64 喧嘩を売る椅子
「痛っ」
「ねーちゃんどったの? 牛乳パックにでも指挟んだ?」
「な訳あるか!」
だよな~。
岳でーい。
ねーちゃんがな、牛乳飲もうとして急に指銜えたからどーしたのかなーと思って。
なんて姉思いな弟!
誰か褒めて。
「で、結局どしたの」
「牛乳がしみただけ。昨日学校の椅子に喧嘩売られたんだよ」
牛乳ってしみるんだなー。
ていうか
「学校の椅子に喧嘩売られたぁ!? どーやって!? 椅子って喋るのか!?」
『喧嘩~喧嘩~、喧嘩は要りませんか~』……違うか。
「そーじゃなくて、学校の椅子の脚って金属じゃん?」
「うん」
まさか脚が勝手に移動したとか!? ……違うか。
「で、椅子引く時って椅子の下に手、入れるじゃん?」
「いや、オレ足で引っ張る人」
「……あたしはそうすんの! で、椅子の下に手、入れたら棘があって……」
金属に棘!? 何故!?
「四回くらい引っかかった」
ねーちゃん忘れっぽいしなー。
どーでもいい事は。
確か昨日名簿見ながら『これ誰?』って20人位は言ってた。
で、その内10人分はにーちゃんに突っ込まれてた。
『一昨年同じクラスだっただろが』って。
話を戻そう。
「それさー、椅子の気持ち考えたらさらにムカつくな」
「え? なんで?」
だってさ?
一回目『あ、引っかかった』
二回目『あ、まぁた引っかかりよった』
三回目『ぷっ、また引っかかってやんの』
四回目『まだ引っかかる! アホや』
「……ムカつくね。何気に関西弁だとさらに」
「な?」
あ、ねーちゃん、牛乳パック持つ手に力入れんな!
牛乳の泡出てるぜ!
「うん、ムカつくねー。そうでなくてもムカついたけど」
「ん? じゃー何かしたのか?」
椅子に。
……何かって何を?
「うん、ムカついたからペンチで棘をねじ切っといた」
でぇっ!?
「そのペンチはどこから!?」
「鞄の中からだけど? それが何か」
「何でペンチが鞄の中に入ってんだよ!?」
おかしいだろ!? 普通に考えて!
「うん、しーちゃんと桜におんなじ事言われた」
そらそーだ。
光のポーチじゃあるまいし……。
光だって持ってるか怪しいぞペンチって。
「で、結局何でペンチが鞄に入ってたんだ?」
「んーっとねー。卒業式の前の週に何となくどっかで役に立ちそうな気がして入れた」
で、しっかり役に立ったと。
ねーちゃんの勘ってすげー。
今回以外当たったことねーけど!