60 ケーキ、ケーキ♪
「はーちゃん~、行くよ~!」
「おーっ! やっちゃって!」
ぼふっ。
薄力粉の煙がが上がった……。
「えーと、次は……混ぜる!」
がちゃがちゃがちゃがちゃ
おーい、生地が飛んでるー!
夏だ。
少しは箱が残ってるけど、落着いた家の台所でひーちゃんと春が何かを作ってる。
うん、コレがこの二人でなければ微笑ましいのになー……。
「なー、忍、こいつ等を止める手は」
「あると思う?」
だよな……。
「あるけど」
「あるのか!?」
「だれがないと言った?」
あるとも言ってねぇよな?
「で? どうやって止めんだ?」
「あの二人を台所から引き剥がす」
何だ。最初っからやれば良かった。
「とう」
がしっ
「わぁっ! お兄ちゃん何するんだよ! 今ケーキ作ってるの!!」
後ろから抱き上げただけだろうが。
じたばたすんな! 足が当たって痛い……。
「出来たらお兄ちゃんにもあげるから!!」
「誰が欲しいと言った!?」
「いらないとも言ってないじゃん!!」
俺と同じ言い返し方をすな!
「ね~、離してよ~、せっかくはーちゃんと久し振りに一緒に作ってるんだから~」
「ほら! 離せ離せ離せ離せ離せ!!」
殴るな!
「痛い痛い痛い痛い痛い」
「じゃあ離せばいいのに~」
危険物を食わされるくらいなら殴られる方がマシだ!
「ちょっ、忍、へるぷ」
「女の子に助けを求めるなんて情けないよ、ウチは!」
何故に妹に投げかれにゃならんのだ。
だいたい俺は忍を女の子視してねぇし。
「頑張れなっくん、あたしは見てるから」
おまっ、ひでぇ!
我が身可愛さに幼馴染を見捨てるか!?
こいつ等のケーキとやらが出来たら大量に突っ込んでやる……。
しかも見てないし。目線は手に持ってる文庫本だし。
「はーなーせー、はーなーせー、はーなーせー」
言い方は間延びするようになったのに動きは激しくなったのは何故。
「え~い~!」
「痛っ」
ひーちゃんに噛み付かれた……。
歯形がくっきり。
しかもかなり痛かった。顎の力すげぇ。
「さっ! 続きするよっ!」
「お~!」
止められません。諦めた。
ネバーギブアップ? 何だそれは。旨いのか?
「あれいれてーこれ入れてー」
「まぜまぜ~♪」
数十分後
『出来た~!』
ばんざーい、ばんざーい。
正にそれをやってる。
「はい、お兄ちゃん!!」
「……ども」
見た目は安全なのになぁ。
「はい~、お姉ちゃん~」
「あんがと」
今回は何が入ってるんだか。
ぱく
…………あれ。
「とうとう俺の味覚はおかしくなったか?」
「旨いよー、はーちゃん、光」
『やったー(~)!』
……あれ、忍が旨いって言ってることは別に俺の味覚がおかしくなったわけでは無いんだよな?
「なっくーん、おーい、戻ってこーい」
何処に?
目の前でぶんぶん手ぇ振んの止めろ。
「旨いんでしょー? 味覚がおかしくなったわけでは無いから安心しなよ」
「お前、何かした?」
「うん」
そこであっさりうなずかれるとは思わなかった。
「あの二人が入れそうな変なものは全て撤去しておいた」
…………全て?
そー言えばまだ家の冷蔵庫とか棚とかにそんなに物は入ってないし、調味料だってちっちゃい容器にってるから移動可能だろうけど。
「純兄も巻き込んで」
「……そーいや純は?」
「岳に百マス計算の勝負を挑まれて、ずっとやってる」
何やってんだ。
「あれ? 変なもの撤去したって俺聞いてねぇんだけど」
「うん、隠してた」
「何故!?」
気付かなかった俺も俺だけどさ。
「暇つぶし。これじゃ駄目?」
……俺、殴られ&噛み付かれ損?