367 いろんな感情が渦巻いている……っぽいよ?
「…………お~い、玲奈ちゃ~ん? 凄く怖いよ? その目」
はい無ご~ん。
でもこれじゃあわたしはへこたれないよ。
もう一回。
「玲奈ちゃ~ん、凄く目が怖いよ~? 殺気立ってるよ~」
桜で~す。
玲奈の目つきが半端なく悪いです。
自分の席に座って、背筋伸ばして、手はお膝の上にして、で、純くんを鬼の形相で睨んでいます。
何があったの? 好きな人なんじゃ無かったの? 何なのマジで勘弁してよ~。何を勘弁? わたしが首突っ込まなきゃいいだけでしょ?
あぁそうだった。でも気になるんだも~ん!
誰かわたしの好奇心を止めてぇ~っ!
「篠~、どうしよう」
「ほっとけほっとけ」
「それが出来たら苦労しないんだよ~」
「北の森まで旅に行け」
「なんで!?」
それで何か解決するの……と言う以前にこの辺りに森は無いよ~。
「玲奈、何かあった?」
篠~! 置いて行かないで~!
「純が」
玲奈~、なんでわたしには反応してくれなかったくせして篠には反応するのよぉ?
「純が?」
「屋上で」
「屋上で?」
「風見さんと」
「カザミさんって誰だ?」
四組の子でしょ? ちょっぴり有名だけど。篠は知らないの?
「一緒の毛布被って楽しそうに会話してた」
「質問に答えろぉ」
こっちの質問に答えてる途中にさらに質問を重ねられてそれに答えろと文句言われる。
こう言うと理不尽に聞こえるね~。
……………………続きは無いよ?
「忍ー、玲奈が変だ」
「前からじゃん」
忍には言われたくないと思うなぁ。
「玲奈ー、どしたの? 鬼の顔してたら純兄に笑われるよ?」
純くんが笑うのって、怒る時だけじゃないの~?
「ってか、すでになっくんに笑われてるよ?」
あ~、さっきから教室騒がしいな~と思ってたんだ~。なっくんが笑ってたからか~。納得納得。
「忍!」
「はいっ?」
あの忍が引き気味だよ~、直立不動の姿勢になってるよ~。
純くんが怒って笑い浮かべた時も、引きつった笑い浮かべられるだけの余裕ある忍が。
「純、アンタには話してるわよね!?」
「何をでござんしょ」
忍……言葉使いが変。
「風見さんとのこと、何か言ってない?」
「は? ゆうちゃん?」
鳩が豆鉄砲喰らった顔ってこんな顔なのかな~? そんな顔を忍はしてるよ。
「ゆうちゃんがどうしたの?」
「だから、その……此間、体育の時間に屋上に……」
「あれって純兄とゆうちゃんだったの!?」
なんで分かるの!? ……あと忍~、声が高いよ。皆こっち見てるよ? 純くん込みで。
「……で、聞いて無いの?」
「何にも。…………あ」
「『あ』!? 何か思い当たることがあるの!?」
あの、玲奈ちゃ~ん、胸倉掴むのは止めよう? がくがく揺するの止めよう? 忍が……
「わーわーわーわーわーあ」
……楽しそうだね。
「あ、ちょっと待っ、気持ち悪くなってきた。止めて」
「落ち着いていられるわけ無いじゃないッ!」
「誰も『落ち着け』なんて言ってないから止めて」
なんであっさり止めるんだろう。面白くないじゃないかぁ~。
「で、何なのよ? 別に気になってるわけじゃないけどっ! 話して! 別に気になってる訳じゃないんだからね!」
なんで『気になってるわけじゃない』って二回言ったの?
「節分の日に二人で帰って来たなーって事思い出しただけだよ?」
「確実にカレカノじゃないっ!」
「流れって言ってたよ?」
「流れってどういう流れよ!」
「知らんがな」
知ってたら知ってたで『何で知ってるのよ!?』とか言われそうよね~。
「あら、何の話?」
噂をすればなんとやら……。こんにちは、風見さん。
「あれ? ゆうちゃん、なんでここに?」
「純に用事。……どうしたの、玲奈さん?」
すごいなぁ、玲奈のこの眼差しにそれだけの反応って。なんだか大物臭がするよ~。
あ、純くんがこっちに気づいた。
「ゆう、何か用か?」
「九日十日」
「そうじゃなくてな」
「どうじゃなくて?」
「こうじゃなくて」
「分かんないわよ」
「始めたのテメェだろうが」
人差し指の関節で額をコンっとノック。
忍に対応するときと似てるなぁ~。もしくはそれ以上。
そして玲奈の殺気がヒートアップ。
純くんすごいなぁ~、完全に受け流してるよ。
「純、玲奈が鬼の形相してるのよ。何か反応してあげたらどう?」
肩をすくめて、
「分かった。めんどくせぇ事になる前に逃げるよ。ゆうは? 次の授業何?」
え~、そんな反応?
「技術。コレはサボらないわ。将来しっかり役に立つもの」
「あそ」
言いながら二人して教室の外へ。
…………本当に逃げたよ~?
「忍、どう思う~?」
ぽかんとしてるけど。
「純兄って恋愛ごと興味ないと思ってたー」
過去形の事を聞いてるんじゃないんだよ~。
「すごいねぇ。あたしなんか恋愛の『れ』の字も興味ないよ?」
「わたしも~」
「あたしもだ」
『え』
清くん、なっくん、今の『え』って何?
「って言うか、今だったら受験優先する人が多いでしょ」
『うんうん』
清くん、なっくん、なんでわたし達と一緒に頷いてるの?