380 ちょっと置きに
「うーっす」
「よーっす!」
わー、変なの来たー。
忍です。
変なの来ました。
いや、それが何なのかは分かってるよ。皐月姉と龍城さん。
問題なのは、洗濯物取り込んで鍵を閉めたばかりのベランダからこいつ等が入ってきた事だよ。
「純にー! 岳ー! 光ー! 誰か警察に電話してー! なっくん以外の不法侵入者ー!」
誰も電話しそうに無いな、うん。
「ちょいちょい、そりゃー酷いんじゃねぇですかい。山口からはるばるバイクで会いに来たってのに」
「新幹線だったらもっと早いと思うよ」
「金かかるじゃねぇっすか」
金か。
「わーっ! 純ちゃん! 本気で電話しちゃいけん!」
「不法侵入には違いねぇ」
「だったらなんでなっくんはええの!?」
「皐月姉達と一緒に言っとこう」
「だから本当にすんな!」
警察に電話される事くらいのことやってるからね、あんた等。怒る権利ないよ。
「あ~、久し振りだ~!」
「光ちゃん!」
あれ、電話しないでとか騒いでたくせに、あっさり光のほうに行っちゃった。やんないって分かってるからか。そんなことしてたら本当に電話しちゃうぞ。
「そーそー、土産ありやすぜ」
「お土産?」
「それそれ! ういろう! 龍城持っちょーけん、皆で食べりっちゃ」
ういろうかー。和菓子だよね? 何でろうそく思い浮かべたんだろうあたし。ロウって付いてるから?
「姉御、俺が言おうとしてたの取らねぇでくだせぇ」
言いたかったんだ。
「ま、いいや。まだありやすぜぃ! もみじ饅頭!」
「広島通ったんだ」
「あと、ポテチ! 新幹線の中で売っちょった」
あんた等バイクで来たんじゃなかったの? 新幹線乗ってないんじゃないの?
「いっぺん喧嘩して別ルート通ったんでさぁ」
喧嘩して別ルート通ってなんでまた合流できたの。あ、携帯があんのか。
「チリンチリンアイス! ……の、ドロップでさぁ」
龍城さん、長崎からここまで来る間に山口通ったでしょ?
「いっぱいだね~!」
しかも全部食べ物。
「大阪ゆるキャラキーホルダーじゃ!」
あ、可愛い。そして食べ物じゃなくなった。
「九州ご当地キーホルダーでさぁ! 全部博多で買いやした」
「それもうご当地じゃないでしょ!?」
「売っちょったんじゃけぇしゃぁねぇじゃねぇっすか」
何で売ってたんだろう。
「岡山のオカリナ! ダ〇ソーで買った!」
岡山じゃなくても買えるじゃん!
「じゃあこれぁどうでい! 異世界の腕輪!」
胡散臭い事この上ないわ!
「ま、これはやんねぇっすけど」
「駄目。没収」
「えぇ!?」
「異世界のモン持ち込んじゃ駄目つったでしょ」
いつ言ったの? そしていつ異世界に行ったの、龍城さん。
「さぁ、どれが気に入った!? 選びい!」
『えぇ!?』
どれか一個だけ、てか?
「九州ご当地キーホルダーは一まとめっすよ」
大阪のゆるきゃらキーホルダーだけ違うんだよね……。
「じゃあオレ、もみじ饅頭!」
「あたしはチリンチリンアイスドロップ」
「んじゃ俺ういろう」
「私オカリナ~!」
オカリナ!? お土産らしくない上に、安物なのに!?
「俺の勝ちっすね、姉御」
うん?
「どっちの土産のほうがウケがいいか勝負してたんでさぁ。あ、それ全部置いてくんで、海中さん家にもよろしく」
あっそう……。
「姉御ー、はぶてちょらんで、行きやすぜ」
「ちぇー、絶対あたしんじゃ思っちょったんに」
拗ねた皐月姉とご機嫌の龍城さんはそのまま外に。……そういやどうやって入ってきたんだろう。
「結局何しに来たの~?」
『土産置きに』
自分家かここは!