343 あれ何帰り道
「ねーねーゆうちゃん」
「何?」
「あれ何?」
あれって……? あぁ、川を流れてるあの緑色の奴?
「笹舟よ。知ってるでしょう?」
「うん」
「というか、あれ流したの貴方でしょう?」
「うん」
何も考えてない忍の発言ほど不思議なものは……探せばあるとおもうわ。うん。
夕菜よ。
忍と下校中。今日のガムもミント味。でもいつもメーカーや品名違うのよ。凄いでしょ? だから何? 私も思うわ。
「ねーねーゆうちゃん」
「何?」
「あれ何?」
「……どれよ?」
「あれだってば。あの青い屋根の上に座ってる着物の子供」
青い屋根の家は分かったわ。
でも、その上には誰も居ないわよ。
「座敷童でも見えてるの?」
「そっかー、あれが座敷童かー」
ちょっと、一人で納得しないでくれる? 何一人で座敷童見てるのよ。私も見たくなっちゃうじゃない。
「ねーねーゆうちゃん」
「何?」
「あれ何?」
まっすぐ上に伸ばされた腕。その先には重い灰色の雲が空いっぱいに広がって……。
「貴方の頭の中かしら」
「んーん、あたしの頭の中だったらもっとカラフル。虹色」
まー、おめでたい事でも考えてるの? 綺麗な色ね。
でもそれ、空にかかってる虹の虹色かしら?
たとえば……
「汚い油にでも浮いてるような虹色」
あぁ、やっぱり。どんな頭してるのよ。
「それカラフルって言わないわよきっと」
カラフルって言ったら、もっと華やかで明るい色のイメージがあるの。
「ねーねーゆうちゃん。あれ何?」
まっすぐ前に伸ばした指先には、仲良く寄り添って歩く学生二人。
「古い言い方をするとアベックよ」
「ふーん」
あ、男の子がカン踏んで転んだ。女の子まで道連れに。
仲良く寄り添って歩いていた二人が、仲良くアスファルトともごっつんこ。
………………。
「ねーねーゆうちゃん。あれ何?」
「もろい愛情の生きた見本よ」
女の子が怒ってどこかに走り去って行っちゃった。
いくら何でももろすぎるでしょう、これは。賞あげたいわ。
「ねーねーゆうちゃん、あれ何?」
コンビニの前で座り込み、煙草すったりコンビニで買ったらしいお菓子を食べる男の人たち。
すごいわー、金髪が居るー。茶髪も居るー。あ、忍も茶髪だったわ。天然で色も濃いけど。
「不良さんよ」
「…………学ランじゃない。リーゼントじゃない」
「いつの不良よ」
「去年こんな不良見かけたんだ。短ランの奴」
……へぇ、居るんだ。
「ねーねーゆうちゃん」
「何?」
「あれ何?」
忍の指す先には、大きな犬が。
「字が似てるのよ」
「…………何の話?」
『大』と『犬』の話。