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007

 メイは走り出しながら視点を一体のアンデッドに合わせた。

 対象を認識した事で、敵の頭上に逆三角形のアイコンが浮かぶ。このアイコンのカラーで対象がどういった存在かを知ることが出来る。

 緑が友好的、もしくは非敵対的。黄色が中立、もしくは警戒対象。そして今目の前にいるアンデッドのような赤は敵対的を意味する。

 ユウトの索敵のように目視した敵の一部情報解析やマーキングは出来ないが、こうして対象を視認すれば名前とレベル位はわかる。

 屍肉喰らい。レベル三。

 腐った肉の集合体で、曲がりなりにも人型をしているが指などの細かい部位はない。

 それがメイが現状知り得たこのエネミーの情報だ。


「っふ!」


 鋭い呼気と共に踏み込み、その頭部と思われるところに拳を叩きこむ。

 格闘スキルは無くとも、獣人族特有の筋力と装備品の攻撃力が加わり、それなりの威力になる。

 屍肉喰らいの頭部と思わしき場所に拳がめり込み、腐肉を吹き飛ばす。


「っげぇ! ぐちゃっていった! ぐちゃっていったぞ! きめぇ!」


 叫びつつも踏み込んだ勢いを乗せた蹴りを胴体部に打ち込み、距離を取ろうとしたが、予想以上に体が脆く肉が吹き飛ぶだけで本体は動かない。

 それを見てメイは慌てて背後に跳んだ。

 一拍遅れて、腐肉が鞭のように伸びてメイがいたはずの空間をなぎ払った。

 鞭と言ったが、太さは人の腕ほどある。ずるりと腐肉の鞭は吸い込まれるように本体に吸い込まれ、吹き飛んだはずの部位が盛り上がるようにして再生していく。


「どいて、メイ!」


 そこにユウトが片手剣を構えながら走る。

 剣が僅かな残光の尾を引きながら左から右へと薙ぎ払われた。

 片手剣スキル『スラッシュ』。斬撃の切れ味を上昇させ、相手を切り裂く単発の技だが、隙も小さい優秀な技だ。

 ユウトはそのまま振りぬいた剣を肩に乗せ、一拍止まる。

 スキル発動後の硬直終了と同時に、再び剣が僅かに光を放つ。


「はっ!」


 気合と共に剣が上段から叩き付けられた。

 これも片手剣スキルを取れば最初から使うことの出来る技、『バッシュ』だ。

 剣の切れ味が逆に落ちる代わりに打撃属性のダメージも入るスキルで、硬い甲殻を持つモンスターなどに有効だ。

 上段からのその一撃は脆い屍肉喰らいを縦に切り裂き、その一撃が止めとなったのか屍肉喰らいの体は光の粒子となって消えた。


「倒すまでにメイの打撃二発に俺の片手剣スキル二回か。通路そこまで広くないし、上手く立ち回ればいけそうだね」


 一撃は重そうではあるものの、動きが鈍いため囲まれでもしない限り負ける事はないだろう。

 冷静に分析をするユウトを前に、メイは嫌な感触の残る手をぷるぷると振る。

 当然ゲームなので手に何かついていたりはしないが、見た目があれなだけに、殴った時の水を多量に含んだ泥を殴るような感触は余りいただけない。


(まぁ、慣れるしかないか)


 言葉にせず一人言ちて、メイは通路の奥を睨み付けた。

 入り口付近はまだ灯りがあったのだが、通路の先まではそうした灯りが用意されていないのか、真っ暗で何も見えない。

 まともに進もうと思ったら、暗視などのスキルか、光源を用意しないと進めないだろう。

 そう判断したメイは、召還魔法に指定されている呪文を読み上げる。


『誘いの地より来たれ幻惑の鬼火。サモン・ウィスプ!』


 呪文を唱え終えると同時、メイの眼前に魔法陣が発生する。まるでその魔法陣からにじみ出るように、青とも緑とも言いがたい火の玉が浮かび上がり、周囲をその炎で照らした。


「おー、それが召還魔法か」

「うむ。ちょっと感動するな」


 呼び出したウィスプを指先で撫でながら、メイは自分が呼び出したウィスプを眺める。

 どういうわけかその炎は熱くなく、むしろ温いとさえ感じる。


「ね、どんな感じ? 俺も触って大丈夫?」

「とりあえず熱くもなんともないな。触れるかは当人次第じゃないのか?」


 言いつつ手のひらの上で燃え続けるウィスプをユウトの前に持って行く。

 恐る恐ると言った感じでユウトが手を伸ばした瞬間、威嚇するようにウィスプの炎が燃え盛った。


「わっ」

「ははっ、嫌われたみたいだな」

「えぇー、メイだけずるくない?」

「召還した主とその他では友好度が違うのかもな。ま、とにかくこれで灯りの確保は出来たし、先に進もうぜ」


 まるで手のひらから炎を出しているかのようにメイはウィスプを通路の先へと向け、照らしながら進んでいく。

 その背中を羨ましそうに、そして若干拗ねながら、ユウトはついて行った。

 地上の墓地の規模を見ていただけに、そこまで広くはないだろうと思っていた二人だが、実際に歩いて見ると明らかに広い。

 流石はダンジョンというべきだろうか。ともすればこの街の三分の一くらいの広さがあるのではと思えるのだから不思議な話だ。

 もっとも、それはこのダンジョンの圧迫感から来る錯覚なのかも知れないが。

 このダンジョンは初期に来る事を想定されているのか、細い通路と小部屋が並ぶだけの単純な作りになっている。

 通路も天井も床も代わり映えしない石造りという、似たような光景が続く上に更に天井が低く、メイなどは思い切り跳べば天井に頭をぶつけそうなくらいだ。

 そして出てくるモンスターは当然の如く全てアンデッドで、しかも通路や物影から這い出てきたりするものだからホラー感満載である。

 幸い出てくるモンスターは先ほどの屍肉喰らいにゾンビくらいで、そこまで苦戦はしないものの、二人の精神力はしっかりと削られている。


「……ねぇ、メイ。アンデッドの首幾つ集まったー?」

「あー……こっちは五つ。そっちは?」

「三つ。後二つか……たぶんだけど、これ落とすのゾンビの方だけだよね?」

「たぶんな。つか屍肉喰らいの方が何かを落としたってログは見た事ないぞ」


 最早どっちが死者なのかわからないほど生気の無い表情でメイとユウトが足を引き摺りながら通路を進んでいく。

 ちなみにドロップ品はモンスターによってあったり無かったりするが、ゾンビからはクエストアイテムのアンデッドの首以外にも骨の欠片というアイテムが手に入る。現状、まったく持って欲しく無いアイテムだ。


「もう十体以上は倒したよね? ドロップ率悪すぎ。もうレベル三の真ん中くらいまで経験値溜まってるよ」

「まぁ、普通に考えればドロップ率なんてこんなもんなんだろうけどな。精神衛生上、きつすぎ」


 幸いというべきか、メイがLUKにステータスを振り分けている事もあり、メイのアイテム取得率はユウトよりも高いらしく、目標までの近道にはなっているようだ。

 しかし延々と続く似たようなことの繰り返し、そして今まさに倒したゾンビが何も落とさなかったことにメイの耳と尻尾の毛が逆立った。


「こうなったら……やってやる。ステ振りじゃあ!」

「ちょ、まっ!」


 ついにメイの中で何か切れたのか、凄い勢いでメニューを操作する。慌ててユウトが止めようとするものの、既に手遅れで操作は終わっていた。


「ねぇ、メイ何したの!? 何しちゃったの!」

「ふふ……なに、さっきレベルが上がって振り分けて無かった分のボーナス三ポイントをLUKに注ぎ込んだだけさ」

「何やってんの? 馬鹿なの? 戦闘力上げて数倒したほうが効率良いでしょ? ねぇ、馬鹿なの!?」

「……酷い言われようだな」


 返しに力が篭っていないのは自分でも馬鹿な事をしたと思っているからだろうか。

 メイは冷静になって自分のステータス画面を見る。


プレイヤーネーム:メイ ♂

種族:獣人族(狐) Lv3

ステータス:

STR13(1) VIT12 AGI13(1) DEX8 INT8 MIN8 LUK17(7)


スキル

召還魔法Lv2

調教Lv1

採取Lv1

鑑定Lv4

幸運Lv1


「うん……俺は悪くねぇ!」

「開き直った!?」

「まぁ、やっちゃったもんはしかたないよ。もうさっさとゾンビ狩りつくしてクエスト終わらせようぜ」

「っていうか、メイのステータスって前衛型だよね。なんで召還魔法とったのさ」

「気分。後モンスターと戯れたかったから」

「うわー、てきとーぅ」

「……別に良いじゃないか。殴り召喚師がいたって」


 世の中には先人が残した言葉があるのだ。すなわち『レベルを上げて物理で殴れば良い』。

 この理論はメイも嫌いじゃなかった。

 一点突破型の極振りもロマンなら、こうした無意味な組み合わせで遊ぶのもロマンである。


「さぁ、とっとと終わらせようぜ」

「はぁ……わかったよ」


 呆れ気味にため息を吐いてユウトはメイに従ってついていく。

 幸いと言うべきか、本当にLUK振りに意味があったのかはわからないが、それからすぐに必要な数のアンデッドの首が集まったのだった。


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