396 受験当日の朝
「おはよー」
「ん、おはよう。早ぇな」
ふむ?
時計を見上げてみよう。六時五十分。
純兄も一緒に見上げてたのを視線戻して、
「いつもに比べて、早ぇな」
言い直すな。
忍でーす。
何を隠そう……いや、何も隠しませんが、受験当日です。
いつも通りに顔洗って、着替えて、朝ご飯食べます。ちなみにパン。
「姉ちゃん、ジャムいらねーか?」
「欲しい」
ブルーベリージャム。最近見てなかったけど、あったんだ。
「蓋閉めといてな」
岳、絶対アンタ蓋閉めるのが面倒であたしに勧めたでしょ。
「ごちそさま」
「あ~っ! お姉ちゃんジャム片づけないで~!」
「ほいほい」
……光、ジャム付けすぎ。パンの上で紺色の山になってんじゃん。
さて。
カバンの中に上靴入れた、筆箱入れた、眼鏡入れた、受験票入れた、弁当入れた、下靴入れ入れた、腕に腕時計つけた。よし、確認オーケー。
暇になっちゃった。
行くには早すぎる。だって八時半までに集合だし。十分に着けば大丈夫だろうし。でも今はまだ七時半だし。第二水高はここから近いから十分から十五分もあれば着くし。
「あれ~? お姉ちゃんまだ行かないの~?」
「今行ったら寒い中一人寂しく校門が開くのを待つ羽目になるの。多分」
「ちぇ~、一緒に行けると思ったのに~」
第二水高へ行く道の途中には水小があるのです。ちなみに水中は全く逆の方向にあります。
家から見て、水小と第二水高は西側。水中は東側。ね? 逆でしょ?
「頑張ってね~」
「ありがと。行ってらっしゃーい」
『行ってきまーす』
あと十五分か二十分。何しよう。
「あ、純兄行ってらっしゃい」
「ん。行ってきますと行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
鞄、薄い。三時間授業だもんね。しかも授業じゃないもんね。何するんだろ。遊ぶのかな?
…………あ、そうだ。お守り開けよう。
運が逃げる? 逃げないよ、このお守りは。
昨日ねー。放課後に、もう行先が決まってる人達が手作りのお守りくれたの。
サプライズだったからすっごく嬉しかったんだよー。花上なんかは笑いながら泣いてた。
長方形のお守り袋はなんとしーちゃんが一人で作ったんだと。横はブランケットステッチで、袋を閉めるところは、よくあるお守りみたいに真中に二つ穴をあけて、そこに紐が通すようにして閉められてる。何故か巾着型にもできるように、紐をぐるっと通せる穴も作ってあるけど。ぎりぎりまでどっちにするか決まらなかったんだってさ。
中になんかメッセージが入ってるらしい。『朝、行く前に見て』との事。あたし限定で、純兄から『俺が行ってから見ろ』って言われた。余計に見れる時間削られてるんですけど。
まぁとにかく、純兄も行ったし。見てみよう。
ばらけないようにちゃんと左端がホチキスで止めてあった。……これやったのは柿ピーだな、きっと。左上には『To 高山忍』……ランダムじゃ無かったんだ。
一枚目。
『落ち着いて、頑張ってね。りな』
理奈さん。えぇと、生徒会で会計やってた気がする。うん、あたしは常に落ち着いてますとも。多分。
二枚目。
『大丈夫、絶対受かる! 信じてれば必ず夢は叶う。 蔵元』
蔵元くんや、高校受かることって夢なの? ある意味安心できる言葉ではありますが。
三枚目。
『お前は天才と言う名の変人だ。きっと大丈夫。 中谷』
しーちゃん、それって褒めてるの? けなしてるの? ……あ、『変人だ』の下に小っちゃく『褒めてないよ』って。やっぱりか!
四枚目。
『しのぶは頭いいから大丈夫だよ~。マイペースだもん。 桜』
ねぇ、桜? 前後の分が繋がってないよ!? あたしよりも桜の方がよっぽどマイペースだよ!
五枚目。
『しのぶーっ! 本番だね! 大丈夫! まいが受かるよう祈っとくから❤ Fight! まい』
三色の色ペンが綺麗です。『Fight!』の右隣に日本国旗が。元気出る! が、受験に元気って必要なのかは疑問。
六枚目。
『がんばれ。 飛山』
シンプルイズベスト! 流石飛山さんと言うか何と言うか。
七枚目。
『しのぶの真面目なとこ尊敬してる! 絶対受かるよ。 山本』
あたしを真面目だと思う人が居ることにびっくりだよ。授業中は静かにしてるけど、その裏で本読んでたりするよ? 知ってた? 山本さん。
八枚目。
『昔々、松ちゃんという……受かったら父さんが続きを話してくれるだろう。 兄』
よっしゃ、頑張ろ! 単純? いいじゃん別に。
九枚目。
『三年生になってから成績がぐんと伸びました。そのままマイペースで頑張って。 カキノ』
あたしは常にマイペースだよー。桜にゃ負けるが。
こーゆーサプライズで貰った小っこいメッセージって嬉しいよねー。……と、ニマニマしながら読んでる内に、いつの間にか時計は七時五十七分に。あぁ、ちょうどいいや。出よう。