395 ノリとなんとなくは止められない
『ぎーにゃー』
「…………」
『悲鳴』
何も聞いてねぇよ。分かってたから。だから二人して視線と簡単すぎる説明を寄こすな。
純だ。
俺の後ろでゆうと忍が横に並ぶ、と言う格好で下校中。
昨日からの雨がまだ降り続いてる。雨は好きだけど、その中を傘差して歩くのは好きじゃねぇや。足元濡れるんなら、全身濡れたい。もしくは全く濡れたくねぇ。どっちかがいい。
「なんで今日に限ってこんな土砂降りなんだよぉ」
「お天道様が御機嫌損ねちゃったのよ」
「なんで?」
「忍、自分の胸に手を当てて考えて見なさい」
「……なんであたしが悪いみたいになってんの!?」
今、傘の柄を掴むふりして誤魔化したけど、手ぇ上げかけたよな?
「じゃあねぇ……」
人差し指を上に向けてくるくる回してるのは、ゆうがなんか言おうとしてる時の癖だ。何言う気だ。
「お天道様がお隠れになったから、雲の上で召使とか衛兵とかが泣いてんのよ」
えらく遠いところに居るな、召使や衛兵達。
「太陽死んじゃってるよ!?」
「どーせ後五十億年もしたらお亡くなりになるわよ」
冷めてんな。五十億年後なんか生きてねぇもんな。転生した先がどこなのかによるが。
「その前に地球がお亡くなりになります!」
「その前に地球の生物が滅びるな」
「火星に逃げるもん。多分」
「その火星もすぐ駄目になるわよ」
駄目になるとか言うなよ。
「えぇー……冥王星!」
「住めないでしょ」
「思いついたから適当に言ってみた」
だろうな。出来るだけ太陽から遠い所って考えてそこに行きついたんだろ。
「アンタレス! ……だっけ? さそり座のアレ。赤い奴」
「足付かないわよ」
ガス体だもんな。
「金星!」
「太陽に近づいてるわよ!?」
「水星!」
「余計に近づいてるじゃない!」
「明星!」
「それ金星!」
「地球!」
「お帰りなさい!」
あぁ、挨拶は大事だな、って、違うんじゃねぇか?
「スピカ!」
「綺麗な名前ね。何処よ!」
おとめ座α星。青白い一等星。
「シリアス!」
「シリウスでしょ?」
似てるけどな。
「ハマル!」
「だから何処よ?」
牡羊座α星。
「はやぶさ!」
「それは人工衛星でしょ? 星じゃないじゃない!」
「ミネルバ!」
「何処よ?」
ミネルバは星じゃなくて小惑星探査ロボット。はやぶさに乗っけられてた探査オプション。
「アリエス!」
「星座じゃない!」
好きだな、牡羊座。
「えぇーっと………………」
ここまで来てどもんなよ。
「ブラックホーム!」
「黒い家?」
「間違えた。ブラックホール!」
「忍、大丈夫?」
「ちょっと言い間違えただけでしょー」
拗ねんな。
「ところであたし達、何の話してたんだっけ?」
とにかく星に関係すること言ってただけじゃ無かったっけ。
「えぇと……どうして今日はこんなに土砂降りなのか、からお天道様がお隠れになって、その前に地球が、そのさらに前に地球の生物がお亡くなりに、って話になって、お亡くなりになる前に別の星に……で、なんでブラックホール?」
ゆう、よく覚えてたな。
「なんでかなんて聞く必要ないでしょー」
「そうね」
「よし、テメェ等。じゃああえて何故か言ってみやがれ」
『なんとなく』
さすが忍とその友人。