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エピローグ

 目を開けると、むせかえるような緑のにおいがした。目の前に鮮やかなブルー。あじさいの花が揺れてる。

 はっと気づいてあたりを見回す。風にそよぐ森の木々。すっと立つ白い灯台。その向こうに広がる空はうすい桃色に染まってる。初夏の、夕暮れ時の空だ。

 立ちすくむあたしの足元には、ガラス瓶が転がっている。あたしがあばいた、タイム・カプセルだ。

 スバルに出会った、あの瞬間だ。戻ってきたんだ、あたし。

 あたしの腕。青あざがある。すねにも。ひざにはばんそうこう。スカートは中途半端に長く、髪もぼさぼさで、もっさり。

 確かに、あたしだ。

 にぎりしめていた手を、そっとほどく。たまごのかたちの石。もう、あの銀色の光沢はない。ボタンはついているけど、灰色で、石ころよりも無機質な、ただの物体。

 夢中で石段を駆けおりた。

 堤防の向こうには、海。

 水平線に、赤く丸い日が落ちる。今日という日が海の向こうに去っていくのを、息をつめて見つめる。空は桃色からオレンジ色に、さらに、すみれ色から濃いブルーへと変化していく。

潮は満ちている。はるか遠くに、水平線の向こうにある山がシルエットになって浮かび上がっている。その手前に、小さく、海の上につらなる電柱が見える。

 昼と夜のあわい。一番星がきらりとひかる。そして。

 電信柱の水銀灯に、灯りがともった。灯りは海のむこうへいざなうように、水上にひかりを落としながら、どこまでもゆらめいている。

 止めていた自転車のスタンドを起こす。中学二年、六月のはじめ。明日あたしは、りなに「おはよう」を言おう。志信にも。そして――。

 美凪と、話をしよう。いつもと同じ、くだらない話を。

 自転車をこぐ。鼻歌をくちずさむ。

 明日が、待ち遠しい。


                             END


あと一話、番外編があります。

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