368 しのぶちゃんにっき
……押入れって、たまにえらくなっつかしいモン出てくるよな。
純だ。
押入れの上の小さい押入れから、何か紙みたいなのがはみ出てたから出してみた。
青いチェック柄の表紙した日記だった。古そうだけど、結構綺麗…………ん? はみ出してたのどの部分だ? あれ?
……いっか。気になることは気になるけど、知って何か得するわけじゃなし。
で、この日記誰のだ。
裏表紙の『なまえ』って書かれてる欄にネームペンで大きく『たか山しのぶ』って書かれてる。……誰かに提出する訳でもないのに。変なところ几帳面だな。今なら絶対書かねぇだろうけど。
『1月1日 はれ
やっときょうから日っきをつけられる。11月の終わりからまってたからうれしい』
…………あぁ、折角元旦が近いからわざわざ一ヶ月待ってたんだな。何で十二月からじゃダメだったんだ?
『きょう、おじちゃんのうちでおしょう月のおいわいをした。おみくじは凶だった。凶って何て読むの?』
周りの誰かに聞けよ。
『ってきいたら、じゅんくんが「きち」っておしえてくれた』
あぁ、ちゃんと聞いたのか。でも多分それ、その年の俺のおみくじ。
『1月2日 はれのちくもり
おせちはまだまだのこってたからたべた。くりきんとんっておいしい。うちもつくりたいとおもった』
今まで一回も作ってねぇけどな。
『そとがくらいからてるてるぼうずをつくった』
んー、俺は曇や雨の方が好きだな。
話が急に変わる事はまぁ、書いてるの小一、小ニ位の奴だしな。
『それをさかさまにつるしたから、ふれふれぼうずになった』
あぁ、そう。忍はそういう奴だ。
『あした雨になぁーれ!』
ここが天気だったら可愛いのにな。雨って書かれてると『微笑ましい』というより『苦笑が漏れる』の方が正しい。
『1月3日 はれ
ふれふれぼうずのくびをちぎった』
あ、やっぱりやったんだ。
『じゅんくんもちぎってた。たけるもちぎった。ひーちゃんはしゃぶってグチョグチョにした』
赤んぼだからな。……俺が参加してたことについては驚けない。小学五年か四年の時にもやってたから。
『いっぱいあったからおかあさんにおこられた』
だろうなぁ! あの時にも怒られた。つまりなんだ? こりてねぇってか。
『1月4日 はれ
おかあさんのたんじょう日だから、いそがしい。ケーキがたのしみ』
この日はこれしか書いてねぇな。そのくせケーキのことはしっかり書いてやがる。
『1月5日 雨
足がぐちょぐちょして気もちわるかった』
降ったら降ったで文句言うのかよ。
『おかあさんとでんわしてるのはおとうさんで、おとうさんはなべにしようっていったっておかあさんがいった。でも、きのうもなべだった』
親父、鍋好きだからなぁ。土日のどっちかは鍋になる確立が高い。反対されて変わる事もよくあるけど。
『じゅんくんと一しょにいやだって言ったら、たけるもやだっていった。おかあさんはエビフライにしようっていった』
『岳はよく分かってなかったけど、俺等のまねをした』に一票。絶対そうだ。
『でも、おとうさんは、すきだからっていわしをかってきた』
きっと残念がっただろうな。エビフライ好きだから。さらに言うと、魚全般嫌いだったから。
晩飯エビフライだと思って楽しみにしてたら、嫌いな魚を持って帰って……うん、きっとじゃなくて、間違いなく残念がった。というか拗ねた。
『でも、おかあさんはいわしがきらいだった』
あれ、そうだったっけ?
大人が好き嫌いしてるのって良く分かんねぇのに、よく気付いたな。それか母さんが自分で言ったか。
『みんながすきっていってるものはちがうなぁとおもった』
十人十色、ってか。小学生の癖にやったら大人びた事を。
『九月三十日 ほこり』
あれ!?
えらく飛んだ、と言う以前に、なんで天気の部分が『ほこり』になってんだよ。
字もまた、随分小さくなってるし……。
『本だなに日記が入ってるの見つけた。そういやあったな、こんなの。ほこりまみれなになってたから、天気はほこり。正しくはくもり。どっちにしろ灰色』
……数ヶ月どころか数年飛んでやがる。
『このノートもったいないな、と思いつつ続ける気はさらさらない事をここに記すー。って、書いたら何てつっこまれるかな?』
自分でつっこめるだろ。
「純兄、何読んでるの?」
ん、忍か。
「あった奴。はい、返す」
「え? あたしの?」
「そ。勿体ねぇな、そのノート」
無反応でぱらぱらとめくって見てるけど……。
「ほんと、勿体ないなー」
…………………………終わりか?