378 お茶碗そーどー
貴方は二階に居ます。
貴方ん家が平屋だろうがアパートだろうがビルだろうが関係ありません。
二階建ての家の二階に貴方は居ます。
で。
突然一階から、
がっしゃぁあああああん!
なんて音が二つも三つも四つも聞こえてきたらどーしますか!
忍です。
何が起こった!?
何かが割れた、ってのは分かる。
一つならまだ分かる。二つだったならまぁ分かる。
でも、四つだよ? どーやって聞き分けたのかはともかく四つも何か割れたよ?
…………下りてみよう。
「おかーさーん? どしたの」
「聞いて分からなかったかな~」
「いや、分かんないよ。何か割れたって事しか」
「そらそうだ~」
そーれ見ろ。
「で、どしたの」
「お茶碗割れた~」
「それは分かった。何やって四つも割ったの。と言うかどーやったら割れるの」
「落としたら~」
そらそうだ。
まさか壁に叩きつけた訳じゃあるまいし。まさかバットを茶碗に振り下ろしたわけじゃあるまいし。
「忍~、そっからビニール袋とってくれる~?」
「あい」
そっからってどっからだ。
背後を振り返ったら目の前にありました。
…………大量に。山盛り。
「何の袋?」
「ゴミ袋~」
「その前は」
「スーパーの袋~」
見たら分かるて。なんでこんなにたくさんあるのかが知りたいの。
「塵も積もれば~」
「おかーさんエコバック持ってってるよね」
「忘れ物も積もれば~」
何回忘れたんだ!?
「わ~、大変な事になってる~!」
光ー、来ちゃだめだよー。と言うか来る気無いね。明らかに。さっさと椅子の上に避難してるし。
「お母さんと純と忍と光のお茶碗が割れちゃった~」
どんだけ脆いの。茶碗ってそう簡単に割れるもんじゃ無かったような気が。あたしの勘違いですかー?
「うっわー! 大惨事じゃん。何したんだよ、コレ」
「茶碗落っことしたって。音聞こえたでしょ」
「すっげー集中してたから気付かなかった」
ほー。
集中してたのはゲームにか、漫画にか。
「何に~?」
「百マス計算」
なんでっ!? なんでよりによって百マス計算!?
「兄ちゃんと対戦してたんだ」
「負けたのか~」
光、『勝てた?』て聞いてあげようよ。せめて聞くくらいはしてあげよう。
「まぁ負けたけど……差は縮まって来てんだぜ!」
ほー。凄いねー。あたし、計算なんか全然早くできないのに。解いた問題が少ないからか?
「あ、岳の茶碗無事だ」
「マジで? こんなに割れてんのに? つーか何個割れたんだ」
「四」
「マジで!? つえーな、オレの茶碗」
強い茶碗ってどんなの?
「岳のだけ、前使ってた茶碗が残ってるよな」
あ、純兄。その手に持ってるのって……。岳が小っちゃい時に使ってた茶碗。今じゃそれに入るだけじゃ足りなくなっちゃって使われなくなっちゃった奴。
「何で兄ちゃん持ってんだ!? 何入れてんだよ!」
「半分腐った生魚」
「マジで何入れてんだぁっ! どっから持ってきたんだよそんなモン!」
「ガッコの帰りに拾った」
「何で持ち帰ってんだ!? いや、それ以前によく落ちてたな! 鴉に食われずに!」
「だろ? だから鴉にやろう」
「オレの茶碗の意味は!?」
「餌皿」
「ハッキリ言うなっ!」
ぼそぼそと言ってほしかったの?
「鴉にやろうって~? どこに居るの~?」
「何か知らんが、岳が出てった途端窓の外に落っこちてきた」
すげーな。すっごい怖いけど。
「怪我してたから、治療ついでに一応飯も」
『優しー』
棒読みです。
「折角だから、恩返しを期待して」
そんなこったろうと思ったけども。
「鴉って恩返しするかー?」
「しなさそ~」
「したとしても、狩りの成果置いて行きそー」
「…………確かに」
認めるんか。
「でも死なれたら死なれたで目覚め悪ぃだろうが」
「幽霊狩るの好きとか言ってなかったか」
「きゃ~、純お兄ちゃんが殺人鬼に~」
いや、相手幽霊だから。もう死んでる。
「今は人間だから人間の思考をするんだよ」
あー、純兄待って。その鴉あたしも気になる。
「……だからっ! オレの茶碗餌皿にすんなよ!」
「使わねぇんだからいいだろ」
「あ、そっか」
え、納得すんの?