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朝靄とトンネルと屋台おじさん

作者: き~

不思議な実体験をお話ししましょう――。




 あれは…

 確か、小3での出来事でしたね。


 朝靄でしょうか…。

 薄明るい霧が立ちこめた、閑散とした広い広い駐車場です。


 多分、遊園地とか動物園とかの駐車場。

 車は1台も停まっておらず、灰色のアスファルトが淡々と冷たく広がっています。


 ここは山の中腹なのでしょうか。

 山特有のあの空気が、鼻を冷たく刺激しています。


 霧に包まれた駐車場の向こうには、緑の山肌。


 無感情なアスファルトが広がるだけの場所にいる事に不安を感じ、白い霧の向こう…山に向かって歩き出しました。



 駐車場を沿うように走る二車線の車道が見えますが、車は1台も走っていません。


 車道は緑深い山へ――山に開いた真っ暗なトンネルへと続いています。



 駐車場と車道の境界に、1台の屋台が停まっていました。


 屋台といってもお祭りの露店タイプではなく、チャルメラのおじさんが牽いていたり、遊園地で土産物やポップコーンを売っているあのタイプの屋台です。


 近寄ると、屋台の周りに子供が数人集まっている事に気づきました。


 屋台の天井に吊された、むき出しの白色電球の灯り。


 屋台の中には、これでもかと並んだおもちゃの数々。


 店主は子供に警戒心を抱かせない、温厚で明るい笑顔のおじさんでした。


 子供達はキラキラした目で品物を見ています。



 店主のおじさんは代金を求めません。

 子供達が「欲しい」と指すおもちゃを、タダで渡しています。


 1人に、ひとつ。


 おもちゃを受け取った子供達は、キャッキャと笑いながら走り去っていきました。


 そして駐車場から相変わらず車が通らない車道へと出て、霧に覆われた暗いトンネルへと消えていきます。



「どれが欲しい?」



 おじさんが私に訊きました。


 私は屋台の中を見回しましたが…、欲しい物がありません。

 その時私はどんなにステキなおもちゃよりも、何故かキーホルダーが欲しかったのです。


 その事を告げると、おじさんは

「じゃあ、今度来る時までに仕入れておくね」

 と、私に笑顔を向け――



 ここで、目が覚めました。



 …そう、これは夢の話。

 皆さんにもあるであろう『よくわからんヘンな夢その1』です。


 起きた直前はヘンな気分になるけれど、時間が経てば思い出せなくなる、ありがちな夢。


 私もその後しばらくは気になりましたが…、いつの間にか夢の事など忘れていました――…。






 夢を見てから、1年ほど経った頃…


 私は薄明るい朝靄が立ちこめている、閑散とした駐車場に立っていました。



 駐車場の外には屋台。

 屋台の周りには数人の子供。


 そして、おもちゃをタダで渡している店主のおじさん。


 1人に、ひとつ。

 その子が欲しいと指すおもちゃを、ひとつ。


 おもちゃを受け取った子供達は、キャッキャと笑いながら走り去っていきました。


 そして駐車場から車道へと出て、霧に覆われた真っ暗なトンネルへと消えていきます。



 私を見つけたおじさんが、子供に警戒心を抱かせないあの笑顔を浮かべ、言いました。




「欲しいと言っていた物を仕入れたよ」




 おじさんは屋台の内壁に掛けていたキーホルダーを手にしました。


 私は「そのキーホルダーが欲しい」と、強く強く思いました。

 それと同時に…、何かが引っかかりました。


 おじさんは変わらないニコニコとした笑顔で、キーホルダーを差し出し続けています。


 私はおじさんに「やっぱり、いらない」と告げ――



 そこで、目が覚めました。



 …目が覚めた私は「以前も夢で、あの駐車場で、あのおじさんに会った事がある」と思い出しました。


 そして、思いました。



 あの場所はどこなのだろう。


 あのおじさんは何者なのだろう。


 あの子供達は誰で、何故あの場所にいたのだろう。


 あの子達は何故、トンネルの中へと消えていったのだろう。


 あのトンネルは何処へ通じていたのだろう。



 あのままキーホルダーを受け取っていたら、私はどうなっていたのだろう――…。


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