362 屋上から
「んっ、……やっぱり開いてないわよね……」
ゆうちゃんだっけ、何やってんだ。屋上の扉の前で。
純だ。
昨日は霊界に泊まって、今朝もリオの仕事ちょっと手伝ってやってたから三時間目の今登校。まだ霊体。
階段の途中で、上から誰かの声が聞こえたからちょっと寄り道……いや、教室の方が圧倒的に近いんだけどな。ちらっとそっちも見て来たら、丁度保健の授業の真っ最中で入れない。理由? 教師が遅刻して来たことについて説教始める可能性がかなり高いから。
俺のせいで授業潰しちゃ申し訳ないだろ? と言うのが言い訳な。
「あら、純くん」
「あれ?」
俺実体化してたっけ。いや、してねぇな。実体化ミサンガはポッケの中にあるし。
ゆうちゃんって見えない人発言、何回もしてたと思うんだけどな……あれ?
「何してるのよ」
「その台詞、そのままお返しするな」
「きっと私の『何してるの?』の方が重いわね。何、幽霊なんかやってんのよ。ここに来るどこでお亡くなりに? 死体はちゃんと誰かに見つけで貰えたのかしら? それとも瀕死の状態で病院送り?」
…………見慣れてる風だけどなぁ。
「見えねぇ奴じゃ無かったか?」
「たまに見えるの」
「へぇ。で、何やってたんだよ? 屋上になんかあんのか?」
「サボるにはうってつけの……そうね、お決まりの、とも言えるかしら? そんな場所じゃない?」
ふぅん。サボりに。
……あれ? 放課後残って勉強するほど真面目な奴じゃ無かったか。スカートは限界まで短いけど。
「寒くねぇか?」
「カイロあるの。あと、毛布もね」
…………準備万端だな。それで屋上が開かなかったってかなりショックじゃねぇか? でも普段から開いてねぇよ、屋上は。
「ねぇ、ここ、開けられないかしら?」
「職員室行って鍵貰って来なよ」
「馬鹿、それじゃあサボりがバレるじゃない」
「なんでサボってんだよ」
「家庭科って暇じゃない?」
納得。おばあちゃん先生の授業じゃな……。楽とも取れるけど。
「開けてやろうか」
「出来るの?」
確かここの鍵、屋上からだと鍵無くても開けられたはず。なんでだ。屋上から不審者入ってきたらどうするつもりだよ。
「壁をすり抜けて向こうから……って言うのなら無理よ? つまみがつまめないんだから」
つまめるよ。実体化出来るから。
壁をすり抜けて一回屋上に、実体化ミサンガ付けて鍵開ける。
「な?」
「…………生き返ったの?」
「ん、それでいいや」
「私にはよくないわよ」
「ところでここのプール、一回壊れなかったか?」
一t法師のせいで。何であんなのがプールに居たか自体疑問なんだけど。
「ギャグ補正は世界最強なのよ」
……あそ。
ん、グラウンドで女子が体育のハンドボールやってるな。三の一と二か。
忍は……あぁ、多分あの、ゴールキーパーやってる奴だな。一番楽しい位置だと思うな、あそこは。ちゃんとボールを防げればの話。忍はちゃんと止められてるっぽいな。『いったぁっ!』っつってんのが聞こえたけど。
「ゆうちゃん、サボって何やんだ?」
「そうね、勉強やろうかと思ってたけど……純くんと話でもすることにするわ。ところで純くん、私の名前知ってる? 忍が呼んでたの聞いてそのまま使ってない?」
「御名答」
「拍手されても嬉しかないわよ」
そらそうだ。
「で? 何て言うんだ?」
「風見夕菜よ」
「ふぅん、んじゃ、ゆう、か」
「ちゃんを取っただけで何も変わってないじゃない」
変わってるだけいいだろ。何がいいのか? 俺が聞きてぇよ。
あっ……。忍の奴、ボール受けようとして、腕の中で跳ね返ってきたボールを顎にぶつけやがった。舌噛んでなきゃいいけどな。
「純くんは? なんでサボってんのよ」
「んー……、保険ってめんどくさくねぇ?」
「でもテストには出るわよ」
「そんときゃそん時だ」
教科書の流し読みでもするよ。夏にノート借りるとか。
あ、ゴールポストから大きく外れたボールが遠くの方へ飛んでった。追いかけるは忍。足速くてよかったな、忍。
二つあるコートの、忍が居ない方では滑って転ぶ奴多数……雨だの雪だの降ってたらしいしな。ぬかるんでるのか。
「ゆう、どうやって勉強するつもりだったんだ? ここも濡れてんじゃねぇか」
「考えてなかった」
正直にどうも。ちょっと忍に似てるなコイツ。サボってるってとこが大きく違うけど。
「それよりも純くん、その手すり、濡れてない?」
「拭いた」
「いつの間に?」
「更衣室に雑巾があったから、ついさっき。使う?」
「借りるわ」
ん。
…………あれ、また忍がボール追いかけにやられてる。敵チーム、ノーコンなのか? ……俺が言えるこっちゃねぇけど。
「何見てるの?」
「ハンドボール」
「面白い?」
「ん、普通。たまに面白い」
「あら、どこが?」
「ドジな行動。主に桜、忍、忍等の敵チームのトンデモ投球後その他諸々」
「貴方、Sでしょ?」
「そう言われたのは初めてなんだけど」
普段言われるのは『毒舌』だな。死神の皆様から。
カシャカシャカシャ……そのごしごしやってるカイロが少し羨ましい。実体化してると寒いし。
「暖か~い」
毛布も肩から羽織ってるもんな。そりゃ暖かいだろ。っつーか、思ったこと言っていいか?
「テメェ明らか見せつけてんだろ」
「ふふっ」
ちぇ。まぁ、俺は暑いより寒いのの方に強いからまだいいか。
「入れたげるわよ」
「ん?」
背中に毛布の感触が。隣にはゆうがくっついて来てるし。
「二人で入れば暖かく……なればいいなぁ」
ただの願望だろそれ。
「俺はどういう反応をすれば?」
「あら、照れてくれるの?」
「照れてほしいのか?」
「ううん、照れる男ってあんまり見たくないわ」
「じゃあ普通にしてる」
「えー、つまんなーい」
「どういう反応を期待してたんだよ」
「普通の男子中学生な反応」
難しい注文を。んなもん人それぞれだろ。
ん? 忍こっちに気づいてね? ちゃんとゴール守れゴールキーパー。
「テメェ、何したいんだ?」
「寒いの」
「んじゃ教室戻れよ」
「嫌よ、何してたか聞かれるだろうから」
あぁ、よっく分かった。
「で、純くん、さっきから忍がこっちガン見してるような気がするんだけど」
「ん、屋上に人って何気に目立つからな」
「変な勘違いされてなきゃいいけど」
ん、面倒になること間違いなしだな。
おーい、忍、敵来てるぞ?
「いっそ勘違いじゃないようにしちゃう?」
「それはつまり、遠回しに付き合えと?」
「命令形じゃないわ。卒業までお試しキャンペーン、どう?」
「お試し期間長ぇな」
いや、短い、かな?
「どうせ卒業したら疎遠になるのよ。だったらずっとお試しでいいじゃない。途中でさよならかもしれないし」
「よく分かってんな。俺は携帯持ってねぇんだ。間違い無くそうなる。さよならじゃなくても」
「あら、じゃあOK?」
ん……。 あ、忍が注意されてキーパーに戻ってる。
「鈴木さんは振ったのに。実は有名よ?」
へー。
「あれは本気っぽかったから」
「あら、私は本気じゃないとでもいうのかしら」
「ほー、じゃあ本気?」
「勿論本気じゃないわよ」
それ見ろ。
「中学校で一回くらい彼氏作ってみたいじゃない? でもそんな理由で告白しまくるのも嫌だもの」
「あっそ。まぁ俺も一回くらい彼女欲しいし、いいよ。卒業までな」
「はー、本気の子を振って本気じゃない私にOKする、純の基準って言うのがよく分からないわ」
未練なく振れる娘。
……あ、桜の顔面にボールが……。