342 問われても……
「しののーん」
「シナモンじゃありません、忍です」
「しののーん」
「シノンじゃありません。忍です」
「しののーん」
「死のう? 勝手にしてください」
「イヤだよ! ……しののんがおかしくなったぁっ!」
「おーい、叫ぶな超音波」
ちょっと耳ふさいだだけじゃどうにもなんねぇな、こいつの声は。
純だ。
誰かしっかり音を防げる耳栓教えてくんねぇかな。いや、無駄な抵抗をするよりも、音源から離れた方が早ぇか。
「どうしたんだ、しののんは。じゅんじゅん、何か知ってるだろう?」
「おい古賀。じゅんじゅんって呼ぶの止めろ。あぁいう無邪気……なのならともかく、テメェみてぇな一見冷静そうな奴に言われると気分悪い」
「……しののんは?」
……そう呼びたいのか?
「本人に聞け」
兄に聞くな。めんどくせぇから。正直に言うと、分かんねぇから。日によって返答違うから困る。
…………いや、あんまり困らないか。
「じゅんじゅん~、しののんがおーかーしーいー」
「元からだ」
「そうじゃなくてぇ!」
何で音源が近づいてきてるんだ。離れようと思ってたのに。思っただけで行動はしてねぇけど。めんどくせぇから。
「しののんどうして上の空なの!?」
「寝不足なんだろ」
「どうしてしののん寝不足なの!?」
「テメェの声が五月蝿くて眠れなかったんだろ」
「どうしよう!」
俺の答えで『どうしよう!』なんて答えを返してきたテメェの頭のほうが『どうしよう!』だよ。
「テメェが黙れば全て解決だ」
周りの奴の耳が。
「なるほど!」
よし、静かになった。
「なるほどじゃないだろうっ! 単にお前を黙らせたかっただけなのが分からんか! まったく、黙って聞いていれば……」
なぁ古賀。テメェはこっちのチームじゃなかったっけ。『部長の声は五月蝿いから黙れせたい』チーム。
「あっ! そ、そうだったの!?」
「なぁ古賀。テメェちょっと部長の頭叩きすぎじゃねぇか?」
突っ込む度にハリセンでパンパンパンパン。
「……薄々そんな気はしていたんだ」
んじゃ叩くの止めろや。
「そんな気はしていたのに、もう体が勝手に反応して……」
ん、わかった。もう深くは聞かない。興味が失せた。
「ねぇじゅんじゅん、結局しののんどうしたの?」
「寝不足なんだろ」
「どうしてしののん寝不足なの!?」
「テメェの声が五月蝿くて眠れなかったんだろ」
「どうしよう!」
さっきと全く同じ答えを繰り返すテメェが『どうしよう!』だっつに。
「部長! 今日も言うぞ、もう何十何百言ったか分からんが言うぞ! 馬鹿かお前は!」
……なんだろうな。ちょっとスッキリした。
「で? 純、結局しののんはどうしたんだ?」
「寝不足なんだろ」
「何でだ?」
「テメェ等オカルト部が五月蝿くて眠れなかったんだろ」
「まさか!」
部長が二度かかって、それに突っ込んだ癖して自分もその罠にかかるテメェに『まさか!』だわ。
「…………純、怒るぞ」
「そう言う奴は大抵既に怒ってんだよ」
あと、お前誤魔化そうとしただろ。
「ちゃんと答えろ、しののんはどうしたんだ?」
「寝不足なんだろ」
「何でだ」
「寝付けなかったんだろ」
「そらそうだ。何で寝付けなかったんだ」
「俺が知るかよ」
「そらそうだ。あれ? 同じ家に住んでるんじゃないのか」
一回『そらそうだ』っつったよな。
「同じ家に住んでても寝る部屋は別に決まってんだろ」
……あ、皐月姉が『『決まってる』は絶対に無いって決まってる』って言ってたな。
…………皐月姉。いちいち矛盾しなきゃ気がすまねぇのかアンタは。
「純兄ー」
「ん?」
「寝不足ー」
「ん、寝ろ」
「何処で?」
「机に突っ伏して」
「誰の?」
「お前の」
「どうして?」
「寝不足なんだろ?」
「うん、どうしてあたし寝不足なの」
知るかっつに。