適応しようとすると、単純計算で16.8mを0.5秒で持ち上げる計算になります」
と、淡々と東藤さんが弓佳ちゃんに説明をしているが、その表情はどこか寂しそうだ。実際、僕たちは一時期『マスタースレーブ』を採用していたし、そのノウハウも残っている。東藤さんからしたら少しもったいないという気持ちがあるのだろう。
「それが何か問題があるの?」
「16.8mを0.5秒で持ち上げたら遠心力と慣性力で腕と手が吹き飛びます。というよりそもそもそれだけの出力を確保出来ません」
「……あー」
「移動速度の最大値を設定して無理矢理対応する方法もありましたが、それを行うともうほとんど『マスタースレーブ』の意味はありません。そもそも、その時点で人と同じ動きなんて出来ませんし」
そう。結局は強度の問題なんだ。あと出力。
巨大人型ロボットを人間のように作動させたければ、それこそ未来の強度を持った材料が必要だ。
「なるほどねー。じゃあ何でレバーにしたの?」
「厳密に『レバー』という訳ではありませんが、少なくとも想定外の動きは出来ませんので」
僕たちの『1024コントローラー』方式では、自由度が制限される為、設計者の意図しない動きが出来ないし、自動制御の恩恵を多段に受けることができる。
『マスタースレーブ』では想定外の動きが多いため、主に間接部分を中心に破損が発生したり、自動制御が上手く働かなかったりしてしまうのだ。
そして納得したのかしていないのかわからない弓佳ちゃんは少し困ったようにため息をついた。
「人型ロボットを動かすのって難しいねぇ」
これでも稼働当初に比べると相当マシになっている。稼働初期は自動制御がほとんど機能していなかったから、ほとんど手動操作の地獄のようなコックピットだったんだよ弓佳ちゃん。
「まあ、最終的に量産を目標にしているので、弓佳さんくらいには簡単に動かせるような操作方法を作り上げなければなりませんけどね」
「むーっ! ばかにしてー! あたしだっていつかふぇありーのように操縦して見せるもん!」
「ふふふっ。冗談ですよ。期待しています」
メガネを外して笑う東藤さんはいつもとは違う可愛らしい雰囲気に包まれていた。
「あ、そういえばこれの『手動制御』って排除出来るんだよね?」
「え? えぇ。それは可能ですが……。それがどうかしたんですか?」
「別にっ。なんでもないよ」
にしし、と歯を出して笑う弓佳ちゃん。
基本的に弓佳ちゃんの考えは読めないから、こう言った発言は流すに限る。深く掘り出すとまたまた無茶なことを言い出すかも知れない。触らぬ神に祟りなしなのだ。
『ふぇーありー。こっち来てぇー……。手伝ってぇー』
そして弓佳ちゃんが再び仮想コックピットに座った当たりで、スピーカーから風見さんの気だるそうな声が聞こえてきた。
東藤さんはその少し疲れたような声に優しさを感じるような笑顔を見せたあと、小さくため息を吐きつつ言う。
「ふぇありーさん。我が儘な人が呼んでいますよ。行ってあげてください」
「……うん。じゃあ頑張ってね! 行ってくる!」
すると弓佳ちゃんがシミュレーション画面から目を離さずに、いってらっしゃーい、と右腕をひらりと振った。
あ、手動制御中に手を離したりなんかしたら……。
「あああ! また倒れるー! ……あーあ」
がっくりと頭を垂れる弓佳ちゃんに、僕はにこりと手を振り返してから、『制御室実験室』を後にした。
そういえばもうすぐ日5から新ガンダム始まりますね。なにやら敵の装備で強くなるそうですよ。
……規格が合わない装備品なんて使えるわけないでしょうに……。なんて野暮な事は言わずに楽しみたいと思います笑




