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永遠の戦士 宇宙編  作者: ブラック無党
千里眼の少女と電子眼の男
7/8

七話

 一隻の高速船がドームの上空で旋回して向きを変え、下部のスラスタを制御しながら降りてくる。

 船の底がポッカリと口を開けるとそこから小型の上陸艇が魚の糞のように切り落とされ、ドーム横のゲートの扉が迎え入れた。

 中央管理棟を覆うドームの中では、ブドヴェクやここから八キロ程離れた場所にある選別場の責任者、この衛星の三施設をまとめあげる所長及び各課の主任達、銃を持った警備員が整列してそれを眺めていた。彼等の瞳はスケジュールにない来訪を目の当たりにして不安に揺れている。――いや、それはいつものことだった。会社から視察が来る度に、勤務地の移動を望む彼等派遣組は恐々とするのだ。

 ゲートをくぐった上陸艇が脚を出して地面に接地を果たすと、横のハッチが外側に倒れタラップが伸びる。そして戦闘用の強化服姿の男達が銃を手に次々に飛び出してきた。

 お世辞にもいい環境とは云えないこの衛星で働く者達はそれを驚きの目で見る。本社の人間が視察に来ることはままあることだが、武装して来ることなどついぞなかった。

 ヘルメットに填まる分厚い丸眼鏡が恒星の輝きを反射してギラリと輝き、迎えの者達を威嚇する。運動をトレースする人工筋肉と中身を保護する鋼鉄の肌で全身を膨れ上がらせた男達は全周に目を光らせながら外を向いて船を囲み、それが終わるとタラップに三人の男女が姿を見せた。

 三人共今までやってきた上の人間とは違っていた。一人は大柄で岩のような身体をスーツで覆っているが、着慣れていないのが一目でわかった。デスクワークよりも外で汗を流している方が似合っている男だ。

 もう一人は茶色い髪の青年で、こちらもスーツを着ているが別の意味で似合っている。真面目に仕事をこなす労働者ではなく、見た目を利用して金を稼ごうとするチンピラのようだった。

 最後の一人は子供だった。金色の緩やかに波がかった髪をふわふわと揺らし、薄紫色のドレスに深靴を履いた姿は自宅の庭でお茶でも飲むような格好だ。

 三人の姿を目にした社員は誰もが目を疑った。どこかの令嬢が護衛と共に不時着をしたのか、それとも間違って降りてきたのかと思えた。

 しかし厳つい男が胸ポケットからカードを取り出し、それを受け取った所長が慌てて頭を下げたのを見て前に倣う。


「よ、ようこそおいで下さいました!」


 所長は綺麗に整地され、露頭する岩のない地面を凝めながら話す。天井の染みを数える生娘のような気分で地面の染みを数えたが、途中で訳がわからなくなった。


「所長のアズールです! 何もないところではありますが、足りないものがあれば遠慮なく仰って下さい!」


 男は頷き、


「顔をあげろ」


 と命令した。その自信に満ちた態度は、それを見た周りの者達に彼の地位が上であると思わせるのに十分であった。

 そしてこの男がそうであるのなら、残りの二人も見た目だけで判断するには危険過ぎ、所長は部下が迂闊な態度に出ないことを心の中で祈る。


「俺はピズ。所属は本社のセキュリュティ開発部だ」


 カードに書いてあることだった。所長は神妙そうに首を縦に振った。この採掘施設を建造した天人採鉱公社の開発部は、技術や製品を開発する部署ではない。話でしか聞いたことはないが、新規の採掘現場を惑星に作る際、作業員に襲いかかる、人を見たら捕食しようとするしか能のない原住生物を焼き払うのが仕事である筈だ。もしそれが事実ならこの男は猛獣並みに危険だろう。そしてまた、開発部は社長が最も力を入れている部署で直属である。この男が誰それはこの地位にふさわしくないと囁けばその者の未来は今よりも暗くなるに違いない。

 しかし――と、所長は眉を顰めた。後ろの少女もそうであるのだろうか。武器を振り回すにはあまりにも似つかわしくなかった。

 おそらくはお偉方の娘かなにかだろう。考えた末、所長はそう自分を納得させた。一から十まで全てを説明する義務など彼等にはないし、知ったところでなにが変わるわけでもない。それにもし好奇心で訊ね、とんでもない事実が判明したならそれこそ薄氷を踏むような時間を過ごさねばならなくなる。


「ところで今回は何用でこちらまで? 私達が気づかぬ問題でも持ち上がったのでしょうか?」


 所長は本題を切り出した。この男が開発部と云ったならそういう扱いをすればいいのだ。それが一番問題が起きない。慣れていることでもある。

 そして訊ねると同時に嫌な予感がした。開発部が来たということはこの衛星に危険な生物が存在するということではないのか。


「視察だ」

「え?」

「今回来たのは視察だよ」


 短く答えたピズに、所長は混乱した頭でなんとか言葉を返す。


「し、しかし、今まで来ていた部署の人達とは――」

「それは視察の対象が違うからだ。先日まとまった数を選別場に無理やりねじ込んだろう? それの影響が出ているのではないかと思ってな」

「た、確かに……採掘現場に異動した者のなかには不満を口にする者もおりましたが……」


 所長は言葉を選んだ。問題が起きたと判断されたくない。しかし何も問題ないと云うのはあからさま過ぎる嘘だった。選別場は採掘場よりも仕事が軽いのだ。きつい方に回された者達が何も感じていないわけがない。彼等はもしかしてそれが原因で暴動でも起きていると予想して来たのだろうか、と思う。だから強化服なのか!


「上から通達のあったとおり、給料は上げてありますし、ずっと続くわけではないと説明して我慢してもらっています」

「詳しい話は移動しながらでも聞かせてもらおう。まずは現場が見たい」

「畏まりました。各施設の責任者に案内をさせます」


 所長は選別場と採掘場の各監督を呼んだ。痩せた男と太った男だ。


「こちらが選別場のリーマン。こっちが採掘場のブドヴェクです」


 紹介されると二人は頭を下げた。

 ピズは自分も背後の二人を呼んだ。若い男と少女が横に並ぶと、


「こっちがジェイク。この娘はドロシーという。今回の視察はこの三人で行う」


 紹介されると、ジェイクという男はニヤッと笑って、


「よろしく頼む」


 と云い、少女は無表情に、


「よろしくお願いします」

「これは可愛らしいお嬢さんだ」


 十にも満たないであろう年齢の少女に、ブドヴェクの緊張で硬くなっていた表情が緩む。普段汗臭い男達や男勝りな女達しか視界にいれることがない彼にとっては思いもがけなかった目の保養だ。少女のここに似つかわしくない出で立ちはブドヴェクに他の惑星の都市周辺にある避暑地を夢想させた。なんでも揃うし、緑もあり、家族が休らう場所である。ブドヴェクもいつかはそのような暮らしがしてみたい。


「こ、こんなところで立ち話もなんです! 今宿舎に案内させますので!」


 しかし所長がブドヴェクの前に身体を割り込ませ、彼に強い目を向けた。  

 ブドヴェクは浮かびそうになる不満を押し殺して後ろに一歩下がる。


「ささ、行きましょう」


 所長は喋らせてなるものかとばかりに、ピズに急いで話しかけた。


「明日のご予定をお訊きしても?」


 今日はもう仕事終わりも近い時間である。視察するなら明日からだろうと考えた所長はそう訊ねた。


「まずは選別場からだ」

「ははっ」

「更生プログラムの一環としてねじ込んだ一団の様子が見たい」

「彼等は皆犯罪者とは思えない程大人しくしておりますが……」

「最初のうちだけかもしれんだろう。定期的に頭を押さえつけておく必要がある」

「そ、そうですな! よく思い出してみれば反抗的な目つきをした奴等が多々おったような気がします!」

「夜までにここで働いている者達の名簿と作業場所の一覧を持ってくるように」

「畏まりました」


 五十人程の数がぞろぞろと管理棟に向かって歩く。三つの施設は全て地下で繋がっている。管理棟の地下から選別場の地下まで向かうのだ。

 先頭をピズと並んで歩きながら、所長はリーマンに目で合図を送った。彼の注意が自分の方を向いたのを見計らい、殆ど声にならない声で、


「問題はないだろうな?」


 リーマンはしっかりと頷いた。


「勿論です。皆大人しく真面目に働いています」

「そうか、そうか」


 満足そうに答えた所長は、次いでブドヴェクに目をやった。

 見られたブドヴェクは予想できていたにも関わらず、え、俺――と訊かれたことに驚いたような素振りを見せる。


「採掘場の方はどうだ? あそこは荒っぽい奴等が多そうだが、喧嘩などしないで仲良く働いているか?」

「勿論です。皆大人しく真面目に働いています」


 ブドヴェクは表情の一切を消して棒のように平坦な口調で喋った。


「採掘は危険な作業ですから。命をかけて相手を思いやらねば生き延びれません」


 この時、ブドヴェクの頭にあったのは命をかけて殺し合いをした男達の顔だった。思いの方向こそ違えど云っていることは嘘ではない。


「移された者達もかね?」


 所長は半信半疑のようだ。彼は異動させた後のことは知らない。だが少なくとも異動の旨を通達した時に不平不満の嵐だったのは知っている。彼等が大人しく仕事に従事しているとは考えにくいのだろう。

 ブドヴェクの心中は散々に乱れた。クソでかい男がシャワー室で五人を惨殺したことを報告したかった。今、その危険な男は独房で牙を砥いでいると! それに異動を腹に据えかねて舐めた態度を取った奴等は全員独房で涙を流している。それがブドヴェクのやり方なのだ。しかし馬鹿正直にそんなことを云えば管理責任を問われてこの忌々しい星から脱出する夢が遠のいてしまうかもしれない。地位的にブドヴェクはリーマンと並んでいるが、どちらか一人が栄転するとしたら汚点のない方が選ばれるのは当然だった。


「移ってきた者達も皆真面目に汗水流して働いておりますです」

「……そうか。なら何も問題なさそうだな」


 所長は安心したように肩の力を抜いた。


「本社の人間に睨まれたら大変だからな」


 後ろをついていくブドヴェクはぼやく所長の背中に声をかける。


「所長、事務所に連絡して準備をさせようと思うのですが、よろしいですか?」

「準備?」 

「はい。危険な道具の使用を一時制限したり、ルートなどを決めなければなりませんので」

「そうだな。万が一ということもあり得るからな。――よし、いいぞ。連絡して準備させるんだ」

「了解しました」


 ブドヴェクは歩幅を小さくすると集団から距離を取った。懐から無線電話を取り出して事務所にコールすると、二コール目の初めで相手が出た。なかなか優秀だ。


『はい。こちらは採掘事務所です』

「私だ。ブドヴェクだ」

『はっ。何かご用でしょうか?』

「用もないのに連絡する馬鹿がいるか」


 ブドヴェクは通話口を手で隠し、声を潜めた。


「今すぐ独房にいる奴等を全部外に出すんだ」

『え? し、しかしそれは――』

「本社の人間が視察にきていることは知っているだろう。明日、選別場を経由して彼等とそっちに向かう。到着までに独房を空にするんだ。それと各部屋の数を均等にしておけ。何も問題が起きていないように見せろ」

『それは、あのでかい男も含めて、ですか?』

「そうだ」

『あの男は正当防衛とはいえ五人も殺しているんですよ!? 野放しにするのは危険かと思われますが……』

「大丈夫だ。こっちには戦闘用の強化服を着た連中がわんさかいる。独房から出す時にそれを伝えて大人しくしているよう釘を刺せ」

『では、五人の死体はどうしましょう』

「なんだとぉっ!?」


 ブドヴェクは慌てて口を押さえて周りに目をやった。チラと見やった所長に愛想笑いを浮かべながら頭を下げて誤魔化し、小さな声で囁く。


「廃坑に埋めて落盤事故として報告をあげるよう云ってあった筈だ。まだ処理してなかったのか?」

『も、申し訳ありません。急ぐとは思わなかったもので……』

「つまらん云い訳はするな。独房にぶち込まれたくなかったらなんとかしろ」

『なんとかと云われましても……』

「子供か貴様は。給料は貰ってるんだろうが。少しは自分の頭で考えんか」

『わ、わかりました。ではすぐに埋めるよう職員達に――』

「馬鹿が。今は作業中だ。見られたらどうする気だ」

『で、ではどうすれば……』

「隠すしかあるまい。有機物再生機のタンクに入れてしまえ」

『………』

「俺は今日から管理棟で食事を摂る。貴様はどうしたい?」

『是非ご一緒させてください』

「うむ。いいだろう。その代わり務めはしっかりと果たせ」

『了解しました』


 ブドヴェクは通話を切った。歩調を速めて前の集団に追いつき、


「通達しました。彼等が来る頃には綺麗な採掘現場が見れることでしょう」


 と所長に小さく云った。











そこはまるで容器の中の水のようにどっぷりとした闇で満たされていた。常人ならば慣れた目であっても己の腕すら見ることは叶わないであろう闇だ。

 部屋の中には一人の男が立っており、脇には毛布と便器があるが、毛布は男がここに入れられた時から僅かも形を変えておらず、便器もまた一度も役目を果たしていない。

 男は闇をものともしない瞳をたった一つだけの出入口に向け続けていたが、ここに入れられて二日程経過した時だろうか、日に二度差し入れられる食事の時間とは違うタイミングで足音が響く。男は誰かが新しく仲間入りしたか、それとは逆に自由の身になるのだろうと思った。

 しかし今回は違った。復数の足音が入り乱れ、次々に鍵が回される。扉が開け放たれ、警備員が中に入れられた者達に、


「出ろ。恩赦だ」


 と告げていた。

 男は扉に空いた格子状の覗き窓から見えるライトの灯りが光度を増していくのをじっと待っていた。コツコツという足音が段々近づいてきて、とうとう目の前の扉の錠に鍵が差し込まれ、単純だが壊れにくい昔ながらの錠前が外される。

 警備員は薄ボンヤリと光る携行灯を独房内に向け、目の前に立っていた男に気づいた瞬間、


「――うおっ!?」


 と驚いた声を出した。


「くそ。驚かせやがって」


 警備員は口の中で罵りの言葉を吐いた。片手は腰に下げた拳銃の銃把を握り締めている。この独房の鍵を開けるのは猛獣の檻を開けるのと同じようなものだったが、中にいる男はサーカスの猛獣よりも危険だ。彼は一歩下がって男と距離をとった。


「出ろ。恩赦だ」


 男は身を屈めて扉をくぐった。いずれ出られることはわかっていた。何故なら男は現在普通の人間として行動しており、犯した殺人の全ては降りかかった火の粉を払ったに過ぎなかったのだから。

 男は警備員と二人で外に向かって歩く。その前を他の独房に入れられていた男達が歩いている。

 出されたのが自分だけではないと知った男は警備員に訊いた。


「あんなクズ共を外に出して大丈夫なのか?」

「お前を出すより悪いことはないだろうよ」

「………」

「………」


 二人は階段をあがって大きな部屋に入った。テーブルと椅子があり、冷蔵庫とモニタ、武器棚が見える。入ってきたところとは反対側にもう一つ扉があった。

 モニタからは娯楽番組が流れていて、テーブルにはカップが四つ置いてある。部屋の中には二十人近い数の男女が並んでいるが、その横では銃に手をかけた警備員が彼等に厳しい目を向けていた。独房にいた者達はやつれてげっそりした顔をしており、男連中は無精髭を生やしている。元は死んでいただろう目には燃えカスが再燃したかの如き煌めきが宿っていた。


「今日からお前達は通常業務に戻る」


 集団の前に立つ警備主任が、彼等の目をゆっくりと見回しながらそう云う。


「特別な計らいで出してやるが、お前達の態度が許されたなどとは露程にも思わないことだ。今度ふざけた真似を仕出かした奴は船賃として有り金全部を巻き上げた後、スラムに放逐してやるからそのつもりでいろ」


 男は腕を組んで、ふむ――と独り言ちた。独房に入れられても反省せずに罪を重ね続ける輩に食わせる飯はないということだろう。

 警備員の一人が大きな箱を持ってきて床に置き、中からタグのついた財布や化粧箱などを取り出すと一人一人名前を呼んで返していく。


「――次! シド!」


 呼ばれた男はズイと前に出た。警備員から鈍色の箱とカードを受け取ると、横で見ている警備主任が囁く。


「今この施設には本社から視察が来ている。護衛付きでな」

「そうかね」


 シドは興味がなさそうに相槌を打った。


「そうだとも。戦闘のプロ達だ。お前がいくらタフだろうと彼等には敵わん。大人しく働くことだな」

「俺はいつだって大人しく働いていた。無用の心配というやつだ」

「初日で独房に入った癖になにをほざくか!」

「あれは正当防衛だ」

「馬鹿を云え! どう見てもやり過ぎだろうが!」

「終わった話をまた蒸し返すつもりか?」


 これは独房に入る前にさんざん話した内容と同じだ。シドはうんざりしたように答える。


「あれは間違いなく正当防衛だったし、その場にいなかったお前達に真偽はわからん」

「痕跡である程度は読み取れる! お前は無傷だったろ!? 明らかな過剰防衛だ!」

「そんなことはない。初見で殺しておかねば後日また襲ってくる。お前は家族がああいった人種に襲われても追い返しただけで安心できるのか?」

「それは……」


 警備主任は言葉に詰まったように沈黙した。


「そもそもあれはお前達の職務怠慢だ。奴等も武器がなかったら俺を襲うことは計画しても、それを実際に行動に移すことはなかった筈だぞ」

「無茶を云うな。お前達は囚人のように扱われたいのか? ただ雇用しているだけの者に持ち物を寄越せなどと云えるわけがなかろう」

「そうか」


 シドは全く信じていない風に薄く笑うと、カードをポケットに入れて箱を持った。


「行っても構わないな?」

「そういう命令だ」


 警備主任は心底嫌そうに肯定した。その顔は後で自分達が出張るような面倒事が起きるに違いないと確信しているようだった。


「絶対に面倒事は起こすなよ。次はもうないと思え」

「肝に銘じておこう」


 シドはない肝に刻みつける。もう暴力は振るわないぞ――と。しかしそれはするりと通り抜けた。そしてシドは胸を張って告げる。


「もう大丈夫だ。俺は平和の人になった」  

「……本当だろうな」

「疑り深い奴だな。お前の臍の緒は二本あったに違いない」

「お前は口と腕、どちらか一方を減らすべきだと思うぞ」


 シドはその言葉を背中で受けた。扉をくぐって部屋の外に出る。向かうのはc四の部屋だ。

 もう今日の仕事は終わっているのだろう。通過する時に扉の向こうからガヤガヤと話し声が聞こえてくる。

 シドがC四の部屋の手前まで来た時、ちょうど男が一人部屋から出てくるところだった。その男はシドに気づくとあっと口を開け、慌てて出てきたばかりのドアに戻る。シドは首を傾げながら閉じられたドアに手をかけて開けた。

 部屋に入ると八人の男達が並んで頭を下げている。


「お務めご苦労様でした!」


 男達は声を大にして叫んだ。

 驚かなかった、といえば嘘になる。しかし、少なくともシドの見かけからそれを読み取ることはできない。彼は人間のように肉体が精神に引っ張られるということがないからだ。だから心中はどうであれ、男達に平然と返す。


「うむ。お前達には苦労をかけたな」

 

 ゴードンと取り巻きの四人を殺したからには作業場からエドワード含めて六人の欠員が出ることになる。仕方のなかったこととはいえ、それをすまなく思う気持ちはシドにもあった。彼等はチームであり、目指すところは一緒であるのだ。

 男の一人がとんでもない、と顔をあげ、シドを奥に誘った。


「ささ。どうぞこちらへ」


 シドが誘われるままに奥に進み、敷いてあるマットに腰を下ろすと、その前面に男達が膝をついて座り込んだ。この光景が部屋に現れるのはまだ二回目だというのに、太古から幾度となく繰り返されてきたかのようにしっくりと空間に馴染む。

 シドは顎を擦りながら口を開いた。


「状況を聞こうか」

「は」


 ゲオルグがにじりっと膝をついたまま近づき、


「状況は芳しくないぜ」

「そうか。やはり数が減ったのが問題か」

「ああ。一人二人ならフォローのしようもあるが、さすがに六人はきつい」

「ふぅむ……」

「……こりゃ今回は諦めるしかないかな」


 シドが頭を悩ませている風なのを見て、男の一人がそう云った。


「諦めるな。こんなものはただの数合わせだ。パズルと変わらん。方法はいくつもある」


 シドは固いようでいて柔軟な発想ができる機械兵()だ。今それが十全に発揮されようとしていた。


「ないところへ、あるところから持ってくる。あるところを削り、ないところと同じにする。ないところを、あるところと同じように見せかける。査定する者の目を潰し、どちらも見えなくする」


 シドは話しながら指を立てて一本ずつ増やしていく。最終的に、シドの手には指が四本も立っていた。


「――見ろ。四つだ。四つも解決方法がある」

「………」


 男達はどうやら信じていないようだった。


「俺は見かけから戦いしかできない男に見られがちだが、実はその他にも得意なことが二つあってな」


 シドはそう云うとゲオルグに顔を向けた。


「なにかわかるか?」

「いや……。盗みとかか……?」

「それは犯罪だろう」


 シドは徴発はするが盗みはしない。中身は同じだが結果が違う。重要なのは云い方だった。


「俺の得意なこととは、まず一つ目は――辻褄を合わせることだ」

「おおっ!」


 空気を読んだ男達はなんとなく驚きの声をあげた。


「そして二つ目は――帳尻を合わせることだ」

「おおおっ!?」

「この二つを得意とする俺は、前の場所では同僚達からこう呼ばれていた――」


 シドは顔をあげて遠くに思いを馳せる男の顔になった。


「『合わせ鏡のシド』と」


 

  

    

書き方を少し変えました

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