71 お兄ちゃんを起こしましょう
「純兄ー!」
「…………すー」
無視されたー。
「起ーきろー」
「…………すー」
また無視されたー。
忍でーす。
純兄がね、いっつもムダに早く起きるのに今日はなかなか起きないんだよ。
えっと……今は、六時。
純兄だったらいつも五時半には起きてるのになー。
あたしは今日早く目が覚めたんだよ。二度寝が出来なかった。
で、純兄に相手してもらおうと思ったらこの状態。
「純にー、上乗るよ?」
「…………すー」
OKとあたしは解釈した!
そーれっ
ぼふっ
「うぐっ」
あ、起きた?
「…………すー」
うぅむ、なかなかしぶとい。
おとーさんなら今ので起きるのに。
うーん、次の手は……。
「純にー、殴るよ?」
「…………すー」
OKと再び解釈した!
とぅ
ぼすっ
……避けられた。
ほんとーに寝てるの?
「純にー、起きないと耳元で叫ぶよ?」
「…………すー」
OKと三度解釈した!
すぅううううっ
「起きろぉおおおおおおおお!!」
「………………すー」
すげぇ、起きない。
岳なら一発なのに。
「ねーちゃん……五月蝿い……」
「あ、丁度いいところに起きたな岳!」
「悪い所に起きたようだからオレ寝る。やーすみ」
くぉら。
昨日もなっくんにおんなじことやられたような気がするぞ。
「岳、純兄起こすの手伝ってよ」
「えー……後がこえーもん。ヤだー」
「そー言わずに」
「どー言わずに?」
そー返されるとは思わなかったよ。
「ヤだと言わずに」
「じゃあ絶対に嫌だ」
強くしないで。
「だからそー言わずに」
「どー言わずに?」
……止めた。無限ループしそうだ。
「お姉ちゃん~、どうしたの~?」
「お、ひーちゃん手伝って」
ひーちゃんと呼んだのは単なる気分だ、うん。
「何を~?」
「純兄起こすの」
「純お兄ちゃん寝てるの~?」
見て分からんかー。
そして手に持っているマッ〇ー(黒)はなんだー。
「落書きしよう~」
おい。
いいね!
「ねーちゃん、光、後がこえーぞー」
『…………』
それもそーなんだけど。
純兄がこんな隙だらけなのも珍しいものでー。
「せめてまぶたに目」
「やめとけって」
「そういえば~」
ん?
「どうして純お兄ちゃん今日は起きるの遅いの~?」
そー言えば。
いや、普通に考えてまだ早い時間帯な気もするけど。
「純兄の机に何か手がかりが」
あった。
一瞬にして見つかった。
それはもう、電光石火のごとく。
「にーちゃんこれやってたのか?」
「ぽいねー」
「凄い~。最後までやってある~」
それは……。
えっと……。
ほら、9×9のマスの中に縦と横で1~9の数字がかぶらないように入れるアレ。
3×3のマスの中でもかぶっちゃダメな奴。
「魔方陣?」
「ねーちゃん違う。数独」
あ、そうそうそれ。
「純お兄ちゃんこれやってたんだね~」
そー言えば前におばーちゃんが『やり始めたら止まらない』って言ってた。
「さぁ! 理由も分かった所で、純兄を起こそう」
「結局そこに戻んのかよ!?」
あたりまえではないか。
同時刻。お隣の夏の部屋。
「お兄ちゃん起きろっ!」
ぼすっ
どどどどどどどどど!!
春の小さな拳が夏の周りに降り注ぐ。
「ったっ!」
「よしっ! 一発入った!! まだまだ行っくよー!」
どどどどどどどどど……
「危ねっ! 痛ぇっつってんだろうが!」
「聞いてなーい」
春の、春による、春の楽しみのための、お兄ちゃん起こしが行われていた。
いや、もう起きてるけど。