340 喧嘩するほど仲がいいって嘘だよきっと
「純」
「…………」
「こら、無言のまま退出するな」
「お疲れ様でした」
「怒るぞ?」
「失礼します」
「こら、私がこれから話そうとしているというのに退出しようとするな」
「分かりました」
「よし」
「話さないでください。それでは」
「本っ当に怒るぞ?」
「大丈夫です。その言葉は『怒っている』の中に入りますから」
「ほう。それで何が『大丈夫』なのか三文字以内で完結に述べろ」
「すみません、俺には出来ません。なので回答例を教えていただけますか?」
「……とにかくだ。座れ」
「自分でも出来ない問題を出すものではありませんよ。部隊長」
「座れといっている」
「嫌です」
「……純、剣を抜け。決闘だ」
「俺がここに居る理由を知ってますよね? 漏れなく冥界行きですよ」
「ふん、私がわずか十五の子供に負けると言いたいのか」
「皆さんそう言って逝きました。もっとも、あの時俺は十四でしたけど。あんまり変わりませんが」
「上等だ。貴様を冥界送りにしてくれる」
「残念ながら、俺は上から決闘を禁じられてますんで」
……ずず
あーおいし。これなんてお茶だったかな? 辛子茶?
リオンです。
何か妙羅部隊長と純が言い争ってますが、気にしないでください。いつもの事なので。
ほら、ここに居る死神たちも気にしていません。たまに誰かが微笑ましいもの見るかのような視線を送るだけです。そしてよく皆が『部隊長大人げねぇなぁー』って冷たい視線を送るだけです。あは、尊敬も何も無いね、うちのトップ。
部隊長って、純の倍以上の年なんだけどなぁ……。どうしてああも弄ばれるのか。
「あぁもう、さっさと純ちゃん開放してくれないかなぁ、部隊長」
「ん? なんでですか、エイラさん」
「純ちゃんの好きな子、確かに居るって言ってたじゃん! その追求が全く出来てないんだもん!」
あぁー……あの、純が玲奈ちゃんとやらに告白されてた時、言ってたあれ。
完全に忘れてたよ……本当に、冥界に逝ってしまわなかったのが不思議なくらいな常態にされてたからね。
記憶の一つや二つ飛ぶよ。いや、飛んじゃいけないものだろうけど。
「純の実家周辺には居ませんでしたからねぇ。精々兄妹愛的な感じで忍ちゃん光ちゃん」
「妹は完全に対象外だよ。妹は妹って笑い飛ばすよ、純ちゃんだって」
「いや、あいつが何か笑い飛ばしてるとこ見たことねぇっすけど」
そんな事したら周囲が凍るから。
「いやー、でも、可愛ぇよなぁ忍ちゃん。光ちゃんも大きくなったらああなるんじゃろうなぁ」
「見た目で判断したら痛い目にあうよ」
俺経験者よ。金搾り取られました。当時十三だった純から冷笑をいただきました。今思い出しても目の前のもの投げ飛ばしたくなります。でも、今目の前にあるこの座卓は重すぎて投げ飛ばせない。湯飲みは投げたくない。気に入ってるから。
「いや、忍ちゃんは純よりずっとイイコじゃき大丈……純より、純より……? ……ダメだ、自分の感覚に自信が持てなくなってきてもうた」
忍ちゃんを見るときは殆ど純が居るからね。純を基準にしちゃってもしかないけど……。
「忍くーん、エイラちゃん、元の話題に戻したいなぁ?」
「すいませんでした!」
元の話題、なんだっけ?
「リオンちゃん、お茶のおかわりいかが?」
「あ、有難うございます。いただきます。マーリさん」
「はい、どうぞ」
ずず。あーおいし。
「マーリさん」
「はい?」
「どうして妙羅部隊長と純は言い合いするんですかねぇ」
言い争いするのは、基本的に純が部隊長の命令を拒んだ時なんだけどね。
「仲がいいのでしょう」
…………うーん。
「パズル? わざわざ負けるこた無いでしょうに」
「私がパズルで負けると思ってるのか貴様」
「そうとしか思えません。え? まさか俺に勝てるとでも」
「私が負けるわけ無いだろう?」
「じゃあやりますか? でもそのパズルは何処にあるんです」
とても仲がいいようには見えないなぁ。
凄く険悪な雰囲気が……。
「マーリさん、『仲がいい』の基準が良く分かりません」
「あら、じゃあきっと、仲が悪いんでしょう」
簡単に自論を曲げないでください。
「的当てですか。わざわざ俺が苦手なの選ばなくても、勝たして欲しいと言えば勝たせてあげますよ」
「貴様、一体その性格の悪さは何処から貰ってきたのだ。親の顔が見たい」
「見に行きゃ良いじゃないですか。俺の両親生きてますから、夜うちに来れば見れますよ。顔くらい」
……うん、仲が悪いんだな、きっと、……やっぱり。