350 ややこしい事この上ない
「こんにちは、純センパイ」
「こんにちは、何か用かこの野郎」
純だ。
柄悪い? ほっとけ。
目の前に立ってる子の女子にいい思い出が無いだけだ。と言うか、思い出一個しかねぇ。悪い思いで一個。前に、放課後しっつこく付きまとわれて滅茶苦茶めんどくせぇ事になった、気がする。
…………どうでもいい事及び嫌な事はさっさと忘れる質なんだ。
「野郎じゃありません。七草温海、れっきとした女子中学生です」
「あぁ、分かってる分かってる。じゃ、俺は帰るから」
さっさと脇を通り過ぎて階段を下り……れなかったよ、予想通り。
「あのな、階段下りようとしてる相手突き飛ばそうとするな」
「あれれぇ? どこに証拠があって、私が純センパイを突き落とそうとしたと?」
「前に突き出した、その手は何だ」
「私の可愛いおててちゃん達です」
もういい。もう帰る。
「ふんっ!」
「あー、はいはい、どこに隠し持ってたかはともかく、学校に木刀はいらねぇだろ」
ところで、木刀を防いだカバンの中からちょっと嫌な音がしたんだけど。定規か何かが折れたような気ぃする。
っと、今度はなんの声も出さずに蹴りが……。階段飛び降りてやれ。で、そのまま逃げてやろう。
「あぁっ! センパイ、足大丈夫ですかぁ~!? って、逃げるな!」
攻撃しかけといて大丈夫ですかも何もねぇだろうが。逃げるなと言うのも無理な話じゃねぇかな。
「たかが中二の女子相手に逃げるなんて、男らしくないですよぉ~?」
「んー、たかが中二の女子相手に手ぇ上げるって言うのも大人気ねぇよなぁって思ったって事にしといてくれ」
本当はめんどくせぇって思っただけ。
「大体、なんでテメェ俺に攻撃しかけて来るんだよ」
「聞きたいですかぁっ?」
「うん」
ここ素直にうなずかないと、少なくとも忍と光は拗ねる。岳は怒る。じゃあ初めっから聞いてくれって言えよなぁ?
……って、相手、妹弟の誰でもねぇけど。
「実はですねぇ、私の元彼が好きになっちゃった子が私の親友でその子が好きな人が元彼のお兄さんの従弟の彼女の彼氏で、その人の姪っ子が好きな人が貴方の妹さんの事が好きで、でもその妹さんはお兄ちゃん子なので私は貴方を殲滅するのです!」
ん? なんて? 途中から聞いてなかった。
でもとにかく、絶対いらねぇ部分が会った事は間違いねぇ。
ついでに言うと、コイツ明らかに俺とは関係ねぇって事も分かった。
「……私の元彼が好きになっちゃった子が私の親友でその子が好きな人が元彼のお兄さんの従弟の彼女の彼氏で、その人の姪っ子が好きな人が貴方の妹さんの事が好きで、でもその妹さんはお兄ちゃん子なので私は貴方を殲滅するのです!」
なんで二度言った?
「分かりました?」
「あぁ、テメェの元彼が好きになった子が……の部分いらねぇよな。テメェの親友でいいよな」
なんでわざわざ三角関係って言ったんだ?
「あと、テメェの親友が好きな人が、元彼のお兄さんの従弟っていうのは、元彼の従兄弟だよな」
「一々直さなきゃ気が済まないんですか? ハゲますよ」
こんくらいでハゲねぇよ。
「で、序盤しか聞いてなかったけど?」
「でーすーかーらー! 私の元彼の従兄弟の彼女の彼氏が、私の親友の好きな人で、その人の姪っ子が好きな人が貴方の妹さんの事が好きで、でもその妹さんはお兄ちゃん子なので私は貴方を殲滅するのです!」
三回目。指摘したところちゃんと直したな。いい子だ。
「でもやっぱりテメェ関係ねぇよな」
「私の親友の好きな人の姪っ子が、私が可愛がってた近所の子なんです!」
「…………おい、そこに行くまでのくだり何だったんだ? 単純にテメェが可愛がってた近所の子が好きな子が俺の妹の事が好き、て言うのでいいじゃねぇか」
「まぁ、簡単に言うとそう言う事ですね」
簡単に言うと、って言うか、いらんモン付け足してテメェがややこしくしてただけじゃねぇか。
「で?」
「え?」
「だから何?」
「でーすーかーらぁっ! 可愛い妹的存在だったさっちゃんの好きな子の好きな子がお兄ちゃん子で、まったくさっちゃんの事見てくれないから、私はちょっとイライラしてるんですぅっ!」
あぁ、そう。これもちょっとややこしい気もするけど。
「そのさっちゃんとやらの好きな子って誰だよ」
「岬センパイです!」
村田? ……え? 村田? 二年の妹的存在なら中一以下……あ、ありえん話ではねぇのか。
「で、村田の好きな子が誰だって?」
「忍センパイです!」
「へぇ、そうなのか?」
「知りません!」
もう俺帰るわ。本気で。