365 彼等がコンビニ(でバイト/を利用)したら
つまりやりたかったのは『こんなバイトきっと即クビ』『こんな客いやだろな』
『もしもリオン・カラスがコンビニでバイトしたら』
「いらっしゃいませー」
やって来たのは学生。水ヶ丘中学校の制服である学ランの前を全開にし、その中のカッターシャツも三つ四つボタンを開けているので、さらに中に来ている赤いTシャツが見えていた。
「お客さん、寒くありません? カイロありますよ、買います?」
ちょっとした気遣いとしてまずは宣伝を。
「別に寒くねーだろ。暖房ついてっし」
「外は寒いでしょう、やっぱりカイロ……」
「いらねーって」
「じゃあおでんでも……」
「しつっけーなお前!」
ついに怒られてしまった。
「ピザまんくれ」
「えぇー? ピザより肉まんでしょ。あれ、豚まんだっけ?」
「どっちでもいいし! オレはピザまんくれっつってんだよ!」
「肉まんですねー」
「あ、そっちに落着いたんだって違ぁあああう! ピ・ザ・ま・ん! 分かってんのか外人!」
金髪に青い目、さらに長身。そりゃ外国人と思うでしょうが、残念ながらリオンは異世界人だった。似たようなモンのような気がする。
「そんなこと言ってもねぇ、ピザも肉も豚もあんも全部最後に『まん』がつくんだからどれも同じじゃないか」
「全然違ぇよ! もういいからピザまん!」
「正直に言うよ……ピザまん、切れてます」
「もっと早くに言えやぁっ! 隠して何になったんだ!?」
「ごめんなさい部隊ちょ……じゃなくて、店長、言い忘れてて」
学生に謝ったのかと思いきや、リオンは隣に来ていた店長、妙羅に頭を下げる。
「気にするな。ピザまんなんぞ無くても困らん」
「現在進行形で困ってるだろうがぁああああっ!」
学生は一旦深呼吸して落着くと、ピザまんの代わりにあんまんを頼んだ。
「えぇ? ご飯モノからおやつモノ?」
「どれも同じだっつったん誰だ!」
学生の罵声を浴びながら、リオンはあんまんを取り出す。からしと唐辛子とタバスコとスパイス各種を取り出す。そしてそれらをあんまんの上にかけたり注入したり……
「何やってんだテメェエエエ!」
「え? あぁ、ピザまん切らしてたお詫びにサービスを」
「嫌がらせにしかなってねーよ! 何!? あんまんに恨みでもあんのか!?」
「えぇ!? 赤いTシャツ着てるから辛いもの好きなのかと」
「関係無くね!?」
「まぁ食べてみてよ。気に入るよ、きっと」
言いながら、にこやかな顔でリオンはあんまんを差し出すが、
「気に入りたくねーよ!」
という言葉と共にあんまんは何処かへ飛んで行ってしまった。
その色々かけてせっかくおいしい状態になったあんまんが赤い汁や黄色の粉を撒き散らしながら飛んでいくのを見て、リオンはキッと目じりを吊り上げ、
「食べ物を無駄にするんじゃないの!」
怒鳴りつけた。
「ごめんなさいっ! って違う! その言葉そのまま返してやらぁっ!」
そして、喧嘩が始まった。
『もしも天・斬・剣がコンビニを利用したら』
「いらっしゃいませー」
若い女の店員はにこやかな営業スマイルを……別に向けはしなかったが、とりあえずお決まりの言葉だけ言っといた。
「うぉおおおおっ! 何だこれ! 何だこれ! 食いモン大量!」
剣は興奮して、おにぎりがいっぱい並んでいる棚に直行!
「クスリは? 葉っぱでいい」
「バナナチョコレート!? この箱にバナナが入っているのか!?」
天は茶色と薄黄色の模様の箱を手に取って叫ぶ。
「……葉っぱ」
「何だこの食いモンにまとわりついてる透明なの。邪魔だ! あれ? どうやって取んのこれ」
剣は手に取ったおにぎりを包装しているビニールを取ろうと、あっちを引っ張りこっちを引っ張りして色々やっていた。
そこまで来てやっと気付いたのか、
「あの、ちょっと!?」
店員は焦った様子で剣に近づき、おにぎりを取り上げようとするが剣はひょひょいと彼女の手をかわす。
「…………」
「バナナは何処だ!? 何、バナナクリームパン!? 何だこれは!?」
バナナチョコレートの箱を捨て、純粋なるバナナを探し始めた数秒後、天はまたバナナと商品名に付いている加工食品に興味を示した。
「ちょっと! お母さんやお父さんは!?」
「……………………」
「えい、取れたぁあああ! いっただっきまーす」
「買ってからにして! ちょっ、この子達の保護者は!?」
大きな口を開けておにぎりにかぶりつく剣。大きな口を開けて辺りを見回しながら叫ぶ店員。
そんな時に、彼の、ずっと無視されていた斬の……。
「…………………………っぱ」
「え!?」
「葉っぱぁあああっ! 薬草ぉ! 無い!? そこの某ねぇ! 何で無い! 『ねぇ』じゃないか、オバちゃん!」
怒りが爆発した。そして、
「コンビニに薬草があってたまるか! ……そして私はまだ二十代前半だぁっ!」
店員の堪忍袋の緒が切れた。
「ちょっと、店長! 店長! この子達どうします!」
店長の妙羅は顔だけ出して、そして言った。
「放っとけ。所詮子供だ大事にはならんだろう」
「なってますよ! 商品食われてます!」
「何? なら私も何か食うと……」
「お前もう店長辞めろ!」
混乱状態のコンビニに、一人の女性が入ってきた。
「あらあら、どうなさったのですか?」
問題児達(店長込み)にめちゃくちゃやられていた店員は、少しおっとりとした安心感のあるその声の方を振り返った。
マーリさんこと、クッカ・マーリア・アハティラ。彼女は店内の様子を見て、何が起こっているのか分かったのだろう。剣に近づき、目線を合わせると、言った。
「つるくん、おいしいですか?」
「うん!」
「そうですか、よかったですね~」
「うん!」
『……………………』
少しの沈黙。
もぐもぐ、くちゃくちゃと、物を食べる音だけが店内を支配する。
「え、終わり!? ちゃんとお金払ってくれますよね!? 保護者ですよね貴方!」
「まぁ、子供に食べ物をあげるのは大人の役目でしょう? 何故お金を取るのですか?」
「えぇっ!?」
「それに、店長も食べていらっしゃるではありませんか」
白い指に差された方を見ると、確かに妙羅が持っている長いクリームパンは半分程の長さになっていた。
「店長ぉおおお!」
「賞味期限が切れそうだったからな」
「ウソ付けぇっ!」
思わずノリで、店長の頭を叩く。
「……バイト、辞めるか?」
「まずお前が店長辞めろ!」
そしてしばらく後、そのコンビニエンスストアから若いバイトの娘の姿が消えた……。
客はともかく、この店長もいやだな。