405 卒業にあたり、一言ずつお願いいたします
卒業だってさ。
…………まぁったく、実感無いんだけど。
卒業式終わって、『最後のホームルーム』とか言われてもさっぱり実感無い。
花上は式歌の前奏が流れ出した時点で号泣してたけど、ほかの人はさっぱり泣かないし。皆同じ、実感無いとさ。
「じゃあ一人一本ずつ先生に花渡して、三の一に一言言ってください」
司会は学級委員の花上と蔵元。『なんでホームルームに司会が居るんだ』とは言っちゃいけない。
「池上さん」
……『一言ずつ』ってさっき言った? 何言えばいいんだろ。
「え、えぇとー……最初はつまらないクラスだと思ってたけど、文化祭とか体育大会とか、色々賞が取れたし、楽しかったです。ありがとうございました」
池上さんって、あの子だよ。手作りお守りにメッセージ書いてくれた理奈さん。
「海中くん」
なっくんだー。何言うんだろ。
「泣けー!」
「泣いちゃえー!」
「泣くかー!」
何このやり取り。始めの二人はノリのいいクラスメイト。
「えーと、まぁ、この学校には三年から入ってきて、知り合いが居な……いや、何故か居たけど、居ないに等しい状態で」
ほんとに『何故か』だね。
「それでも三年間で一番楽しかったです! ありがとぉございました」
ぱちぱちぱちー。
「大熊くん」
体育大会の全員リレーで、小熊くんにおんぶされて走った大柄な人。覚えてる人、居ますかーっ! 小熊くんも含めて。
「一組で良かった! ありがとうございました!」
体がでかけりゃ声まででかい。
「岡田さん」
「ハチャメチャなクラスだったけど、楽しかったです。ありがとうございました!」
ハチャメチャ?
岡田さんは、手作りお守りにパァッと明るいメッセージくれた麻衣ちゃんね。
「シジミ」
「しぃなぁみぃ!」
「汽水くん」
……そう言えば、紫波の名字って汽水だったっけ。体育大会の時に聞いたアレ。
「むー。んー。授業中もうるさかったけど、皆明るくて楽しい一年でした! ありがとうございました」
「何か面白いこと言えよー」
……期待されてたんだ。
ちょっと困った顔になって、今度は思いついた顔。……分かりやすっ。
「シジミじゃないからねっ!」
一部は苦笑、一人は大笑い、ほかはクスクス笑い。
一瞬滑ったことに気が付いてらないらしいので黙っておいてあげよう。
蔵元、小熊くん、小浜、迅谷と続いたけど、皆似たようなこと、すなわち『楽しかった』ばっかり。小熊くんが『泣け』って言われてちょっと泣いた。素直だなぁ。玲奈は?
「鈴木さん」
「え、えっと……その……ま、まぁまぁ楽しかったわよっ! ……ありがとうございました……」
最後の方ほとんどぼそぼそ言ってるだけだったねー。玲奈らしい。
「いいよー! 可愛いよー!」
「こっちおいでー!」
「いいいい、行かないわよっ!」
あ、ちょっと涙目。
「別に、泣いてなんかっ! ないんだからねっ!」
ほいほい。分かってまーす。
次は十川くんだけど……覚えてる人、居る? 夏休み前に成績表を渡される時、玲奈の後に一回呼ばれただけの登場だったんだけど。
「最初はこのクラスかってがっかりしたけど、最終的にはこのクラスで良かったと思います。ありがとうございました」
がっかりしたんだ……。分からんでもない。
「高崎くん」
「面白いの行けー!」
行けー!
「えぇー、まぁ、とにかく騒いだだけだった気もするけどー、行事とかすげー楽しかった、です。ありがとうございました」
期待が裏切られた。
『面白いのは?』
「滑るの嫌だ!」
なんて正直。
「高山さん」
おぉう、あたしか。
教室の隅の方にスタンバイしてるおばさんから花を一輪貰って、何言おう。んと、
「五月蠅くて喧しくて騒がしいクラスだったけど、面白かったです」
見てて、参加して、なっくんがしょっちゅう笑ってたのも実はちょっと分かるんだな。
一、二年じゃ体育大会とか文化祭とかの行事は適当にやってたけど、今年は入り込むしかなくなるような空気になったりして。今年が一番楽しかったかも。
「ありがとうございました」
ぺこりと一礼。先生に花を渡すついでにこそっと一言。
「柿ピーとか呼んでごめんなさい、柿ピー先生」
「おっまえ、反省してないだろ」
当然。
「高山くん」
……今、純兄が手の平で目玉ぐりぐりしてた。泣いてる? それとも眠い?
「いーよー、泣けー!」
「泣いちゃえー!」
「ん。泣いてたとしても今ので引っ込んだな」
『天邪鬼!』
「はは。まぁ……なんだろ。全くやったことの無い行事にも参加させられて、三年間で一番中学生らしい一年だったかな、と思います。ありがとうございました」
強制参加みたいないい方したね? まぁ、似たような感じだったけど。
そうでなきゃあたしだってろくに参加してないし。
次に田中さん。言わずと知れた(?)クラスメイト。ザ・モブキャラさん。無難な一言。
その次はシンプルイズベスト、飛山さん!
「ありがとうございました」
本当に一言だ!
「中谷さん」
篠だ。
「騒がしくても、行事とか楽しかったです。ありがとうございました」
淡々としてるなぁ。流石。
「中森さん」
お、『何事も楽しまなければ意味がないのです』の娘。
「何をしても楽しい一年間でした。本当に、ありがとうございました」
深々とお辞儀。あれ、泣いてるや。
次は野島さん……。野島馬子、またの名をポニ子。体育大会の全員リレーで騎馬の上に乗った、いついかなる時もポニーテールの女子。
その次は橋本愛華さん。体育大会のハリケーンで、あたしと一緒に走った女子。
次に花上。ちょっぴり涙ぐみながら、『授業とか休み時間とかも全部思い出』だって。
その次が花咲で、泣きまくってたから何言ってるか分からなかった。かろうじて聞き取れたのは『楽しかった』かな。
藤原がさらっと言って、水谷。
「泣けー!」
「泣いちゃえー!」
あんた等、ほんっとにそれいちいち言わにゃ気が済まんのか。
「…………なんだかんだで、楽しかった。ありがとうございました」
「村田くん」
「面白いの行け!」
「言うだろ? 滑るだろ!」
……そうなんだー。じゃあなおさら行け!
「まー、色々あったけど、全部楽しかったです。ありがとうございました」
「山内さん」
桜だー。
「えぇ~っとぉ、面白くて楽しくて思い出に残る一年間になりました~。ありがとうございました~」
あー、学校違うんだよなぁ。ほやっとしたこの声聞けなくなるのかー。
「山本さん」
お、最後だ。
「行けー!」
何処に。
「えー? んっと、もう、全部全部全部楽しかったです! ありがとうございました!」
「面白いの行け!」
「え!?」
もう一回終わったじゃん!
「えぇと、えぇ……体育大会とか、文化祭とか……もう! 楽しかった!」
同じ事言ってるよ!
「いいよー」
いいんだ。『面白いの行け!』って言った人。大熊くんか。
はい、以上! 今までチラッとでも出てきた三年一組の人たちでした!
この後『写真撮ろー』と誰かが言ったんで、黒板の前に皆並んで写真を撮りました。カメラの多いの何の!
卒業式、だもんね。