346 世にもゆるゆるな面接の答え
「何してんだ?」
「面接でよく聞かれることって言うプリントがあったから……読んでる」
忍でーす。
カバンの中でプリント類に埋もれていたプリントを読んでいます。読んでるだけ。
で、背後から純兄に声をかけられました。いつから居たの?
「読むだけじゃ意味ねぇだろ」
「だね。純兄こっから何かランダムに質問して。考えるから」
「……質問される前に考えるもんじゃねぇのか?」
今がその質問される前、だよ。来月だし。
「んー、じゃあ、出身中学校の校長先生の名前を言って下さい」
「滝川明也校長先生です」
……あれ? なんで純兄黙るの?
「校長の名前くらい覚えとけや。勝手に命名すんな」
バレたか。
「で、校長先生って名前なんて言うの?」
「立谷晶、だろ?」
惜しい!
名字の最初の『た』と名前の『あき』は合ってたのに! あれ、全然惜しくない。
「次は?」
「あっさり流すか。ん……中学校ではどんな部に入っていましたか」
「帰宅部って知ってるくせに」
「テメェがランダムに聞けっつったんだろうが。聞かれるかもしれねぇだろ」
そうでした。
「部活動には入っていませんでした」
「ん、それは何故ですか」
「面倒だったからです」
「正直すぎだろおい」
正直でいいじゃないか。素直でいいじゃないか。
「絶対受かんねぇだろ、そんな答えで」
やっぱり? 薄々思ってた。
「んー、ここ考えとこ」
「考えなきゃねぇのかよ」
「んじゃ参考までに。純兄が帰宅部の理由は?」
「死神の事色々あるから」
…………ふむ。
「じゃあこうしよっと。習い事に集中したかったからです」
「何の習い事をやっているのですか」
「えっと」
「そこで詰まったら嘘ってすぐばれるだろうが」
むむむ……。
「何かいい習い事ないかな」
「まず面接で嘘吐くな」
なんだよー。純兄が『正直すぎる』って言ったから嘘を考えてるんじゃないか。
「んー、やっぱ考えとこ。次は?」
「あなたの尊敬する人物は誰ですか」
「兄です」
「その人のどんなところを尊敬しますか」
「自分が尊敬されていると知っても表情一つ変えずに頼んだことやってくれるところです」
「からかってんですか」
「そうですよ」
「眉間と鳩尾、どっちが好きですか」
「殴らないでくださいお願いします私が悪うございました」
その拳を下ろしてくださいっ!
「よし」
あ、いいんだ。まぁ怒ってもしょうがないしねー。って、怒らせた本人が言うもんじゃないだろうけど。
「ちゃんと答えろよ? あなたの尊敬以下略」
「ちゃんと質問してくれる?」
もう絶対めんどくさくなってきてるよ。
肩をすくめてもう一度。
「あなたの尊敬する人物は誰ですか」
「兄です」
「眉間でいいか?」
「正直に言って何が悪いの!」
「あぁ、また遊んでんのかと。ややこしいことするな」
勝手に勘違いするな!
「で、その人のどんなところを尊敬しますか」
「あ、やっぱさっきの取り消しで」
思いつかなかった。
「……あなたの尊敬以下略」
「野良猫です」
「人は?」
「…………考えとこーっと」
思い浮かばなかった。おとーさんとか? おかーさんとか? 皐月姉……は、無いな。名言っぽいモノいくつか言ってたけど、どっちかって言うと迷言だし。矛盾してるもん。
「じゃあ次最後でいいか?」
「んー? 純兄何か用事あんの?」
「んや。飽きた」
何て正直なんだろう。
「まぁいいや。頼んだのこっちだし」
「ん。じゃあ最後な。あなたは受かる気ありますか」
……ありますよ? 考えるって言ってんでしょ。