338 高山四兄妹、仲は良くても
「ねー純兄」
「ん?」
「昨日あたし達、貧乏神払ったよね」
いっぱい笑って、七草粥も食べて。
「ん。なのになんで風邪ひいてんだお前」
あたしは今それを聞こうとしてたんだよっ!
忍です。
頭は痛いし、フワフワするし、喉が痛くないのはまだ良かったけどなんかダルい。
「もー、貧乏神払ったら普通風邪ひかないでしょ」
「誰だってひく時にはひくだろ」
そう?
「じゃ、あれだよね。『風邪ひくなよ』って別れの挨拶、無理だよね。誰だってひく時はひくんだもんね」
「ん。言ってやるな」
「誰に?」
「別れの挨拶に『風邪ひくなよ』って言う奴に」
あーい。
「ね~お兄ちゃ~ん~。びんぼーがみって神様なの~?」
光も一緒にダウンしてまーす。頭合わせて並べたベットの反対側にいまーす。
「曲がりなりにも神科、だったかな」
「かみかって何~? 神様になる事~?」
神化?
「字が違う。キツネザル科とか、マングース科、とかの科」
そんなのあるんだー……。
「神科って倒せる~?」
「生物だからな」
「うふふ~」
光、怖いから。凄く怖いからその笑い。
絶対『貧乏神倒してやる~』的なこと考えてるよこの子。
「昨日の貧乏神さんは何処に居るかな~?」
「呼んだ?」
来たよ。
自分を倒そうとしてる奴が居る所にわざっわざ姿現したよ、この貧乏神。
言っていい? アホだろお前。
「おやおやおや、すっかり弱っちゃって」
いや、貴方を倒そうという殺気はすっかり高まっちゃいましたよ。
「これならとりつきやすい」
とりついた途端フルボッコにされますよきっと。
「お兄ちゃん~、神様殴っても罰当らないよね~?」
「ん、これは神様とは違うから」
そういえば昨日、弱点の中に神挙げてたね。
「えい~」
「ぐぽっ」
光の口調がほのぼのしてるからって、油断してはいけません。
貧乏神みたいになるよ。動きは速いから。意外と。特にむかつく奴殴ったり蹴ったりする時の手足の動きは特に。
「姉ちゃーん、光ー。母さんがポ〇リ買ってきたらしいけど飲むかー?」
階段上るの億劫で、階段の上に居る人に階段の下から話しかけることってあるよね。
「ちょーだーい」
「岳お兄ちゃ~ん~! 貧乏神がまた来たよ~!」
光、それいう必要あったの?
「貧乏神ぃ!? またか!」
あ、岳が階段登ってきた……音がする。
「あっ! 居た!」
居るって言ったじゃん。
「この野郎! 光のはテメーが原因かぁっ!」
「ぐぎゃっ」
あ、貧乏神の鳩尾に岳の蹴りが。さらに顔面に拳がめり込んだ。
「ねー岳、あたしは?」
「姉ちゃんのは多分勉強のしすぎ」
「そんなにやってないよ」
「オレからしたらやってんの!」
いや、岳勉強しないじゃん。宿題もよく学校でやるし。
「……ん? あ。オレと、白金高校に行きたくなる前の姉ちゃんからしたらやってんの!」
何で言い直した!?
「おーい、貧乏神、大丈夫か」
「……イタイ」
「だろうな。貧乏神の分際で俺等の妹に手ぇ出すからだ馬鹿」
ねぇ、『等』って入ってるってことはあたしカウントされてないよね? もしかして純兄も岳と同意権?
「たかが人間のパンチとキックなのにイタイ」
たかがって言ったな?
「たかが人間だと思って舐めてんじゃねーぞ。そっちはたかが貧乏神だろー」
岳、調子に乗ると手に負えません。今もなんか、貧乏神の鳩尾にかかとねじ込んでるし。笑ってるし。
端から見たらもう完全にいじめっ子だよ。
「高山兄妹舐めんじゃねぇぞ。小物が」
純兄じゃないよ今の。あたしだよ。
ちょっとノって見たかったのー。やってみたかったのー。
「永遠にさよ~なら~、貧乏神ちゃん~」
ちゃん呼ばわりだよ。貧乏神をちゃん呼ばわり。
……あたしら完全に悪者だよねー。悪役だよねー。やってる事が。
「逃げるなら今の内、さっさと逃げなきゃ……」
「ひぃっ!?」
凄いスピードで逃げて行った。
まぁねー、今の純兄怖かったもんねー。肉食獣みたいな目で睨み付けられてたもんねー。
「どうする気もねぇけどな」
逃げた方見て肩すくめたり。
「さー、厄除け厄除け、あははははっ」
逃げた時の貧乏神の顔思い出して笑ったり。
「あ~、だいぶ楽になったよ~」
貧乏神の事綺麗に忘れた振りして伸びしたり。
「家に入ったのが運の尽きってね」
酷い目にあったことを相手のせいにしたり。
いやー、あたし達って酷い兄妹だね!