389 チラシの運命
「しーちゃん、今日もまた変なのが居る」
「変なのって言わないの。もー、この子は本とに」
……お母さん?
忍です。
下校中です。
メンバーはあたしとしーちゃんに清、なっくんです。
ちなみに、あたしが言った『変なの』は別に変なものじゃありません。白い封筒に入ったナニカを配ってるおじさんです。ほら、あの、よくポケットティッシュとか配ってるような感じの。
ただし、ポケットティッシュ配ってる人と違うのは、封筒はティッシュほど役に立たない。そんなに手紙出さないし。
「どーぞー」
なっくんは華麗にスルー。見向きもしなかった。いや、正確に言うとちょっと見て鼻で笑った。
清はわざわざ歩道から出ておじさんに封筒を渡されないようにした。わざっわざ。
あたしは思いっきり『迷惑だと思ってるけど言っちゃいけないよな』風の困った顔をしてやった。
しーちゃんは封筒を受取った。
「って、貰うの? 何入ってる?」
黄色い紙が見えるけど。
「チラシ」
「何の?」
「家庭教師だな。貰って損した」
ドンマイ。
あたしもちょっと借りて見てみた。うん、家庭教師の宣伝だ。電話番号とか色々書かれてる。
「はい。ありがと」
「いらない。あげる」
「あたしだっていらん」
「あたしもいらない」
んじゃ貰うなよ。
しーちゃんに押付けようとしてると、清が肩をちょいちょい、と。
「忍、貸して貸して。紙飛行機折ってその田んぼの中にでも……」
「おー、いいねー」
「ポイ捨てはダメでしょ!」
お母さんだー。
チラシはしーちゃんに取り上げられた。冗談だよー。
「家庭教師ってさー。実際には見たことないけど『おかまいなく』的なこと言いそう」
なっくん、それ絶対想像でしょ。あたしも見たこと無いけどね。家庭教師。だからあたしも想像に想像を重ねてみよう。
「でも何だかかまわなきゃいけないような気がする?」
「そうそう」
「お前等家庭教師雇った事あんの?」
『ない』
清に呆れられる日が来ようとは思わなかった。前にも来たことあったっけ? 無かった?
「俺は塾行ってるから必要なし。清もだろ?」
「え、清って塾行ってんの!?」
「……塾行ってねー奴の方が少なくね?」
はーい、あたし行ってませーん。純兄も、しーちゃんも、桜も行ってませーん。
「あたしは塾行ったり家庭教師付いたりしなくてもおとーさんが居るもん。純兄も居るし」
「いいよなー。教えてくれる人が近くに居て。オレん家なんか『自分で調べろ』だぜ?」
「俺だったら清にはこう言うな。『自分で考えろ』」
「あぁ、数学だから?」
「そう」
「考えてできるんならとっくにやってら!」
数学は考えてやるモンでしょ?
「忍、ちょっと思ったんだけど」
「何ー、しーちゃん」
「前、純と一緒にお祖母ちゃんから英語教えてもらってるって言ってなかった? それって塾みたいなものじゃないか?」
あー、それね。
「いつの間にか無くなってた。夏休みあたりから」
『えー』
視線が冷たい。凍えそう。……って程ではないんだけど。
純兄はたまに行ってるみたいだけど。もっとも英語じゃなくて中国語。興味あったんだって。
…………純兄って何ヶ国語話せるんだろう。異世界込みで。
「ん? 何だこりゃ」
「紙ふぶきの後、とか」
白と黄色の一枚が大きい紙ふぶき。なっくんが見たのはその残骸といいますか、よーするに紙くず。
「誰かがあの家庭教師のチラシと封筒、破って捨てたな」
わぁー、あたしがやりたかった。明日学校で犯人探しなんかされるのめんどくさいからやらないけどさ。
でも、これやった人にちょっとだけ拍手送っていい? この寒い中頑張ってチラシ配ってる人には悪いけど。