369 破片にご注意ください
「平和だねー」
「羨ましいな」
純兄、何が? 聞く必要はないか。あたしがだろ。
教室の外……つまり廊下で、なっくんと岬と清がぎゃいぎゃいわいわい喚きながら取っ組み合ってるのに、呑気に平和って言えるあたしが羨ましいんだ。
真ん前で観戦してるけどね、あたしは。廊下側の窓枠に頬杖ついて。
忍でーす。
「俺も参加してぇな」
「って、そっち!?」
「ん? 何が羨ましいと思ったんだ?」
あたしが、とはちょっと言いにくい。んーと、んーと。
「何事も無いかのように寝てる田中さん」
「うーん、まぁ羨ましいっちゃ平和的で羨ましいけど。でもあっちの方が楽しそう」
楽しそう、か?
完全に罵り合ってるけど。明らかに喧嘩なんだけど。
「混ざったら?」
「俺が? 入った瞬間終わっちまうだろうが」
確かに。
「それに……」
あ、真横でガラスが割れた。
純兄側だったからあたしは無傷だけど……純兄は破片の直撃喰らってるんじゃ。
「……こういう事になって怒られんのはごめんだからな」
「兄、大丈夫?」
「兄?」
「純兄の略」
純兄って言うのもすでに略だけどさ。『純お兄ちゃん』の。
「すでに略だろ、とは言わないでおいてやる」
「今言ったよ?」
「うん。言った。だから?」
なんでそんなに開き直るの。開き直りすぎだよ。
「で、大丈夫なの?」
「大丈夫。それより……」
ん? 純兄の視線の先……。あ、山本さんが直撃喰らってた。
「山本、動くなよ。目立つところのだけでも取っとくから」
「う、うん」
あたしも手伝おー。
きらきら光ってるガラスの破片をちょびちょびと。……野次馬が増えてきたな。
「あれ? ほっぺ切れてる。絆創膏いる?」
「え? あ……ありがとう?」
遠慮しまくってるよ、この子。えーっと、確かスカートのポケットに絆創膏……。
「清っ!」
あ、廊下に出てきたしーちゃんが怒鳴りつけてる。清オンリー?
「なっく~ん? ちょっとこれはオイタが過ぎると思うんやけど、どうやろ? わたしも怒ろか? 夏っ!」
桜は怒って無いな。顔が笑ってる。
「はいはい、教室に戻りなさーい!」
あ、先生の登場。美術の川岸先生が言ったおかげで、皆がぞろぞろと教室に戻り始めてる。
柿ピーだったらこうはいかない。
「海中、高崎、村田。落ち着け」
いや、川岸先生。落ち着けって言うべき相手が間違ってるよ。まずしーちゃんに言うべきだ。
「いいか? 受験もすぐで、不安なのはわかる。でも落ち着け」
……あ、受験ってもうすぐか。いや、あれ? 私立は明後日じゃ……目前!?
なんで今まで気付かなかったよ!
「おい、忍? おい」
「ほい?」
「あのな、川岸先生は『落ち着け』っつったんだ。焦ってどうする」
「落ち着いた。『焦って』のとこで」
「あまんじゃく」
あはは。ガラス取りガラス取り。
「大体とれたと思うけど。その団子の中までは保障しねぇよ」
まさか潜り込むこたないでしょーけど。
「うん、ありがとう」
あれ? しーちゃんが小言言うの再開してる。川岸先生、問題児三人連れてどっか行っちゃった。
「はいはーい、ちょっと退いて」
で、柿ピーが箒と塵取りもってガラスの破片の回収。
…………川岸先生みたいなんね、威厳たっぷりの先生見た後に柿ピー見るといっつも思うんだ。
用務員さん?