89 霊ちゃんの苦手は
「あー、へーわだ」
そして暇だー。
どっすっかな。わざわざ修也ん家までからかいに行くのもあれだしなー。
岳でーい。
『しくしくしくしくしくしくしくしく』
三十六、三十六、三十六、三十六、三十六、三十六、三十六、三十六。
って、え?
今の九九じゃねーよな。泣き声だよな。
「どこだー?」
『しーくしくしく、しくしくしく』
……何かわざとらしく聞こえてきた。
んー、植木鉢の陰に女の子居るけど、無視だ無視。
「へーいわだなー」
『ちょっと! 女の子が泣いてんのよ! 反応位しなさい!』
何コイツ。
「はぁ~」
『えっ!? 嘘!? 見えてるの!』
「見えてねーよ」
『見えてるじゃない!』
見えてねーもーん。
「見えてねー、見えてねー」
『いい加減に死なさい!』
おーい、死じゃねー! しだ! ひらがなだ!
「はぁー。何だよー」
『うふふー、あ・の・ね!』
「聞くのやーめた」
『何でよ!』
いやだって、うっとしかったんだもん。
『聞いてよ!』
「えー」
『聞きなさい!』
「命令形!?」
まーったく、何だよコイツ。
『いーい! 耳の穴かっぽじって聞きなさい!』
「んー、やだ」
『聞きなさいってば!』
「わーったわーった」
耳元で叫ばないでくれー。
『ふふ、あのねー』
うわぁ。声がすっげー変わった。
『あれ? えっと……なんだったっけ……あれー?』
おーい。
「はい、思い出せねーんなら聞けねーなー、残念残念」
『あっ! 思い出した!』
あー……残念残念。
『あのね! プランターの端っこにね!』
プランターの端っこー?
『でんでんむしちゃんが居たの!』
…………。
「……で?」
『かーわいいでしょ! 見てよ!』
「見たら成仏すんのかー?」
『えー……うぅ、分かったわよぅ』
あり? こんなあっさり行くとは思わなかった。
『ほらっ!こっちよ!』
「……って、これ……どっからどーみてもナメクジだろ?」
殻ねーんだけど。
『ええええええー!? いやーっ!!ナメクジいやーっ!』
「え?」
すげー、何かナメクジって分かった途端飛んでった。
……わっかんねーユーレイだったなー……。