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Aki's Works BEST '13 ~ '15

ガラケー戦士パゴスタイン

作者: 木下秋

完全に、趣味で書きました。(アレ、これどっかで聞いたことある……)

 ――ガラケー界の未来を守るため、たった一人で戦い続けるおとこがいた――。


 ――その名もッ!


 ――“ガラケー戦士!”



 ――“パゴスタイン”ッ‼︎(ズッギャアァーン‼︎)

 ――(効果音。そしてタイトルロゴ)



 第48話・最終回「パゴスタインよ。永遠に……」



 前回までのあらすじ


『ガラケーを持つ人、“ガラケー人”による“ガラケー界”と、スマホを持つ人、“スマホ人”による“スマホ界”がいがみ合う世界。不動フドウアキラはどこにでもいる、普通のガラケー人だった。しかし、ひょんなことから“ガラケー戦士パゴスタイン”の力を“受信”し、ガラケー界とスマホ界との戦いに巻き込まれることとなる。


 はじめは戦うことに反発していたがアキラだったが、スマホ界は“世界総スマホ人計画”を立てていて、世界中の人たちを洗脳しようとたくらんでいることを知る。――「洗脳なんて……よくないっ!」と思ったアキラは“パゴスタイン”として、世界征服を企むスマホ界と戦っていくことを決意するのだった。


 それからは、『“トランシーバー師匠”との特訓』、『“トランシーバー師匠”の死』、『“ショルダーホン先輩”との特訓』、『“ショルダーホン先輩”の死』、『敵幹部“タブレット婦人”との許されぬ恋』などがありつつ、なんやかんやあってついにアキラは敵本部、“スマホタワー”の最上階にたどり着くのであった……』




     *




 ――不動アキラが両手で観音開きの大きな扉を開けると、そこは大きな広間になっていた。


 奥には一面ガラス張りの大きな窓があり、外の様子が一目でわかる。――日本一高い建造物である、スマホタワーの最上階。そこには、雷雲が立ち込めていた。稲光いなびかりがカッ、と光ると、暗い室内を瞬間、明るく照らす。


 アキラは、傷だらけだった。――無理もない。たった一人で敵の大群と戦いながら、ここまで昇って来たのである。それでもキリッと太い眉には力が入り、表情には疲れが見えなかった。トレードマークのジーパン、革ジャンは所々破れ、血がにじんでいる。穴あきグローブをはめた拳を握りしめ、右手には折りたたみ式携帯電話型の“受信”デバイス、“ガラケーディン”が握られている。アキラは、室内を見回した。


 右手にはイルミネーションのようにピカピカ光る機械類と、モニターが複数台。そして大きな、タイマーがある。――タイマーには、“00:20:35”とあり、一番右側の数字が“34”、“33”と、すり減ってゆく残り時間を告げる。


 そして左手には――またもや大きな扉。赤と金で装飾された、荘厳そうごんさを感じさせる扉だった。


 ――それが外側から内側に向かって、大きく開かれる。アキラは右手に持ったガラケーディンを、無意識のうちに強く握っていた。――それは強い、“緊張”だった。


「――ヤァヤァ、ようこそ。不動アキラくん。我が“スマホ界”本部、“スマホタワー”の最上階まで、よくたどり着くことができたなァ。……褒めてやろう」


 アキラは、扉を開けた人物を睨みつけた。――“宝生院ほうじょういんキョウ”――。それが、その人物の名だ。――スマホ界を率いる若きリーダーであり、アキラ最大の好敵手ライバルである。


 金色の毛皮で出来たコートを肩にかけ、それを優雅にひるがえす。シミ一つ無い白いジャケット、パンツは発光するように輝き、先の尖ったヘビ皮の靴のかかとが歩くたびにコツッ、と鳴る。


 アキラとキョウがこれまで幾度となく戦ってきたことは、言うまでもないだろう。――そして、アキラが“負け”続けてきたということも――。


「……宝生院……キョウ……ッ!」


 アキラの眼の中で、ほのおが燃える。


「……その様子を見ると、下の階を守っていた“ダーク・トランシーバーきょう”を倒してきたようだな……」


「キサマ……ッ! よくも師匠を侮辱したな……ッ!」


 前回、アキラはスマホ界の科学者達によって蘇らされ、改造された“トランシーバー師匠”を倒し、師匠の心をも取り戻すことに成功したのだが、それももう言うまでもないだろう。


「しかしお前……そんな傷だらけの身体で、この俺様と戦おうっていうのか……?」


 キョウは傷だらけのアキラの姿を見据える。


「それに……見よッ! あのタイマーを! モニターをッ‼︎」


 キョウはアキラの前を優雅に歩きながら横切り、右手の機械類の前に立った。


「このタイマーがゼロになった時……! 世界中のスマホに向かって、洗脳電波が送信される! これによって世界中の人々はガラケーを捨て、スマホ人になるのだ! これによって、憎っくきガラケー界は滅亡! 完全なるスマホ人の世界! “世界征服”が完成するってェわけだッ!」


 キョウは高らかに笑って見せた。窓の外で閃光がまたたき、雷鳴が響く。


 モニターには、世界中の人々がスマホを使っている画面が映し出されていた。日本人らしきアジア人がスマホを扱っているところ。また他のモニターには白人、黒人。南の島らしき海岸を背景バックに現地民がスマホで電話をかけるところから、北国の人間が暖炉の前でスマホを操作するところなど。世界中の人間が、スマホを持っていた。


「このデータを見るがいいッ!」


 ――パチィン!


 ――……ウィィィィン……。


 キョウが指を鳴らすと、機械類の前に白いスクリーンが降りてきた。また、そこから数メートル離れた天井でも動きがあり、プロジェクターが降りてくる。


 プロジェクターはスクリーンに、棒グラフなどを映し始めた。


「これは総務省が調べたデータだ。これによると2010年に9.7%だったスマートフォン保有率――もといスマホ人は次の年から倍々に増えッ! 見よッ! 2012年には49.5%‼︎ そして現在、2015年‼︎ あっという間にガラケー人の数を追い抜き、今やスマホの保有率は驚異の82%だッ‼︎ 俺様たちスマホ人の活動の賜物たまものだッ! データ、嘘つかないッ‼︎」


 ハァーッハッハッハッハッハァー!


 キョウは清々しいほどの笑い声を室内中に轟かせた。


「どうだッ! ここまで来てまだッ! 貴様は“ガラケー”を使い続けるとでも言うのかッ⁉︎ “みんながスマホを使っている”んだぞッ⁉︎ 日本人なら“みんな使ってる”とかに弱いだろう! このアマノジャク野郎がァーッ!」


「クゥッ……‼︎」


 アキラの顔が、苦痛に歪む。


「ならば……今度はこっちが仕掛ける番だッ!」


「なにぃ……⁉︎」


 アキラは扉の外から、ホワイトボードを持ってきた。


「わざわざここまでそれをッ⁉︎」


 キョウは驚きを隠せない。しかし、アキラはそれを気にも止めず、口撃こうげきを始めた。


「この記事をご覧いただきたいッ!」


 ホワイトボードをグルリと裏返すと、そこには大きな紙がはってあった。――さすがアキラ。アナログ派である。


「“ガラケー男子”! ……この言葉を聞いたことがあるか……?」


 キョウの表情に、動揺が走る。


「……どうやら知らないようだから教えてやろう。 これはその名の通り! スマホが普及した今も、ガラケーを使い続けている男のことだッ! この“ガラケー男子”が今……“モテる”と話題なのだッ!」


「ナッ、ナンダッテェェー‼︎」


 ――ドッグォォォォォォォン‼︎


 一際大きないかづちが落ちる。


「ガラケーが今、見直されている! 料金は安く、シンプルな操作性! また、女性からのウケもいい! 実際のアンケート結果の一部を紹介するッ! 三十代女性! 『流行に流されない硬派な感じがカッコイイ』! また、二十代女性! 『メールが丁寧』! 『仕事がデキる感じがする』! ……どうだッ! CDが普及しても“レコード”は最近また売り上げを伸ばしている! 電子書籍が普及しても紙の“本”は未だ確固たる人気! また、“アンティーク”やフイルムを使った“一眼レフカメラ”など、結局人は“アナログ”なものが好きなんだァーッ‼︎」


 ――ビッシャァァーン!


 ――これは実際の雷ではなく、キョウの心の中に響いたショック音である。


「…………どうやら、“プレゼン対決”は互角だったようだな……」



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 二人の間に、緊張が走る。


 キョウはコートを空中に膨らませるように投げ捨て、ジャケットの内ポケットからスマホ型“受信”デバイス、“スマホルム”を取り出した。


 負けじと、アキラも戦闘体制をとる。腰を落とし、足を広げ、左手を前に――顔の高さに上げる。そして、右手のガラケーディンに意識を持ってゆく。


二人は部屋の中心を軸に、ジリジリと時計回りに動いた。――距離をとっているのだ。


 ――その時を待った――。“受信”の時をッ!


 先に動いたのはアキラだった!


「“受信”ッ!」


 そう叫ぶと、ガラケーディンを慣れた手つきでパチンッ! と開く!


 そして、“受信”の為のコード押す!


 “受信”の為のコードとは簡単! ただ、“ガ”、“ラ”、“ケ”、“ー”と押せばよいのだ!


「“ガ”……“ラ”……“ケ”…………」



 ――ポチポチポチポチポチポチポチ……



スキアリッ‼︎」


 キョウが攻撃を仕掛けた! アキラに向けたイヤホン差し込み口から“プラグビーム”が放たれる!


「ッ‼︎」


 アキラはとっさに左手に転がり、ビームを避ける!


「オイ‼︎ “受信”コード入力してる最中に攻撃て‼︎ それって、なんか、そんな…………よくないよっ‼︎」


「前から思ってたけどなっ! お前それ“受信”コード入力すんのに時間かかりすぎなんだよッ‼︎」


 キョウがツッコム!


「それにひきかえ俺様のスマホルムはッ! “フリック入力”に対応ッ!」


 キョウの“受信”コードは“ス”、“マ”、“ホ”! だ!


「“受信”ッ‼︎ “ス”、“マ”、“ホ”!」


 ――シュッ、シュッ、シュッ!


 ――……ピッキィィィィィィンッ‼︎


 前に差し出したスマホルムから、眩い光が発される。光はやがてキョウを包み込み――強靭な鎧へと変貌した‼︎


「“スマホ戦士”ッ‼︎ “トーフォーン”ッ‼︎」


 金色こんじきに輝く鎧。あかきマントが宙になびく。胸にはスマホ画面の“アプリ”を模した“エンブレム”が輝いている。


「先手必勝ッ! “ワイ・ファイ・ウェーブ”!」


 キョウ――もとい、トーフォーンは右手で胸元に輝く一つのアプリ・エンブレムに触れると、強烈な広範囲エネルギー波を発した!


「……ッ! グワァァァァァァァァァァァッ‼︎」


 アキラは後方へ吹き飛び、壁をぶち破る。――周囲には、壁の崩壊による煙が漂う――。


「フン、あっけなかったな……」


 トーフォーンは腰に手を当て、あざ笑うように身体を震わす。


 ――。


 ――……ピッキィィィィィィンッ‼︎


 その時ッ! 雲の隙間から差し込む神々しき太陽光の如くッ! 銀色の光が、周囲を照らしたッ‼︎


「……“受信”ッ‼︎」


 ――煙の中から現れたその銀色の鎧は――


「……世界征服など、オレが許さない」


 ――全ての絶望を消滅させるように――


「……トランシーバー師匠、ショルダーフォン兄貴……タブレット婦人。見ていてくれ……」


 ――直視できないほどに光り輝くッ‼︎


「今まで支えてくれたみんなの為にッ! 地球の真の平和の為にッ! オレは戦うッ‼︎」



「オレは“ガラケー戦士”ッ‼︎ “パゴスタイン”ッ‼︎」



 ――ズッギャァァァァァァァァァァァァァン‼︎‼︎(効果音)



 銀の鎧は恒星のように自ら光を発した。またそれは、なにものでも汚すことのできないような“純真”な光であり、心に罪悪感を持ったものは見つめることのできない“光”だった。――胸に光る九つのボタンは、それぞれの必殺技を発動する為のもの。――いままでアキラが努力し、身につけた輝きだった。


「ぐっ、ぐぅぅぅ……おのれぇぇ…………」


 トーフォーンはうろたえた。――なぜなら――今まで戦ってきた中で一番、アキラ――もといパゴスタインの銀色の鎧が、光輝いていたからだ。


 なぜここまで痛めつけられて、疲労を溜めて――ここまで輝ける……? トーフォーンの中で、疑念と怒りがメラメラ燃えあがる。


「パゴスタインッ‼︎ 決着の時だ……‼︎ ここで貴様の……息の根を止めてやるッ‼︎」


 トーフォーンは胸のアプリ・エンブレムの内の一つに触れた!


「“ブルー・トゥース・ブレード”ッ‼︎」


 トーフォーンの手の内に、蒼き剣が現れる! 青龍刀のような、幅広の剣だッ!


 パゴスタインはそれに対抗するように、胸の“1”のボタンを押す!


「“アンテナ・ソード”ッ‼︎」


 パゴスタインの手の内には銀色に輝く剣が現れた! 一振りすると――


 ――シャキンッ! シャキンッ!


 二段階に更に伸びる! まるでフェンシングで使うような、しなやかな剣ッ!


「ゆくぞッ! ウオォオォオォォオォォオォオオォォォッ‼︎」


「来いッ! ハアァァアァァァァアァアァアアァァァァッ‼︎」


 部屋の中央に向かって駆け出す二人――。


 そして――剣を振り合う!


 ――キィィィィィィィィィィィィンッ!


 細かい火花が散り、鍔迫つばぜり合いが始まるッ!


「くぅぅぅぅぅぅ!」


「負けて……たまるかッ!」


 ――バチィィィィンッ!


 距離をとる二人ッ!


 トーフォーンはまたもや、胸のアプリ・エンブレムに触れた!


「“エル・ティー・イー・ブースト”ッ‼︎」


 ――シュウゥゥンッ!


 トーフォーンが動くと、それと同時に残像が生まれる!


「この速さにッ! ついて来れるかァッ‼︎」


 ――キィンッ、キィンッ、キィンッ、キィンッ、キィンッ‼︎


 パゴスタインは捌くので精一杯! 反撃の隙が全く無い!


「くっ……!」


 タイマーをチラリと盗み見る。“00:05:47”……‼︎ もう残り時間は、五分を切ろうとしていたッ!


「よそ見をしている暇があるのかぁッ⁉︎」


 トーフォーンが大きく力を込めて、横にぐ! パゴスタインは上手く防御ができず、空中に浮かんだ! そこにトーフォーンは横蹴りを叩き込んだ‼︎


「ウグァァァァアァアアァアァァァァァッ!」


 パゴスタインは入ってきた扉にぶつかり、扉を壊しながら部屋の外へと転がり出た。


 トーフォーンは姿勢を正し、いよいよ終わり、といった様子を見せる。兜で表情は伺えないが、声が勝利を確信していた。


「さぁ……お帰りいただこうか……」



 ――ガラガラガラッ……


 パゴスタインが姿を見せる。――しかし、もう鎧の輝きは、ただぼんやり光るのみだった……。


「ハァッ、ハァッ、……ガラケーの頑丈さ……なめんな……」


「フン、満身創痍といった風じゃないか」


 トーフォーンは鼻で笑ってみせる。


「クッ……ソォォォォォォォッ‼︎」


 パゴスタインは胸の“6”のボタンを押した。


「“C・メール・レーザー”ッ‼︎」


 ――ビュイィィィィィン


 パゴスタインの両目から、レーザーが発される。しかし……。


 ――ギィィィィンッ!


 トーフォーンの鎧は、それを弾いた。トーフォーンはそれを避けようとも、防ごうともしなかった。


 ただ、そこに立っていた。



 ――。



 沈黙が、ただ虚しく流れる……。


「もういい。もう残りは三分……。三分で、この世は我々スマホ界のものだ。……お前との戦いもおもしろかったが……俺様には今後の仕事が山積みでな……。ここで、この瞬間ッ! 終わらせてくれるッ‼︎」


 胸のアプリ・エンブレムを、二つ。押した。


「“バッテリー・チャージ”ッ! “プレイン・モード”ッ‼︎」


 ――ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ‼︎


 トーフォーンの金色の鎧が一層光る……! 紅きマントは翼に変わり、ブルー・トゥース・ブレードはパワーをチャージしてフラッシュするッ……‼︎


 ――フゥゥゥゥゥゥゥゥン……。


「ん? ……なんだ……?」


 ――ゥゥゥゥン……。


 突如、光は収まった。翼はマントに戻り、ブルー・トゥース・ブレードがシュンッ、と消えてしまう。


「なんだッ! なっ、なにが起こっている……⁉︎」


「……ふっふっふっふ……」


 パゴスタインが、静かに笑い始めた。――残り時間は、二分を過ぎた。


「なんだッ‼︎ 何がおかしいッ!」


「ようやく効いてきたみたいだな……」


 パゴスタインは不敵に笑い、話を始める。


「スマホは確かに高性能だ……それは認めるよ……。スマホとは、小型のパソコンのようなものだからな……しかし、時にその高性能さが裏目に出るッ……‼︎」


 銀色の鎧が、再び徐々に輝き出す……!


「スマホはッ! “ウイルス”に弱いッ‼︎」


「なッ! なんだとぉーッ!」


 トーフォーンはイヤな予感を全身で感じ始める。鎧の下で、冷や汗をかきはじめていた。


「先ほどのC・メール・レーザー! あれに、“ウイルス”を仕込んで送信してやったのさッ‼︎」


「くぅぅぅッ! パッ、パゴスタインッ! キサマァーッ‼︎」


 膝から崩れ落ちるトーフォーン。鎧の金色の輝きが、パゴスタインのそれと反比例して弱まってゆく。


「“バッテリーの持ちが悪い”、という欠点も見られ始めたようだな。トーフォーン。アプリの使いすぎなんだ」


 パゴスタインは、今までに使ったことのない――胸の“9”のボタンに指をやった……!


「これを使うのは……最初で最後だ……ッ!」


 ――ポチッ


 ――……バリバリバリバリバリバリバリッ‼︎


「行くぞッ‼︎ “バリ・サン・フォーム”だあぁッ‼︎」


 パゴスタインの姿が、より一層、今までで一番にッ! 光ったッ!


 このバリ・サン・フォームによって、パゴスタインのパワーは三倍にまで跳ね上がるッ‼︎


「物理ボタンで鍛えられた指の力を食らえぇぇッ‼︎ “シルヴァー・クロー”ッ‼︎」


 ――ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ‼︎


 パゴスタインは銀色に光り輝く手でトーフォーンの頭を掴むと、渾身の力を込めたッ‼︎


「ギャァアアァアァアァアァァァァアアァァァァッ‼︎」


「ウオォオォォオオォオォオオォォォォォォオォォォッ‼︎」


 そしてッ! トーフォーンを宙に浮かせ、窓の外へとぶん投げたッ‼︎


 ――ガッシャァァァァァァァァァァァァァンッ‼︎


 銀色の光はトーフォーンを包み、光を辺りに放出させて、周りの雷雲を霧散させた。その向こう側からは、青い空が垣間見える。


 パゴスタインは機械類に近づき、タイマーを見た。――残り、三十秒!


 彼は唸り声をあげながら、渾身の力を拳に込めて、機械類をひたすら殴り、破壊した。


 ――どう解除していいのか、わからなかったからだ。


 ――三十秒が過ぎる。


 ――壊れかけたモニターの一つが、平和な姿を移していた。――どこかの国の、どこかの家族。両親と、男の子一人。


 家族はケーキを囲み、誕生日を祝っているようだった。――男の子はプレゼントの箱を開ける。その中には――二台の携帯電話が入っていた――。



     *



 日本で最も高い建造物、“スマホタワー”(635メートル)。その屋上から、男が一人、落ちていた。


 男の名前は宝生院キョウ。――たった今夢敗れた、スマホ界の若きリーダーである。


(……死ぬのか……)


 キョウは、覚悟した。――いずれこうなってしまうかもしれないという覚悟は、前からしていたつもりだった。


 キョウはゆっくりと、目を瞑った――。


「――――ョーーーーーウ!」


 吹き荒れる風の中、キョウは妙な音を聞いた。


「――キョーーーーーウッ‼︎」


 空から降ってきたのは! パゴスタインだったッ!


「⁉︎」


 ――ドッグオオォォォォォォォォォォン‼︎


 すぐ隣で、スマホタワーが爆発する。もし作戦が失敗した時、爆発するように設定していたのだった。


「キョウッ! オレの手に掴まれぇーーッ‼︎」


 パゴスタインは胸の“4”のボタンを押し、“スカイ・メール・ウイング”を背中に装備して、キョウに向かって手を差し伸べる。


 キョウは躊躇しながらも――無意識の内に、手を伸ばしていた。



     *



「……どうして……俺様を助けた……」


 崩壊したスマホタワーの残骸を横目に、脱力した様子のキョウは、同じく疲れきった様子のアキラに言った。


「どうして、って……」


 アキラは、言いづらそうに言う。


「実は……オレ…………」


 キョウの方に、向き直る。


「スマホにっ! 憧れてたんだっ!」


「え……」


 キョウは、口をポカンと開ける。


「……ずっとこだわってガラケー使ってきたけど……ほんとは……スマホだって持ちたかったんだ……」


 手にしたガラケーディンを見つめながら、アキラは話した。


「ガラケーは好きだ。これは、いつまで経ったって変わらない事実だ……でも、スマホだって持ちたいんだっ! だって……便利じゃないかっ!」


 キョウに、訴えかけるように言う。


「“二台持ち”でいいじゃないかっ! ガラケーも持つ、スマホも持つ。これでいいじゃないかっ! オレたちは……ガラケー界とスマホ界は争う必要なんて、なかったんだ!」


「……」


「……“世界征服”なんてそんなのやめて……ガラケー界とスマホ界の争いなんて、そんなのやめて、平和な世界をオレたちの手でっ! つくっていこうぜ!」


「……アキラ……」


 キョウは俯き、目を逸らした。


 そしてゆっくり立ち上がると、どこかへむかって歩き始める――。


「……キョウ……」


 ――。


 ――ザッ。


 キョウが歩みを止め、向こうを向いたまま言う。


「スマホを持ちたいんなら! ……勝手にしろ」


「……ッ‼︎」


「……俺様も持つかもな。……ガラケーを」


 ――キョウは再び、ゆっくり歩き始める。


「頑丈だしな。……もしもの時のために、持ってやってもいい」


「キョウ!」


 アキラは、走り出した。


 真の平和に向かって。――強敵ともと共に。



 ――完――






ちなみに私は、五年前からiPhoneユーザーです。

(3GS→4S→5S)




二台持ちは、考えたこともありません。



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