352 マーリさんとトリオ
「そーちゃん! つるくん! ざっくん! あらあら、どこへ行ったのかしら」
「どうかしたんですか、マーリさん」
頬に手ぇ添えて、困った顔して。
「そーちゃんとつるくんとざっくんが見当たらないの。心当たりありません?」
そーちゃんが天ちゃんで、つるくんが剣くんでざっくんが斬くんだよー。って、分かるか。
天を『そら』じゃなくて『てん』って読んでる人居ない?
リオンです。
俺等第十三部隊の中で、家持ってない奴が住んでる、ついでに皆が報告書作ったり指令書貰ったりするような建物。それがここ、第六隊舎です。
……なんで十三じゃないの? とは突っ込まないでいただきたい。だって隊は六つしかないんだもん。うち入れても。
その二階の廊下で、マーリさんとばったり会いました。
まぁどっちも同じ隊舎に住んでるんだから当然ではあるんだけど。
「部屋に居ないんですか? 元気すぎトリオ」
「えぇ……。今日こそはちゃんとした知識を付けさせてあげないとって思ってたのに」
あぁ、マーリさんはあのトリオの知識面の教育任されてるんだもんね……。毎回逃げられてるから『今日こそ』なのか。
「あら、エイラちゃん。そーちゃん、つるくん、ざっくん知りません?」
「知らないなぁ……今日は見ても無いよ」
「そうですか……ところでエイラちゃん、今日朝に帰って来たけど、いったいどこへ?」
「居酒屋で盛り上がってたよ! マーリさんも誘ったでしょ?」
あれ、俺誘われてないんだけど。なんで?
「あぁ、そうでしたね。でもお酒はほどほどにね?」
「わかってまーっす。リオン、今度は君もおいでよ。他の部隊の子やお化けも一緒の飲み会、またやろうって言ってたから!」
今誘われたから許す。
「じゃー、エイラちゃんは今からちょっと眠りまーす。お休みー」
『おやすみなさい』
生きてた時の感覚って意外と残ってるんだよねぇ。眠る必要はない筈なのに眠くなる不思議。動いたらちゃんと疲れるし、お腹もすくし。
「で、そーちゃん達は結局どこに行ったのでしょう」
「部隊長には聞きました?」
「えぇ、ちょっとだけ起きていただきました」
また寝てたのか……。いや、ゴロゴロしてるだけの可能性も高いな。
「ミュウちゃんは?」
「もちろん聞きました」
「純は」
「今日はまだ合ってないのです」
うん、俺も。
「忍は」
「朝起きた時しか会ってないそうです」
あぁ、忍は三人と同じ部屋だったね。大変だろうなぁ、色々と。
「うぅーん……どこ行ったんですかねー。外見てみましょうか。誰かが見てるだろうし……」
「そうですね」
階段を下りて、外へ。
この辺りは昔の日本の街並みに似てる……らしいよ、忍曰く。江戸時代の時代劇の背景に似てるんだって。
またある所は西洋風、またある所は中華風……全部忍の感覚だから俺にはよく分からないんだけどね。
「さて、どのあたりに居るかなぁ……」
「あ、居ました!」
「早ぁっ!?」
マーリさん、もしかしてまだ一回も外探してなかった!?
「そーちゃん、つるくん、ざっくん! 探しましたよ!」
「マーリさん! 見て! お化けの真白ちゃんが着せてくれた!」
わぁ、可愛い白の着物。似合ってるよ、天ちゃん。
…………じゃなくて、何やってたんだよ君等。
「まぁ、可愛い。つるくんとざっくんは何をしていたんですか?」
「お化けの桃ちゃんに、桃の種貰った。毒って言ってた。クスリ作る」
「まぁ、頑張って下さいね」
こらこらこら!
「何マーリさん煽っちゃってるんですか!」
「あら、得意な事は伸ばすべきでしょう?」
「伸ばしちゃいけないものもあるんです!」
「大丈夫ですよ。斬くんオクスリを作る、基本的な事を知ってますか?」
「…………? あるの?」
君は今までどういうクスリの作り方をしてたんですか!
「これから教えてあげます。さぁ、隊舎に戻ってお勉強しましょう?」
「うん」
…………お見事。斬はオチた。
「つるくんは?」
「お化けの皆と鬼ごっこ! この地域ならどこ行っても良し! ……すぐ捕まっちゃったけど、楽しかったよ」
なんで皆お化けとなの?
「まぁ、それなら今度は、簡単に捕まらない戦術の立て方でもお勉強しましょうか」
「うん!」
…………マーリさんすげー。
「そーちゃん、着物、自分のが欲しくない?」
「欲しい!」
「作り方を教えてあげましょうね。でもそれには数からお勉強しなきゃ」
「するぅ!」
思えばトリオも単純だなぁ。
あれ、トリオが意外と扱いやすかったのか、マーリさんが凄いのかどっちだろ。
……どっちもかな?