409 辞書がいっぱい と、友達のレベル 上
『っぷはぁー!』
疲れた! 実際にはそんなに疲れてねーけど、気持ち疲れた。
翔も修也も解放感たっぷりの表情してるし。
岳だ!
今日は卒業式。オレ等のためにやってくれてることとはいえ、話が長いってのは嫌だな。しかも、校長に町長さん、教育委員会会長さん、PTAの会長さんで、長いの四つだぜ? そりゃ疲れるよなー。
でももっと大変なのが五年生だ。オレ等は卒業証書取りに行ったり、誰か話するときに礼したりで結構立ったり座ったり多いけど、五年生はその間もずぅーっと座って無きゃいけねーんだもん。送辞言うまでは。
……なんかもう、オレの記憶からは完全削除されちまってるし。
「終わったぁ!」
「早く教室行こうぜ」
「は? 修也、何言ってんの?」
「は? 翔こそ何言ってんだ?」
……最後の学級活動。完全に忘れてやんの。
「……あぁ! 筒も辞書も貰ってなかったっけ!」
卒業証書を入れる筒と、卒業記念品でもらった、英和辞典と和英辞典。
「もう家、辞書大量なんだけどなー」
「忍さんや純さん達の?」
修也は分かってる。でもな。
「それだけじゃねーんだよー。一辺家にある辞書全部言ってやろか?」
「……どーぞ」
オレ今、どーゆー表情してるんだ。修也が遠慮がちだぞ?
「広○苑の第四版と第六版。赤い国語辞典と漢字辞典、小学国語辞典×四、小学漢和辞典×四、ジー○アス英和辞典×二、ニューフレイズン英和・和英辞典×三、二年後には×四。独和辞典、中和・和中事典、仏和・和仏事典……」
「もういいよ! なんでそんなに外国語の辞書あんだ!?」
なんで止めるんだよ、修也。
「あと一冊だったのに。英英事典」
「何だよ、それ」
「英単語引くだろ? 解説が英語なんだ」
「意味ないじゃん!」
翔……オレもそう思った。
「父さんが大学時代にアメリカで買ったんだ。英語の勉強に」
進まなさそうだなー。父さんも言ってたし。『調べた単語の解説読んでる途中でまた分からない単語が出てきて……』って。ポジティブ思考でいくと、色んな単語覚えられるな。
「いや……それより、なんでそんなに外国語の辞書があるんだよ」
「中国語とフランス語は兄ちゃんの」
昨日、たまたまずらっと辞書が並んでるの見つけたんだ。ビビった。だって外国語どころか外……界語? 地球上には無い――と思う――言葉の辞書あったし。○和・和○事典じゃねーしさ。
「え、純さん!? 一、二、三か国語も話せんの!?」
「英語以外聞いた事ねーけどなー。……翔、三か国語じゃなくて四か国語だ。日本語数え忘れてんぞ」
母国語だろ!
「じゃあ、忍さんは?」
「姉ちゃんは普通の中学生だぜ? 英語だけだ……と、思う」
なんか自信なくなってきた。兄ちゃんが兄ちゃんだからなぁ。姉ちゃんもなんかやってたりするんじゃねーのか。
「あ、でも、高校生なったら祖母ちゃんに中国語習おうかなっつってた気がする」
『将来有利なんじゃない?』とか言ってたけど、オレは知ってる。姉ちゃんが『中国語習おうかなー』なんて言ってんのは、なんかおもしろそーって好奇心だけだ。あと、簡体字を覚えたいんだ。
「……なんでお祖母さん?」
修也って何気に、話相手の家族には丁寧だよなー……。姉ちゃん兄ちゃんも名前に『さん』だし。光には『ちゃん』だし。
「うちの祖母ちゃん、英語と中国語教えてんだ」
『マジで!?』
マジだ。
「……ところで、奈那子さんは?」
「ほんとだ。修也、彼女さんは?」
あ、修也が手加減なしで翔殴った。……痛そー。オレいっつも、あんな拳から逃げてたのか。うっかり当たったら大変だぞコレ。
「璃々とか、理絵とかの所じゃないか?」
あぁ、よーするに女友達な。奈那子さんだってオレ等の他に友達居るか。
……オレは居ねーなぁ……。精々なっくんとはーちゃんだ。
「あ、居たよ。教室の中」
……号泣中。えぇと、目ぇ逸らしておいてあげる方がいいのか?
「翔、修也、今オレ、卒業式なのに全然悲しくない理由思いついちゃってすごく落ち込んだんだ」
『……はぁ』
「オレだけ落ち込むの嫌だから、お前等も落ちこめ」
『勝手だな!』
勝手で結構だ。とにかく、言うぞ?
「オレ等が全く悲しくねーのは、この学校に友達が三人しか居ねーからだ!」
オレと修也、翔、奈那子さん。ここから自分を引いて三人。
『…………………………いや、もっと多くね?』
え? マジか? オレだけ!?
「岳は友達と認識するレベルが高いんだよ。どこからが友達?」
「えー……一緒に遊んだり、家行ったり来てもらったりするような仲いい人」
「え!? じゃあ、他で結構話すような奴等は何だよ?」
なんで修也まで驚くんだ。
「それは知り合いだろ」
「……ね。レベル高いでしょ」
なんでテメー等頷き合うんだ。コラ。