第八節~家畜人アキラ~
自殺したと思ったら転生したけど、転生した先はカルト教団の闇サバト会場で何やかやで逮捕されて拷問された。
そのあとで俺があったのは初恋の人だった。そして初恋の人に議論をふっかけられた。そしたら、なんか気に入られた。結果奴隷にされることが決まった
2015/05/24 Ichikawa Chiba
第八節~家畜人アキラ~
「そうでございましたか。では、これでございますね。拝見してよろしいで御座いましょうか」
そう女はいきなり近づいて来て、俺の体をぺたぺたと触る。むせるような香水のきつい匂いが鼻につく。化粧の濃い顔を近づけて瞳を指で開き覗きこむ。唇をめくり歯列を確認し、肩幅を測り、鎖骨を触る。肋骨をなで、太ももに指を這わせる。三十代くらいだろうか。まだ顔立ちは老けておらず、指はすべすべだ。その指がスボンの中に入り、俺の股間を弄り始める。自分のものではない指が俺の息子の上で踊る。確認するように撫で回し、吸い付くような上下運動。彼女の息が俺の首筋にかかる。俺は疲れて、全身痛いのにそんなことも忘れてムラムラした気持ちになってしまう。息子がむくむくと勃ち上がるのを感じる。するとそこで女は俺を離した。
「どっからきたのかしら。不自然に華奢、肌はすべすべで白いわね。都なら好事家のおじさまおばさまに買っていただけるかもしれませんけれど、ここではそんな値段は付きませんでしてよ?」
「ああ、かまわない。とにかく次の市場に出すように言われているんだ」
「あらあら、せっかちなこと、早漏は嫌われますわ」
「それよりも、売りに出してくれるのかくれないのか早く決めてくれ」
俺をここに連れてきた軍人はずいぶんと焦れているようだった。たいして店主の女性は妖艶な雰囲気を振りまきながら言葉を紡いでいる。女は机においてあった世界史の教科書にしかないような長いパイプに火をつけて、煙を出す。紫煙がふわふわと上がって俺の顔にかかる。なにやら計算しているような思案顔の女とイライラする兵士。
「ええ、ええ、もちろんようございますわ。ではこちらの書面に記入おねがいいたしますわ」「ああ、ペンを」
男は卓上に置かれたやたらとカラフルな羽ペンで記入していく。そのあいだ、女はといえば、やたらとすべすべで細い指で俺の体のあちこちをペタペタさわり、時々股間を弄ぶ。俺の息子はそのたびに反応しようとするが、そうすると女はすぐに手を離しまうのだ。
「ではこれで。レートは4分だな」
「結構です。毎度有難うございますわ」
男は俺をおいて出て行く。今俺の手錠は鎖で天井に括りつけられている状態だ。
「ふふ、坊や。可愛いのね。お名前は?」
吐息が俺の耳にかかる
「黎=明(くろい=あきら)」
「クロイアキラ?ずいぶんと不思議な名前なのね。
ふふ、戴国からの逃亡者かしら。このきゃしゃな指は農民や町人ではないわね。男娼かしら?男色楼から?」
そう言って俺の指に指を絡ませる。俺は女の妙に冷たい指を感じ背筋がゾワゾワっとする。生理的に嫌悪感を感じて唇を強くかんで黙っていると、
「緊張しなくもいいのよ。私の名前はサレ、短い間だけどよろしくね」
俺の首筋を舐めた。その後俺は鎖を引っ張られて別の部屋に移動させられる。倉庫として使われているそこは薄汚く、酷く臭った。俺は手錠を天井からぶら下がっている鎖の一本にかけられた。周りを見渡すと他に2人同様の状態になっていた。二人は口に布を被せられているらしくしゃべることもできず俯いている。少し待っていて、とそう言い残して女はどこかへ言った。
数分後、女は食物と飲物をもってきた。昨日と同じ、臭いのきつい香辛料のきいた蒸しパンとビンに入った水だ。サレはわざとそれを高い位置から俺の口に捧げる。空腹に飢えていることを無理やり思い出させられた俺は上向きで屈辱的なポーズでむさぼることになる。その上、水もうまく飲めず、ほとんどこぼしてしまった。
食べ終わるとサレはなれた手つきで俺の口を布で覆って話せないようにしてしまう。布が臭かったので辛いが、息ができないということもない。
手錠が天井から吊り下げられている紐に結び付けられているせいで、腕を下ろせない。空腹は瞬間的に戻り、喉はすぐに乾く。腕が微妙な高さにあるお陰で足だけは座ったり中腰になったり出来る。不思議なものでこういう境遇になってみると、昨日の石の寝台さえも懐かしくなる。ここは人だけじゃなく、どうやら家畜も置かれているらしく、目を凝らしてみれば牛や豚もいるようだ。微かに獣が息をする音も聞こえる。俺が先ほど感じた臭いはそれらの垂れ流す排泄物や獣臭さであったようだ。とても惨めな気持になる。
とは言うものの、ここは夜には火をたくらしく昨日と違って寒くて眠れないことはなさそうだった。気がつくと釣り上げられた腕が痛いのも忘れて眠り込んでしまっていた。
七番目、若葉の月、第一週、第白曜日
七番目、若葉の月、第二週、第蒼曜日
七番目、若葉の月、第二週、第紺曜日
疲れていたのか、翌日も翌々日も痛みを忘れて延々と寝てしまった。そこは薄暗かったし、快適な温度に保たれていたし、寝ているとすべてを忘れられたからだ。自分の惨めさも、釣り上げられて痛む腕も、空腹も。サレは時々来て昨日と同じような屈辱的なやり方で俺に食事を与えた。同様の境遇の他の人には単にパンと水を口に入れさせるだけなのに。
そうして何日か過ぎ去った。俺がここに来てからはや5日、終わることがないと感じるほどに長い苦しみの日々、そして今となっては飛ぶように過ぎ去った日々。未だにわからないことだらけだけども、疲れきっているせいか、すべての不条理に対してどうでもいいとさえ感じるようになっている。釣り上げられた腕は痛く、無理な体制で取れない疲れは倦怠感を引き起こす。思考にかかった霧ははれること無く俺を眠りへと誘う。どうせ俺は無力で虚しいのだ。生きていた頃の日本の我が家のベッドが懐かしい。部屋は清潔で、ベッドはふかふか、食事は美味しく、空腹も乾きもほとんど感じることはない、この現状と比べれば。それでも、それでも自問してしまう。生き返って再びあの生活を送ることと今とどちらがマシだろうかと。それは、答えが出ない虚しい問。問うたところで何ひとつ前に進まないのだから。
一日目:狐耳幼女と怪しげな儀式、逮捕、拷問
二日目:プブリカとの出会い
三日目:売られる
六日目
回想開始
六日後
嵐の演説