370 読書は好きだよ
「ただいまー……あれ? 姉ちゃん、今日は勉強してねーの?」
「……何、岳。その珍獣でも見るような目。元はこうだったでしょーが」
「いやまぁ、そうだけど」
認めるんか。いや、あたしが言った事だけども。
「最近勉強やってることの方が多かったからさー」
そーだっけ? そうかも。あれ、そうだっけ。
うん、どちらにしてもね。受験の前日に勉強するのはあたし好かないの。それが併願の私立でも。
忍です。
帰ってから適当に着替えて、本読んでいます。図書室で借りてきた冒険ファンタジー。まぁ、厚いっちゃ厚いけど、半日あれば余裕で読める。うっかり数行飛ばして訳分からんことになるのはよくあること。
「あ、そうだ」
「何だよ?」
「お帰り」
「……あ、うん……って、それだけ!?」
挨拶は大事でしょ?
「光は?」
「そこで寝てる」
そこ、と言うか、ここ。
あたしはソファーの隅っこに縮こまって本読んでるんだけど、その反対側の隅っこに体埋めて、純兄も本読んでるんだ。あたしが借りてきたはずのを。
片足立膝にして、もうかたっぽは膝枕に……いつの間にされたんだろう。とにかく、そこで光が寝てる。そろそろ起こしてやんないと眠れなくなるかな。
「ふーん。姉ちゃん達、何読んでんだ?」
「あたしのはレノの旅」
なんとなく目に入ったから、なんとなく借りたんだけど、結構面白い。
「兄ちゃんのは?」
「ん……霊狩り……」
「ふーん……」
これもファンタジー。幽霊を狩るって内容……じゃ、ないかなぁ? タイトルが霊狩りだし。まだ読んでない。
「面白い?」
『うん』
あ、霊狩り、面白い?
「んじゃ後で貸してくれよ」
「ほいな」
「ん」
岳も面白い本は好きよな。あれ、岳どこ行くのー。二階に上がってった。宿題でもするのかな? ……かなぁ?
「純兄、それ面白いの?」
「ん……テメェが借りてきた本だろ……」
まぁそうなんですが。
「まだ読んでないんだよ」
「ふーん……」
もうこれ以上は反応してくれそうにないな。
きっと今頃、純兄の頭の中ではキャラクターが駆けずり回ってること間違いなし!
「純兄ー」
「…………」
ほらね。
あたしも本の世界に漬かっちゃおう。うん。
「あふ~……おはよ~」
…………。
「う~、返してくれたっていいのに~。ちょっとくらい本の世界から顔出してくれてもいいのに~」
………………。
「お姉ちゃんも挨拶は大事って言ってるくせに~」
……あ……何だか似てると思ったら、この二人姉妹だったのかー。
「も~、どこかに反応してくれる人居ないのかな~! 幽霊でもお化けでもいいんだけどな~!」
うわ、キィだ。この人使い捨てのモブキャラじゃ無かったんだ!
『私を呼んだ?』
「う~ん~……話し相手を呼んだからあなたを呼んだって事じゃ~……どっちでもいいや~。話し相手になってくれる~?」
『喜んで!』
…………………………あれ?
誰だ、光と話してるあの幽霊。
「忍、返す」
「あーい、あれ、もう読み終わったの?」
「ん」
早いなぁ。もっとゆっくり読めばいいのに。いや、決してあたしが言えることじゃないことは自覚してるけども。
「で、光? どちら様だ」
「ふ~んだ~」
……無視したから怒ってるのか。幽霊ちゃんまで一緒に。岳と同い年くらいの女の子……何でまたこんなところに。
「純兄、狩っちゃ駄目よ?」
いや、なんとなく。霊狩り、なんて本読んだ後だから。
「今更? 忍、死神がさ、幽霊を冥界に送ることを何て言うか知ってるか」
「知ってるわけ無いでしょ。何も話してくれないもん」
「あぁ、そうか。《霊狩り》って言うんだ」
……マジでか。
「ま、その本で霊を狩るのは人間だったけど。しかも、狩るって言っても言葉で。説得なり未練を解決するなりして」
そりゃーそうだろうなぁ。
「でも俺は本当に狩る方が好き。さぁどうする?」
あたしに振るな。そーゆー発言する純兄が人間としてどうするよ。今は違う? 元は人間でしょうが。
「で~、お姉ちゃん達何読んでたの~?」
あ、光、機嫌直った?
「あたしはレノの旅、純兄のは霊狩り」
「おもしろい~?」
『うん』
「じゃあ後で貸して~!」
……コレ、いつ図書室に返せるかな。