第五節~厄介なカノジョ・前編~
自殺したと思ったら転生したけど、転生した先はカルト教団の闇サバト会場で何やかやで逮捕されて拷問された。
そのあとで俺があったのは初恋の人だった。←今ココ
2015/5/15 London waterloo Starbucks
第五節~厄介なカノジョ・前編~
俺は今眼の前にいる少女、俺がかつて焦がれた少女と瓜二つの人になにか言いたかった。本物なのかどうか知りたかった。未だに答えは変わらないのか問い続けたことを知って欲しかった。でも言葉は見つからなかった。そして、まだ冷えることのない頬の痛み、昨日殴られた傷が余計なことをするなと訴えている。
「はじめまして、私はプブリカ=ポプリといいます。」
そう言ってそのひとは俺に手を差し出した。彼女の行動を彼女の隣の長身の女性が静止する。「危険だ。」っと。俺はどうして自分がこんな扱いなのか、危険視されているのか未だにわからない。彼女は少し迷って手を下げた。ついで、俺は諦めを感じる。やはり目の前のこの女性は俺の初恋のあの人ではないのだと。
「では、こちらが件の間諜容疑者ですか」
俺をまじまじとのぞむ彼女の瞳にどうしようもないこそばゆさを覚える。昨日俺を殴った看守が胸を打ってどなる。
「はっ。国境の中立地帯、狐人の寺院跡で確保いたしました。身分を示すものをもっておらず、身分証を要求した所、これを差し出しました。これは明らかに戴国の言葉で書かれており、我が国では制作不可能な高い技術によって作られております」
そういって男は俺の学生証を女性に見せる。何の変哲もないプラスチックのカードには学校名と俺の氏名や学籍番号が書かれていたはずだ。さきほど、プブリカと名乗った女性、俺の初恋の人におどろくほど似た、そのひとは注意深く学生証を手に取り、眺め、明かりにすかしたりしていた。本当に読めていないようだ。言葉は通じているのに、何故普通の日本語が読めないのだろうか。男が続けて報告する。
「また、昨日尋問を試みた所、要領を得ない言動を口にしておりました。
よって、状況証拠から戴国の間諜である可能性が濃厚であると判断しました。今後さらなる尋問を行う予定です。」
やっと、俺は自分の置かれた現状の一端をつかむことができた気がした。とにかく、ここがどこかは分からないが、俺はスパイ容疑で逮捕されて、尋問という名の拷問を受けていたのだ。ここまでの扱いが酷かった理由はこれでなんとなくつかめる。
俺がそんなことを考えているとプブリカと名乗った女性は少し思案して口を開いた。
「興味深いお話、ありがとうございます。
ウィクタ、この間諜はずいぶんと若いようですが、今後どうなるのですか?」
俺の想い人と驚くほどに似通った女性のそばのいる長身の女性が即座に答える。
「おそらく、何週間かの尋問を経て、まだ生きているようだったら、奴隷市場に売りに出すだろう」
長身の女性は事も無げにそう言った。俺にしてみればたまった話ではない、『生きていれば』という仮定がつくほどの尋問とはどれほど凄惨なものなのだろうか。そして、俺は昨日から三度目の皮肉に気がつく。生きていることが嫌で自殺した俺が死の恐怖に怯えているとは。それはとっくに克服されていておかしくないはずではなかったのかと。
「尋問はどのようになされるのですか?」
「通常、手足の指の骨を一本ずつ折っていくな。それでも意識があり吐かなかったら、氷水の中に入れて窒息寸前まで追い詰めるはずだ」
「一連の手続きはなんという法の下で行われているのですか?」
「専用の法はない。市民法の中にこう書かれている『不法滞在、逃亡奴隷、敵性外国人はこれを尋問した上で奴隷に堕とし、捕縛した公的機関がこの販売益を得る』っと。間諜に関してはほとんどそれらしい存在がいないし、戴国からの逃亡農民がこれとして処理されている。先程述べた処置はすべて防務省の省令で推奨されているだけだったかな」
「そうですか。逃亡農民にしてはずいぶんと華奢な体ですね。少しこの方と話してもいいですか?」
長身の女性が軽くため息を付き。尋問官の男は媚びへつらったように許可する。
「今の話は理解できていますか?あなたが私の言葉を理解できているならば、生命の危険、死すより辛い拷問が目前に迫っていることがわかりますか?」
おれは、何度も聞いたことのある、そしてかつて俺にとてもつらい別れを告げたあの声でこう言われた。俺は力強く頷く。
「言葉は通じるようですね。」
そう満足そうに言ってこういった。
「あなたがどこから来たのか知りませんが、あなたは戴国の間諜であると考えられています。我が国はかつて戴国の省として赤貧にあえぎ、搾取されていました。そして未来をつかむために戴国と長年に渡る苦心惨憺たる独立戦争を戦い、そして独立したのです。だから、戴国は憎い。あなたが戴国の人間であるかどうか、私は確信が持てませんが、その上で私の問にきちんと答えてくれるならば、私はあなたを弁護出来るかもしれません」
「どうすればいい?」
「私の質問に答えてください。心底考えて、あなたの信じる答えを。それが正義であるなら私はあなたを助けましょう」
俺はゆっくりと頷いた。それ以外に選択肢があっただろうか?
部屋にいた何人かは皆、当惑した表情をしていた。
そして俺も同様に急な話に少々面食らっていた。それでも、ここに来てからはじめて現状を変えるチャンスだ。みすみす捨てるよりはダメ元で答えるほうがまだマシだろう。
「それでは・・・・
『国家』とは何でしょうか?」
わけが分からなかった。一体何が正答なのか。混乱する俺に彼女は微笑みかけた。
痛む頬が考えろと発破をかける。もう殴られるのは嫌だ、骨を折られるのもまっぴらだ、当然、窒息なんてしたくない。恐れるよりも考えねば。そう思考を切り替えようとする。沈黙が痛く。俺に注がれるいくつかの視線がどうしようもないプレッシャーになっている。俺は試されているのだ。
まず、プブリカは『国家』とは何かを問うてきた。国でも政府でもなく、『国家』と言った。これ自体、多分含みがある。そしてありがたいことに、又不幸なことに、政治家の家に生まれた俺は社会については特に入念に教えこまれてきた。そこから導き出される答えは2つのうちのどちらか。俺の憎むべき父親の意見か、愛すべき初恋の人、以東=希の立場かだ。ある意味どちらも正しいが、この女ははたして受け入れてくれるだろうか。
それでも、俺は自分にとって馴染み深い説明をし始めた。
「国家とは城壁のようなものだ。国民が一丸となって建設し、保守整備する。それは外敵から国民を守り、壁の外の無秩序を退け、壁の内側の自由を保証すべきものだ。だからそれは内部の自由を保証し、いかなる外敵に対してもひるまない無敵の権力装置、暴力装置でなければいけない、俺は国家とはそういうものだと思う」
それは幼い日にきいた説明。何度となく父親によって、そして彼によって雇われた家庭教師によって、心に刻まれた刺青。
少女は愉快そうに目を細める。俺の短い言葉を聞いて彼女は何を思うのだろうか?もし、外見どおり彼女が希と同じように考えるならば、きっと反発するだろう。とはいえ、なれない意見を振りかざしたて墓穴をほりたくはなかった。所詮は到底胸を張れない受け売りだというのに。
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主人公自殺転生
一日目:狐耳幼女と怪しげな儀式、逮捕、拷問
二日目:プブリカとの出会い
五日後
回想開始
六日後
嵐の演説