表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女と俺のエレクション  作者: KAMI
第一章~国家~
4/45

第四節~俺は彼女に恋をした~

自殺したと思ったら転生したけど、転生した先はカルト教団の闇サバト会場で何やかやで逮捕されて拷問された←今ここ

2015/05/12 London, Waterloo station, Starbucks

 第四節~俺は彼女に恋をした~


 更に二十分ほど階段をくだらされ、牢屋のような部屋に押し込められる。寝台代わりと思しき長方形の石とその上に無造作に置かれた汚らしい毛布。入り口は鉄の格子戸になっていて、既に銃をもった男が立っている。


 痛い足を引きずりながらやっとのことで硬い石のベッドに寄りかかる。汚らしい毛布でもないよりましだと諦めてひっかぶる。疲れていた。数分後、うとうとしていた所で肩を揺さぶられる。先ほど俺をここにぶち込んだ巨漢の男の片割れだとおぼろげに眠い目で理解した。どうやら彼は衣服と食べ物を持ってきたようだった。


 ゴワゴワした感触の素材が明らかでないズボンとシャツだった。更にビンに入った水と蒸しパンのような丸いパンもある。パンには塩辛い特徴的な臭いの香辛料がかかっていてまずかったけれども、空腹だったからしかたなかった。


 喉の渇きは瓶の水だけでは癒えなかったし、空腹も与えられたものだけでは満たされなかった。それどころか中途半端に飲み食いしたせいで更に空腹を覚え、更に喉が渇いたが、結局疲れがそれら全てに打ち勝った。一瞬で俺は硬い石のベッドに包まれて眠りに落ちた。


 何時間後かわからない。


 カチカチカチカチチチチチチカチ


 耳障りな音。寒い。体の震えは止まらず、歯がカチカチなる。多分その音で目が覚めたんだろう。汚い毛布をめいっぱいかぶり、体を抱く。膝を抱いた手から伝わってくるのは冷たい自分の足、感覚はなくなり、膝を抱く手も弱々しい。それでも寒いことに1つだけいいことがあった。殴られた顔も打ち付けた尻も寒さで気が紛れているせいか、痛みを感じないのだ。冷凍庫の中か、真冬も雪山か。ここで眠ったら死んでしまいそうだ、ただでさえ薄いシャツとズボンしか着ていないのに。


 冷えきった体、惨めな心は更に俺を冷たくする。恐ろしい過去の記憶が、孤独が、責め苛み、独りの寒さが精神を凍結させる。頬を伝う涙だけがただ温かい。すすり泣く中で俺は皮肉なことに気がついた。現世が辛くて自殺した俺がここで再び死の恐怖に怯えている。なんて馬鹿馬鹿しいんだ。死んだとして、失うものはこの不快な環境以外存在しない。


 だから俺は、全て諦め、全て忘れようとして眠ろうとした。歯は相変わらずカチカチカチカチ。そんなことで忘れられるほど過去の記憶もこの寒さも優しくはないと知りながら。


 時間は過ぎる、日付は変わる。時を測れぬ俺の知らぬ内に。


 七番目、若葉の月、第一週、第朱曜日


 何時間経ったのだろうか、一時間?二時間?五時間?三十分?突然毛布を剥ぎ取られる。歯がカチカチいう音を聞きながらうとうとしていた俺は外気に晒され一瞬で覚醒させられる。毛布を剥ぎとったのは昨日あった男たちとは又別の男だった。ボトルにはいった水を渡され、ついてこいと言われる。俺は即座にボトルに口をつける。氷のように冷たい。体が内側から冷えていくのを感じる。冷たすぎて、長く口をつけていられない。それでも、俺はのどが渇いていた。意識すれば空腹でもある。どんなものでもないよりマシだった。 何度とない冷たさにボトルから口を離しながら、一滴も残すまいと必死で俺は飲んだ。ただの水にこれほど価値を感じたことが今まであっただろうか。こんなに飢えて、こんなに乾いたことが今までの人生であっただろうか。


 飲み終わるのを見ると、男は俺の手錠に紐をかけて引っ張った。俺はしかたなく歩き出す。とはいえ、頬と尻が痛く、寒さに傷ついた足はガクガクする。これもまた初めての体験だ。俺はこのセカイにきてから呪った。過酷な世界が嫌で自殺したのに、こちらのほうがある意味ずっと肉体的に辛い。きっとここは地獄なのだろう閻魔様も鬼もまだ見ていないけれども、これから会えるに違いない。地下のこの牢は昨日と同じようにアルコールランプのような青白い光でぼうっと照らしだされていた。青い炎は美しいけれど、もとても冷たい、だからこんなにも寒く感じるのかもしれない。


 再び30分ほど歩かされる。体は未だに疲れきっていた。とはいえ、心理的にも肉体的にも眠くなるほど余裕が有るわけでもない。混乱と痛みの泥の中で俺は部屋に通された。そこは間取りこそ昨日尋問された部屋と同じだったが、机の上には何冊かの冊子が置かれ、部屋の隅には小さな本棚のようなものもある。また、青い炎も一つではなく、四隅にともされ、比較的明るく照らされていた。昨日俺を殴りまくったキツネ耳の男が立っていて、座るように指示する。もちろん俺の頬は熱く痛みを主張する。


 俺が座ると、昨日の看守が不自然に貼り付けた笑顔でパンをよこし、水も少し渡してきた。さらに氷のように冷たい濡れタオルで俺の顔を拭ってくれさえした。昨日の今日でこの待遇の差は何なのか全く見当もつかない。


 そこに上の方から何人かの足音とがやがや喋る声が聞こえる。


 一瞬後、数人の人々が入ってくる。


 時が止まった気がした。胸が跳ね上がる。それは思ってもいない出会い。


 そこにいたのは一人の女性、少女と形容しても悪くないかもしれない。真新しいシーツのように白く、皺のない肌。堂々とはった胸は慎ましく、全体的に丸みを帯びている。


 ああ、俺はこの人を知っている。


 女性らしい丸みを帯びた体のフォルムと対照的な意志を帯びた強い眼差し。ざっくりショートに切られた艶やかな黒髪は彼女のあり方そのものだった。あの前髪で×印のように交差させられたヘアピンは彼女の反骨の証だった。


 いつも彼女は教室で一人だった。それにもかかわらず、悲しげでも寂しげでもなく常に堂々と小さな胸を張っていた。だから俺は惹かれた。


 その女性は童顔のせいで年よりも幼く見え、しかも背がそれほど高くないので更に幼く見える。プリーツスカートとジャケット、その下に来ているベストがなんとなく高校の制服のブレザーっぽく見えるからかもしれない。


 そう、あの日も彼女はいつもと変わらずすました表情で俺を値踏みしていた。あの瞬間、俺は理解した。それまで俺の心臓はほんとうの意味で鼓動したことなどなかったのだと。だって、こんな時になって、こんな時だからこそ、感じたこともないほどにドクドクと胸を打ち付けている。トクントクントトクトクトトトトと壊れたよう加速度的に全身に血を送りまくる。そのおかげで、多分、俺の顔は本当に真っ赤になっていたと思う。それほどまでに顔が熱かった。それ以上に心が熱かった。そうして待ったのは彼女のただの一言。


「ごめんなさい、私はあなたに惹かれないの。」


 何を彼女がいったのかわからなかった。まったくもってこれっぽっちも理解できなかった。違う、理解したくなかったのだ。だから心が拒否した。俺が欲しかった一言はこれじゃない。圧倒的な現実として彼女は俺に背を向けいってしまう。壁に寄りかかって彼女の後ろ姿を見送ることしかできなかった。今にして思えば。俺が理解できなかったのはどうして彼女が俺に惹かれなかったかということではなくどうして俺に魅力がないのかということだった。自殺するほどまでに悩みぬいたありとあらゆる苦悩の中にきっとそれは含まれている…。

------------------------------------------------

 主人公自殺転生

 一日目:狐耳幼女と怪しげな儀式、逮捕、拷問

 二日目:ヒロイン登場!

 五日後

 回想開始

 六日後

 嵐の演説


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ