42 ガキな忍
「……あれ」
「どうした?」
「上靴そーしつ。宝探しゲームかな」
……いや、絶対違う。
いじめの定番中の定番、靴隠しだろ。
純だ。
今は大体8時。
朝練の無い部活、または帰宅部にとっては来るには早い時間だと思う。
……俺等は帰宅部だけど、いつもこの時間に来ている。
「純兄、探さないでね? あたし一人で見つけてやるんだから……って、あった!?」
見つかるの早いな。
靴箱の、普段使われていない一番下の段。
「もーちょっと手ごたえあってもいいのに……ねぇ? 純兄」
「……やせ我慢なんだかポジティブ過ぎるんだか」
「何でやせ我慢が出てくるの?」
「……はぁ」
……地味に、傷ついてる?
演技は上手いけど……分かりやすい。
こてん、と首をかしげるのは一瞬だけ。
すぐに階段へ向かった。
「じゅーんにー、早くしないとのしかかるよ?」
「やめろ。別に重くねぇけど。チビだから」
「酷いな、あたしは大体真ん中らへんだよ。多分」
確か150ちょっとだった。
「おはよ~」
「あ、おっはよー、さーちゃん♪」
ぎゅむ
「……純? 忍どうしたんだ!?」
「清、どーゆー意味?」
清を睨みつける忍。
地獄耳だな……人のこと言えねぇけど。
「でもどうしたの~? 急に抱きついてきたりして……」
「だって寒かったんだもん。昨日も雪降ったしさ」
「大丈夫、今日は昨日よりは暖かくなるって天気予報で言ってたから」
「あ、そうなの?」
天気予報くらい見ろよ……。
朝ちゃんとテレビついてたろ。
いつもの事だけど。忍がテレビ見ないのとか、テレビがついてるのとか。
「昼はね」
「えー、午前中は寒いの? じゃあ体育(三時間目)ん時もくっつくよ、さーちゃん」
お前はいつから抱きつき魔になった
あと何故桜の呼び方が変わってる?
「あはは~、今日はわたしがくっついちゃおうかな?」
「やだな、くっつきに入ったたほうが暖かいんだよ、あたしが」
自己中……。
「なー純、やっぱり忍がガキっぽくなってる」
「あ? いつもだろ」
「いや……いつにも増してと言うか」
「そういう気分なんだろ、あいつの性格なんて相手と気分で変わるから」
これが普通だと思うけど。
「へぇ? ふーん、ま、いっか」
忍が気がつかせないようにしてるんだから、適当にはぐらかしておく。
下手に忍の内面に手を突っ込んでみろ。
忍のスルースキル(?)が上手く作動しなくなる。
ほおっておくのが一番いい。
勝手に元に戻るから。
……つまり、忘れる
普通こんなのを簡単に忘れる奴なんて居ないんだろうけどな……。
「忍~、何でわたしばっかりなの? 篠居るじゃない~」
「さーちゃんに嫌われたぁ」
「そういう意味じゃなくて!」
内面を出さない代わりか、いつもより絡む。
桜と篠は、それを分かっているみたいだった。
「しーちゃんはねー、さーちゃんより筋肉あるんだよ。さーちゃんは柔らかいんだもん」
「悪かったな」
「やだな、誰も悪いなんて言って無いのに。怒らないで?」
「はいはい」
「適当に流さないでよ! しーちゃん冷たーい」
「ほっとけ」
「はーい」
訂正。ガキになる。
まぁ、長くて半日くれぇだけどな。
それまでは、二人に頑張ってもらうか。