399 やってきました霊能者
「古賀ぁ、日頃の運動は大切だな?」
「喧しい……」
「大丈夫かー」
「もう心が折れそうだ」
しゃがみこむほど? 言っとくけど、地面ドロドロだからこけるなよ。
純だ。
連草山の、ポルターガイストが起こる日本屋敷。何回もこの山は登ったから、心当たりはあったよ。古いようには見えねぇけど。
雨ん中、てくてくと傘差してコンクリートで舗装された急な坂を上って来た古賀は息を切らしてる。
俺は霊体になったら雨は通り抜けられるから、傘は手に持って獣道通って来た。こっちの方が近いし、速いし、楽だし。光が落っこちかけたことがある崖があるから安全ではねぇけど。
「…………? 純、ピンポンは押していないのか?」
「……インターホンって言おうぜ。小学生や幼稚園児相手じゃねぇんだから」
その冷静っぽい顔で『ピンポン』とか言われると、何と言うか、力が抜ける。
「インターホンは押していないのか?」
「別々に来られても向こうが困るだろ」
「あぁ、そうか。じゃあ行くぞ」
待たせた事に対する謝罪か何かねぇのか。
……ん? 七人か八人か乗れるくらいの車が一台入って来た。
「古賀、アレ」
「アレじゃわからん」
「見もせず言うな。車。『専門家の方達』じゃねぇのか?」
……ところで、なんでインターホン押そうか押すまいか悩んでたんだ。
「多分そうだ。ところで純、インターホン押してくれないか? 何て言ったらいいのか分からん……何だその目は」
「小心者」
「緊張しぃなんだ!」
言い訳になってねぇよ。
「あのー……」
ん? この人が専門家? 若すぎやしねぇか。パッと見同年代なんだけど。
「えっと、見学の高校生達ですか? オカルト研究部? って部活の」
「その高校生達の後輩の中学生です。そのアホどもは今、勉強をサボっていた分のツケが回ってきて学校で悲鳴を上げている頃かと思います」
「会った事もない他人の先輩に対して遠慮無しか!」
おい、私服の時までハリセン持ってんのか? 本当にどこに持ってんだ?
「松下先輩はきっとサボってなんかいない! 元がダメすぎるんだ!」
全くフォローになってねぇ。
「あぁ、中学生なんだ。良かった~、あたしより年上の人が来るのかと思ってた」
「中学生ですか?」
「ううん、高一。従兄の手伝いで来たの。麗音花奈よろしくね。あ、凉くん、真以子ちゃん この子達、例の高校生達……の、後輩の中学生達だって。高校生たちの方はなんか大変なんだって」
間違っては無いけど、何があったのかイマイチわかんねぇよなその言い方。
「高山純です。こちらこそよろしくお願いします。今日は無理を言って申し訳ありません」
「全くだ」
すげぇ迷惑そうなんだけど。この黒スーツの人。よくオーケーしてもらえたな、アホの先輩方。
「麗音凉だ。そっちは?」
「……ハッ! 古賀治也ですっ」
「何ぼーっとしてたんだよ。来たかったんじゃねぇのか」
「いや、お前が敬語を使ってたから、つい」
何が『つい』だ。俺はタメ語使う相手よりも敬語使う相手の方が多いわ。
「あっ! 霊能者の方々ですよね! どうぞ、上がって下さい。高校生たちも、どうぞ」
家の中から若めのおばさんが一人。インターホン押す手間が省けた。
「すみません、その高校生たち、馬鹿が祟って先生に捕まったらしいんです。それで、代わりに来させていただきました。興味はあったので」
古賀が耳打ちしてきた『他に言い方は無いのか』って。まぁ、無いことは無いけど。
とりあえず日本屋敷の中に上がらせてもらう。
……でっけぇ花瓶。しかも高そうだし。ポルターガイストって物が動いたりすることもあるんだろ? 落っことされたら悲惨だぜ。
「貴方」
えぇっと……真以子さんだっけ。廊下を前の人について行ってたら、長い髪の人が袖を引っ張って来た。
「はい?」
「貴方、本当に人間?」
…………霊能者甘く見てた。実体化してても分かる人にゃ分かるのか……。
「どういう意味ですか?」
「人間じゃないナニカを感じるの……貴方の所から」
「ちょっと、俺一体何者ですか」
「分からない。一回、払ってみるわ」
「……俺を?」
「大丈夫、人間に効果はないわ」
それって人間以外に効果があるって事だよな?
「凉さん。この人……?」
背後で何かが割れる音。玄関の方。……花瓶だろうなぁ。もったいねぇ。