398 頼まれましたが
「ねーねー! ねーねーねーねー!」
『叫ぶな超音波!』
クラス全員、心は一つ!
「ひっどーい!」
忍です。
放課後、久しぶり……のような、そうでないような気もしますが、オカルトオタク団が我が三年一組の教室に入って来やがりました。
「し、失礼します……」
おどおどとえっちゃん。
「失礼します」
ごく普通にマコちゃん。
「失礼しまっす!」
元気にタツノオトシゴ。
超音波を発する部長にハリセンを振り回すハルやん。
……うーん、今更ながら、こいつ等どー見てもオカルトオタクには見えんわ。
「さぁ! 今日は純吉としののんに耳寄りなお知らせが!」
「テメェの超音波を防げる耳栓が発売されたとか? タダで」
純兄、それ発売って言わないよ。売ってないよ。
「純吉酷い!」
「テメェの声の方が酷い」
「その言い方は無いんじゃない!?」
「何しに来たの、あんた等」
部長と純兄を喧嘩させに?
「ハッ! そうそう! あのね!」
「どのね?」
「しののん、余計な茶々を入れるな!」
ごめんね、今ちょっとハリセンで叩かれたせいで頭痛いから思考回路がぐちゃぐちゃぐちゃになってるんじゃないのかなと思っていいかな? 茶々入れた時は叩かれてなかったけどさ。
「こんな話知ってる!?」
「知ってる」
あのね純兄、まだ部長は何も言ってない。
「そーなの!?」
「馬鹿! 追い払うために知ってるふりをしようとしてるんだ!」
「えぇっ!」
そんなにびっくりした顔で目ぇパチパチしなくても。
「じゃあ純吉もしののんも知らないの!?」
『何を』
「こんな話!」
「そーかー、こんな話かー。分かるか!」
あたしは思うよ。前に何も言わずに『こんな話』って言われて内容が分かる人が居るなら、その人は超能力者だ。
「えぇっとー。連草山の怪談!」
「あぁ、一段一段がでけぇよな」
「普通の坂道登った方が楽だよ」
「それは階段だ! なんだ、兄妹して勘違いなんぞして!」
だってぇ。あたしにとっての『怪談』は学校や古い建物で起こるもんなんだもん。
「ところで純兄、連草山って?」
「裏山」
「あぁ!」
あの山って連草山って言う名前なんだー。
あれ? あっこ、怪談あるの? ハイキングコースなんてのもあるのに?
「あたしは怪談知らない。どんなの?」
「中腹あたりにね、古~い家があるの」
ふむ。
「あたし達ん家も山の途中にあるよねぇ?」
木に囲まれてるわけじゃないけど。
「家よりも高いとこじゃねぇのか」
「頂上の近くに! 古~い日本屋敷があるの!」
言い直した。
「そこにね…………出るんだって」
『何が?』
「この話の流れから分かろうよ! 幽霊!」
分かってたけどあえて聞いた。主語は大事だよー、ってね。
「で? それが何? ……ハルやん、答えて」
部長の声はもういい。耳と頭が痛い。
「そこに住んでいる人が居るんだが」
居るんだ……。
「老夫婦と、その娘家族だ。その人達がポルターガイストに脅えている、と聞いている」
「聞いてるって? 誰から? ……えっちゃん」
部長は口を開かなくていいってば。
「松下先輩です! えぇっと……今、高校一年生の先輩で、去年はオカルト部に入ってらしたんです」
「松下先輩とやらが、なんで? ……マコちゃん」
部長、睨んでも無駄。あたし、純兄のおかげで怖い目線はスルーできるの。
「マコちゃんと呼ばないでください……。松下先輩が入部した高校のオカルト研究部で、連草山に何かそれっぽい話でもないかと調べていたそうです。パソコンや本で調べられることはたかが知れていますから、自分たちの足で」
そりゃーね。今まで地元に住んでるあたしが知らなかったような名前だもん。……いや、これに関してはあたしがおかしいのか?
どちらにしても、そんなでっかい山じゃないし。調べられるのなんか場所位だろうな。
「で、その日本屋敷の人にお話を伺っているときにポルターガイストが起こったそうで」
家に上げてもらったの? その人等。それとも玄関先で?
「調べてもいいかと聞くと、『金曜日に専門の方が来るので』と言われたそうです」
「専門の方だ?」
「悪霊払いなんかを専門に働いてる方に依頼をしたそうです」
「でぇ! 居てもいいかって聞いてもらったそうなの!」
あぁ……部長を黙らせられるのもここまでか……。
「そしたら『二人までならどうぞ』だって!」
あれ? 意外と少ないな。
「でもね……先輩達、後で気付いたらしいんだけど、全員そろって金曜日からしばらく用事あるんだって。天国から地獄だよ!」
「そいつ等はアホなのか?」
「そうなの! その用事も『お前等成績悪すぎるから俺が直々に鍛えてやらぁあああ』って高校の先生が……」
…………よく、受かったね。
「だからあたし達が行って、ビデオに撮っておいてくれって! でも皆行きたいの! 純吉としののんで選んで!」
くじ引きじゃ駄目なのか!?
「ん。忍、興味は?」
「無い。今、あたしはお昼ご飯にのみ興味ある」
お腹空いたよぉ。
「満腹だったら?」
「やっぱり無い」
あんまりおもしろくなさそう。
「ん。じゃあ俺一人で選んでいいか?」
「どーぞ」
あれ? 純兄ひょっとして、興味あるの?
「二人だな?」
「うん!」
「マコちゃん……あー、いや、やっぱり古賀」
「……………………期待させるのやめてくれませんか」
期待したんだね、マコちゃん……ドンマイ。
「と、俺」
『えぇええええっ!?』
純兄!? 行くの!?
「俺が選んでいいんだろ?」
「だ、だからって……!」
「そーだよ! いっつも純吉逃げるくせに!」
「霊を払う専門家の方に興味があるんだよ。インチキか本物か? インチキなら思い切り弄り倒してくれる」
……あぁ、ある意味同業者? 死神って霊を成仏させてるんだもんね?
「もういいよ! 頼んだのこっちだもんね! でも何でハルやんなの!?」
「撮らなきゃなんねぇんだろ? カメラ役」
「マコちゃんをどうして省いたんですか?」
おー、流石えっちゃん、いい質問。
「扱いにくい」
「純、俺をどうするつもりだ!?」
ハルやん、それは過剰反応。
「わかった、言い直す。俺一人ならともかく、もう一人行くんだろ? 知ってる奴がそいつ一人だけだとすげぇ気まずい」
……分かるかも。
「まぁ、そういう訳だ」
「部長が納得いってないみたいです……」
「俺等に頼んだのがそもそもの間違いだったんだ」
『それもそうだ』
納得しちゃう? ……するか。