第三節~脱がされて~
自殺した俺が目を覚ますとよくわからない儀式に巻き込まれ、そして逮捕された。
2015/06/03London Streatham Coffe NERO
第三節~脱がされて~
数時間後、俺達は鎖に繋がれて山道を延々と歩いていた。足が痛い。わけがわからない。不条理だと嘆いたら思いっきりぶん殴られ、頬が痛くなった。 目から火花が出るというが、確かにそんな感じだった。
わからなかったから考えた。俺に求められているものを。ポジティブシンキングなんて俺には似合わないけれど、訳のわからない状況ではわかることを整理するしかない。
まず、前提としてここは俺の知っている世界ではない。少なくとも日本ではない。日本には軍事機密法なんて法律はないし、こんなに一方的に俺のことを拘束することができるはずはないからだ。
いや、もしかすると警察とかならありえるのかもしれないが、あんな目立つコスプレじみた制服の公的機関はないだろうし。なによりも背中にライフルを背負うなんて自衛隊以外ありえないが、それにしても木の銃床なんて時代がかりすぎている。それに、俺と一緒に連行されている人々の服装だ。ほとんどが粗めのフェルトっぽい生地で出来ている。俺は服飾に詳しくはないので断定はできないが、アクリルとか木綿とかそういうのではなさそうだ。
ぱっと見た感じは中世ヨーロッパとかの服装に見えなくもない。といっても、そんなに詳しく中世ヨーロッパについて調べたことがあるわけでもないので、単なるイメージなのだが。
空は先程と変わらず薄青く、ただ雲だけが形を刻々と変えていく。時は過ぎ去り、太陽は傾く、俺の知っている夕暮れよりも一層紅に染まった空の向こうに俺は建物を見た。
そこは切り立った深い峡谷だった。俺達の行く手には吊り橋がかけられ、谷底から吹き上げる風で揺れている。吊り橋の向こうには切り立った断崖を穿つようにしてたてられた白い建物。中世のお城と言うにはかなり物々しく、色合いに欠ける石づくりの城壁だ。かなり遠くのここからでも見えるそれは近くから見上げればどれほど大きいのか容易に想像がつく。赤く染められたその建物がきっと目的地なのだと直感する。しかし、日は既に傾きかけ、待っているのは夜の帳。俺達の行く手には心もとないゆらゆら揺れる吊り橋。
たじろぎながら、おっかなびっくり前に進むのは俺だけ。俺たちを虜囚にした集団も、俺以外の他の虜囚たちも、皆特に怖じけることもなく橋を渡る。足元がこんなにもふらふらしているのに。そして既に沈んでしまった太陽のかすかな残り香だけが頼りだというのに。
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その建物は堅固な城壁だった。岩棚の上に立てられたそれは威圧するように白く重い。入口は小さく、まるでその城壁の重荷に耐えかねているようだ。
俺を連れてきた者どもは一言二言言葉をかわして俺たちをその中に連れ込む。想像通り石でできたその建物を少しいくと扉があり、地下道のようになっていた。俺だけが他の虜囚達とわけられ、ひたすら下へ下へ急かされる。
荒く掘られた階段は地下へ地下へと深く突き刺さり、いつまでたっても終わりはなさそうだ。実際一時間以上は階段を降らされたが、ついた部屋はまだ階段の途中だった。そこは六畳ほどの広さで、当然窓はなく、青い炎を輝かせるランプが薄暗く部屋を照らしていた。ちょうど理科の実験で使うアルコールランプを大きくしたような炎だ。
部屋の中央には石の机が置かれ、同じく石の椅子がいくつか配置されている。机の向こう側には、男が座っていた。筋骨たくましい中年男だったが、俺にとって驚きだったのはそんなことではなかった。彼の頭には狐の耳が乗っていたのだ。
最初に出会った少女と同様に。それはぱっと見で滑稽、それでも笑えない。何故ならその男が筋骨たくましい巨漢でしかも、額に青筋を浮かべて怒っているように見えるからだ。
「脱がせろ。」
男はそういった。俺の背後に立っていた俺を連行した連中が俺を羽交い絞めにし、服を脱がしにかかる。俺はわけも分からず抵抗したが男たちの力は強くびくともしない。せめて脱がされることに抵抗しようとしてじたばたしていると、
「おい!!」
目の前で太い声がした。さっき座っていた男が目の前にいた。そして、おっさんの方を向いた俺の顔をおもいっきりこぶしでぶん殴ってきた。それはどうしようもなく重い一撃だった。一瞬目の前が真っ白になってワケがわからなくなる、怒りとも悲しみとも付かない感情が先に来て、そのあとで痛みが襲ってきた。感じたことのない焼けるような痛さ。
痛みで動けなくなった俺から男たちが容赦なく服を剥ぎ取る。一体何で俺はこんな目にあっているのだろうか。その問は、心のなかで呪文のように唱えられて消えた。
「そこに座れ」
全裸で転がされた俺は衣服を全て剥ぎ取られ、痛みにのたうっていた。顔を上げるとさっきのきつね耳はすでに机に座っており、机の前の石の椅子を勧められているようだ。扉が開き、屈強な二人の男たちが入ってきてきつね耳の男に何かささやく、男の方は何度か頷いて、何事かささやく。俺としては再び殴られることだけが怖くて、彼らが囁き合うのは言いようのない怖さを感じる。
たとえるならばそれは父親と教師が何がしかささやき合っている、自分の手の届かないところで自分の運命が決定される、そういう恐怖だった。しかも、それを熱い頬が物理的に訴えてくるのだ。
「座れ。」
再び命令される。彼の声は低く、とても冷たかった。
「お前ら、交代だ。」
俺を連れてきた男たちが胸を叩いて部屋を出て行く、俺は恐る恐る手で前を隠しながら座る。石の冷たい感触が裸の肌に直接伝わってくる。残された部屋は俺ときつね耳のオッさんが机で向かい合って座り、俺の後ろに先ほど入ってきた屈強な男たちがたっている。机の上には無造作に俺の服が転がされ、ポケットの中の物(財布、ハンカチ、ティシュなど)が無造作にのせられている。
「さて、では話してもらおうか。」
きつね耳のおっさんがいう。
「何を…喋ればいいんでしょうか?」
俺は素で何を求められているのかわからない。意味がわからない。どうすればいいんだ。
バンっと大きな音を建ててきつね耳の男が机を殴る。
「とぼけるな、この間諜がぁ!!!」
…間諜って何、館長?官庁?ひょっとして間諜か?最初の集団も軍人たちのようだったし???スパイ、俺が?何故?どうして?What?Why?
「どういうことですか?」
俺はよく解らず、いつのまにか敬語で返していた。
喉元をわし掴まれ、持ち上げられる。俺の体全体が宙に浮く。
「しらばっくれるな」
間近で見た男の顔は恐ろしい形相だった。広い額には深く皺が刻み込まれ、目は鋭く光っている。鼻筋は高く通っていて、彼の口からとんだ唾が俺の鼻につく。喉を掴んでいる腕は太く、筋骨たくましい。こんなに人の顔を間近で見たことがあっただろうか、そう頭の片隅で思いつつも、恐怖が頭をしびれさす。
「俺ヴぁ気がづいだらごごにいだんでず。」
やっとのことで喉を出た俺の言葉はかすれてか弱く、しかものどを掴まれているせいでうまく発声できず不明瞭だった。
「俺もどうしてごごにいるかわがらないんでず。全ぐわがらない。」
「小僧が、そんな言い訳が通じると思っているのか。」
バチーンと音がした。俺は何があったのか全く解らず、音を聞いたあとに痛みがやってきたのだ。ぶたれたのだと思う。先程からのあまりの暴力に、俺の思考は停止する。
「いや、だっで、それじかわがらないじ。」
「貴様、此処ではそんな嘘は通用せんぞ。此処に書かれている文字は何だ。戴国語ではないか。」
そう言って生徒手帳を指す。
「え、タイ国語?日本語ですが。」
細く、俺は抗議する。
「ニホンゴとはなんだ。」
俺を元いた椅子の上に投げ捨てるように放り投げる。喉は楽になったもののかすかに痛く、冷たい石の椅子にぶつかった尻が新たな痛みを覚える。
「えっと、今オレたちがしゃべっている言葉じゃないですか・・?」
バチーン、再び殴られる。
「貴様、我らの言葉、リングア・パトリアエを愚弄するのか。この言葉はそのなんとか語などとは断じて違う、繊細で美しいものなんだ。」
どうやら逆鱗に触れてしまったようだ。荒れ狂ったように男が俺を殴ろうとする。そこで先ほど入ってきた男たちが割ってはいった。
何事か囁き合うと
男はいかにも自分を抑えているという表情で、俺を連れて行くように命令する。俺は二人の屈強な男たちに左右を固められながら全裸でその部屋を後にした。殴られ、叩かれ、罵倒された頬は熱い。疲れきって、棒のようになった足はときたま体を支えきれずにバランスを崩してがくっと倒れかかり、そのつど男たちに支えられる。股間ではなれない外気に当てられた一物が縮み上がっている。
タイムライン
主人公自殺転生
一日目:狐耳幼女と怪しげな儀式、逮捕、拷問
六日後
回想開始
六日後
嵐の演説