372 普段そんなに優しくない人が優しいと凄く優しく見える。か、怖い
「わぁっ、綺麗。置物?」
「馬鹿者、和菓子だ。置物なんぞにしていたらいずれ見てられなくなるぞ」
「あぁ、これが!」
「そう、これが」
「あの有名な!」
「有名なのか」
「洋菓子!」
「和菓子だと言っただろう!?」
……誰だろ。部隊部屋に第十三部隊では無い誰かが居る。何か部隊長に怒鳴られてるけど。
「あ、こんばんは。純」
「リオ、あれ誰?」
「さぁ? さっき突然やって来た」
「胸章は? 見えなかったのか?」
何処の部隊か彫ってある筈だけど。照明を反射してたら見えねぇかな。金属だし。
「あぁ、それは見えたよ。第五部隊だ」
第五部隊……確か、伝令班があった筈。仕事でも持ってきたのかな。
「シェア、貴様は物を知らなさ過ぎるぞ」
「そう? なら、妙羅は働かなさすぎね。体鈍ってるんじゃないの」
いいぞ、シェアさんとか言う人。もっと言ってくれ。緑茶か何か出すから。
「シェア……あ、第五部隊の部隊長だ。シェア・アイレルさん」
「何で気付かなかったよ。部隊長の胸章は金色だろ?」
ちなみに、第十三部隊には無いけど、班分けされているとこの班長は銀色。そうでない奴等は銅色。俺等第十三部隊は銀縁の黒。特別なのだと取るか、差別と取るか。
「純ちゃん、和菓子がありますよ。食べますか?」
「はい。ありがとうございます」
マーリさんが差し出したのは、色とりどりの和菓子が並んだ箱……選べってか。じゃあこの、栗が埋まってる奴貰おう。
他にも花をかたどった物だの、あんこを求肥で包んだものだのが数個。隙間が開いてるから、何個か食べられた後なんだな。
「妙羅部隊長が買ってきてくださったんですよ。シェア部隊長をおもてなしする分のついでにって」
置物とか言ってごめんなさい、置物妙羅部隊長。また言った? 事実なんだからしょうがねぇだろ。命令しかしてねぇし。……ところで、
「……ついでの方が多かないですか」
「うふ、そうですね。でも甘いのが苦手な方もいらっしゃいますから」
どちらにしてもついでの方が多いじゃねぇか。
「和菓子なんかよく食べられるなー。甘過ぎるでしょ」
「緑茶飲みながら食ったら丁度いいんだよ」
あれ、マーリさん、何処に……緑茶淹れに行ってくださるそうな。どうも。
「舌痺れるでしょ」
「それは無い」
「えぇっ!?」
そんなに驚く事か?
「そもそも、テメェの味覚はおかしいだろ。否定するつもりはねぇけど、やっぱ変」
「それ否定してるも同然だよ? 辛い物好きの何処がおかしいのさ」
テメェの辛い物好き度がおかしい。何が悲しくてクッキーを生の唐辛子と一緒に食ってんだ。
「じゃあ、そろそろお暇するわ。和菓子、ご馳走様」
「あぁ。また時間があったら好きな時に来い」
「そうする」
母さんや秋さんと同じくらいの年だな、外見は。死ぬ前が人間でなかったら年の取り方違うからよく分かんねぇ。
「おい、純は居るか?」
「はい?」
折角丁度マーリさんがお茶持って来てくれた所なのに。俺の和菓子、取っといてもらおう。仕事だったらまぁたしばらく戻って来れねぇし。
「何ですか? ……あ、和菓子ありがとうございます」
「……貴様から素直に礼を言われると妙な気分だな」
「ん? 嫌味言って欲しいんですか? マゾ?」
「いちいち嫌味を言わんと喋れんのか」
妙な気分だっつったの誰だよ。わざわざ付け足したのに。
「で、何ですか?」
「あぁ……明日から貴様が中学校とやらを卒業するまで、休んでいいぞ」
「……ん?」
「耳はいいだろう、貴様。聞こえなかったのか? 貴様の世界の時間で、三月十五日が終わるまでは休んでいいと言ったんだ」
聞こえてるよ。
「一ヶ月以上も?」
「そうだ。上からもそうしろと」
上……って、何だ。上に何か居るのは知ってるけど、その上って何なんだ。上としか呼ばれてねぇし。
「この数ヶ月、根詰めて働いてただろう? その分の休みだ」
その分、っつっても半分以下だけどな。
「と言うか、貴様、休むつもりで働いていたのではないのか」
「まぁ……十六日から一ヶ月、のつもりだったんですけど」
何で知ってんだよテメェ。
「精々生命保存期間最後の一ヶ月を楽しむ事だな」
「違います、一ヶ月と四日です」
「…………どちらにしても、以上だ。あぁ、ちなみに貴様がずっとやっている……レイチェルだったか? 魔女が異世界を渡った場合は他の者を向かわせるから、心配するな」
「はい。……ありがとうございます」
一ヶ月と四日、夏休み並みの長さじゃねぇか。元々考えてたのより四日も長いし。休むために何だかんだへ理屈ごねる必要もねぇし。……うっわぁ、すげぇ嬉しい。上に誰が居るのかともかく、感謝しとこ。
「良かったね。俺も欲しいなー、長期休暇」
「リオンちゃんじゃ無理ですよ。だっていっつもサボってらっしゃいますもの」
「えー、いつもじゃないよ? やるときはやるんだから」
「まぁ、是非拝見したいですわ。今度、私の仕事に付き添ってもらいましょうか」
「仕事増やすのは勘弁して!」
ん、この和菓子旨ぇ。妙羅にも少し感謝しとこう。