390 異世界の産物
「なー、兄ちゃん。異世界トリップってマジであんの?」
「どっから飛び出したんだ、その話題」
「たった今、ネット小説で」
岳だ。
姉ちゃんと光は何故か二人そろって日向で昼寝。
オレは面白いパズルか何かねーかなっとパソコンを弄ってたんだけど。なんとなく『小説』って打って検索して、何か出てきた小説サイトに入ってみたらびっくり。パソコンでこんなに小説って出回ってるもんなんだなー。
んで、何か適当にポイと読みだしてみたのが異世界トリップの話。
そういう訳で、暖房もついてないのにカップアイスを食べる兄ちゃんに聞いてみた。
「異世界トリップなんか、色んな奴がちょいちょいやってるぜ」
「マジで!?」
「ほら、何だっけ……あの、皐月姉のそばに居る茶髪。バイク持ってる」
「龍城さんか?」
忘れんなよ。
「あぁ、その人。龍城さんも正月にゲイム界ってトコに行った」
ゲイム界?
「何処だそりゃ」
「何処だろな。ここよりは結構離れてる方だったと思うけど。何しろ小っちゃいから」
異世界にでかいの小っちゃいのあんだ。
「ここは?」
「ん?」
「オレ等の世界はどれくらいでけぇの?」
「二大世界の一つ、って位だから一番目か二番目だな」
「マジで!?」
……あれ、ひょっとして宇宙込みか? そりゃデカいわ。
「ちなみに、科学が一番進歩してるのもここだ」
「うぉー。すっげ」
全く実感わかねぇけど。異世界なんか見た事ねぇし。
「魔法系のモンが一番劣ってんのもここだけどな。魔法とか、呪術とか、その他諸々」
目で見た事ねーもんな。
魔法を信じるか信じねーかって言われたらどっちとも言えねーけど。でもどっちかっと言うと信じない方に傾いてるな。オレは。
「一辺異世界行ってみてーなー。帰ってこれるのが前提で」
「言っとくけど、言葉違うぞ?」
うーん、それもそっか。
「…………英語?」
「場所によっちゃ、それに似たのもあるな。ゲイム界なんかライム語って別な名前付いてたけど日本語だったし」
マジか。
「じゃあオレゲイム界行ってみてーな」
「普通に魔物出るぞ?」
………………。
「魔物ってどんなんだ?」
「ゲームに出て来そうなのを想像すれば大体合ってる」
魔物の出て来るゲームなんか持ってねーよ。じゃあ自分で考えるか。ゲームに出てきそうなの……。
「うーん、弱そ」
「……どんなの想像したんだ」
「ジャック」
「誰だよ」
「奈那子さん家の近所の犬。ふっさふっさで、でかくて、黒い」
でも臆病。弱そうに見えるわけだ。
「魔物っつっても全部が黒いわけじゃねぇよ。ほら、そこに……何か知らんがマジモンが居る」
ぅえ!?
兄ちゃんの見た方、裏口の方に三毛猫、じゃなくて三毛蛇が。……いや、蛇は毛じゃなくて鱗だった。白に黒と茶色のぶちがある蛇。が、家ん中に居る。
「何だよコイツ!?」
「魔物だろ」
いや、どっちかと言うと神っぽい。だって白蛇に黒と茶色の絵の具点々とこぼしたみたいだし。
「あ、どっか行った。……あれ、兄ちゃん、どした?」
アイス食うのに使ってたスプーン口にくわえたまま上下させたりして。行儀悪いぞー!
「あ、思い出した」
「何をだよ?」
「あれの牙と吐息、毒あるんだ」
…………え。
「うぇええええ!?」
「でもってその気になりゃ火も吹く」
「嘘ぉおおおっ!?」
「早く捕まるといいな」
「呑気だな!?」
なんでまたアイス食い始められるんだ! っつーかまだ食い終わって無かったのか。
「アレは基本的に大人しい生き物だから」
「あぁ、なんだ……」
おどかすなよ……。
「もっとも? 生き物には性格があるんだから、さっきのが間違いなく大人しい、なんて保証はねぇんだけどな」
………………。
「純兄! 斜め隣りのそのまた隣の庭のゴミから突然出火したって! すぐ消したらしいけど、原因分かんないんだってよ? なんでだろ」
……あの蛇は関係ない、あの蛇は関係ない。