377 哀しきぬいぐるみ
………………あのぅ、私は一体どうすればよいのでしょうか。ちょっと教えていただけませんか。
ニンジンとサツマイモの甘煮です。
私の大きさは冷蔵庫位あります。
冷蔵庫にもいろいろな大きさがありますが、純さんより数センチ高いくらいです。座った格好で、ですけどね。ぬいぐるみなんで。
それで、私は一体どうすればよいのでしょうか。
「押し入れから出したはいいけどさー、どうすんのよこれ」
「そもそも何で出したんだ」
「なんでだっけ?」
「言いだしっぺ忍だろーがコラ。それも、もう外真っ暗って頃になってから」
忍さんと純さんと夏さんに囲まれているのですが。
いきなり押し入れから引き出されて、座らされて、これですよ。
「何で出したの?」
「その言葉そのままおめぇに返してくれるわっ!」
「いや、なんで理由も分からないまま出すの手伝ってくれたのかなーと」
あの、理由もなく引きずり出されたんですか私は。勘弁してくださいよー。ずりずり引きずられるのって痛いんですよ?
「なんで手伝ってくれたのって。そりゃ、面白いことでもあんのかと思ったから……」
「ボーっとしてたところに手伝ってって言われたから」
純さん、貴方意外と単純なんですね。
「どうもありがとう」
『どういたしまして』
………………あれ? 終わりですか!?
「で、どうするよコレ。出したからには何か役に立ててから片付けんと、損した気分しか貰えんよ」
夏さん、十四、十五の貴方達にぬいぐるみってどう役に立つものなんですか。
そして私からすれば、貴方達三人に良い思い出は無いのですがっ!
十年くらい前の話ですよ。
この子達はもう、体当たりして来たり、蹴って来たり、殴って来たりと滅茶苦茶やって来たんです! 子どもだったからですか!? この私のやわらかい体なら、どんな衝撃でも止められると思ってたんですか!? いや実際止めて見せましたけど!
「やっぱさ、ニンジンとサツマイモの甘煮と言ったらこれでしょ」
そう言って忍さんは私の胸のなかへダーイブ! ぐほっ。
「楽しいよなー。でもそれ、俺がやったらどっかで頭打つわ」
そうですね。夏さん、いつの間にか私より数センチほど高くなってますから。……いつの間に。
「あー、やーらか」
ふふん。さっきのタックルはいただけませんが(いただきましたけども)気持ち良さそうにしてくれるのは嬉しいですね。
「忍、寝んなよ?」
「………………」
あれ、忍さん? 夏さんが寄ってきて、片膝ついて、顔を覗き込んで、
「……寝てやがんの」
凄いですね忍さん! この一瞬で!?
「演技だろ?」
演技ですかっ! ……いやでも、寝たままですよ? 呼吸もゆっくり……。
「演技だけども眠いのはホントー。何でこんなに眠いかな」
って、本当に演技だったんですか! コロッと変わりましたね!
「ん、忍。時計を見てみろ」
「ほい。何処?」
……壁になんかかけてませんもんねぇ。理由は『秒針の音がうるさいから』音出ない奴もあるって聞いた事があるんですけど。
「机に置いてあんだろ」
「あー、ホントだ。十時十五分。眠い訳だ」
貴女いつもこの時間は起きてますよね。扉が開く際に見えますよ、貴女が机に向かってるトコ。
「昨日寝たのも遅かったし、今日は起きるの早かったし。眠い」
「寝れば? 風呂入ったんだろ」
……それで少し髪が湿ってたんですね。
「あれ、それパジャマ? 普段着かと思った」
私に言わせればどのパジャマも普段着と見分けがつきませんが。だって私、服着ませんから。
「そうしよー」
「…………なぁ、俺が呼ばれた意味は?」
「特になーし。それじゃお休み」
『お休み』
……純さん夏さん、貴方達、忍さんに振り回されただけじゃないですか?
「俺も寝る。忍の様子見てたら眠気がうつった」
「じゃー俺も帰るわ。何故か眠い」
「んー」
……いやほんと、振り回されちゃいませんか。
そして、一番振り回されてるのって私じゃないですか。しかも最後は放置かぁっ!