334 提出日はいつデスカ?
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん大変だよ~!」
「…………なに」
「書初めの宿題忘れてた~!」
「あぁっ!」
忍です。
四行前は機嫌悪かったです。勉強に集中してたの邪魔されたから。
でも今は焦って……無いな別に。でも、あたしも書初め忘れてた。
「オレも!」
あ、岳。
「やろ~っ!」
おー、準備早いね、光。
もう習字道具と半紙がセッティングされてるよ。
えーっと、あたしの半紙……確か学校で貰って、折りたたんでファイルに挟んで、机に突っ込んだ筈。あれ?
「やば、半紙学校に忘れてきた」
『どうやって!?』
岳はともかく、光にまで突っ込まれたよ。
「起き勉してるから。半紙まで一緒に置いてきちゃった」
「え~、普通忘れる~?」
ぐ……普通ってなんだよ! 普通の基準が分かんないよ! 光も普通から外れまくってるくせに! だから普通の基準ってなんだ! 失礼しました。
「どっしよっかなー。桜に電話して提出日聞くか」
「提出日? 聞いてどーすんだよ」
「始業式の日なら学校に取りに行く。最初の授業の日なら、始業式の日に持って帰って三連休でやる」
始業式は六日だからね。何で金曜だけ学校あるんだよ。どうせなら休みにしようよ。
「お~、あったまい~」
ふふん。……あたしじゃなくてもやりそうだけど。
「おー、ずっるー。真面目にやってる人に謝れー」
やかましい。
電話電話。
『はい、山内です』
「あ、高山ですけど、桜さんいらっしゃいますか?」
『あぁ、忍ちゃん? 今桜出かけてるけど~。後でかけなおさせようか?』
「ん~……いや、いいです。ありがとうございます」
篠とか清とか玲奈とかゆうちゃんとか、アテはまだある。
『もしもし、中谷でございます』
あ、しーちゃんだ。
「高山ですけど、篠さんいらっしゃいますか?」
……しーちゃんだとは思うけど、違ったら滅茶苦茶恥ずいので確認します。
『篠さんでございます』
あ、合ってた。
「書初めの提出日っていつか分かる?」
『書初め? うーん……清、分かるか?』
あれ? そこに清居るの?
『最初の授業日だそうだ。多分、きっと、恐らく。他の人にもう一度確認することをお勧めする』
「凄い不安だな!」
『だから、ほかの人にもう一度確認することをお勧めすると言った』
そうでした。
「できた~! これ提出用にしよ~っと」
「……光、言うのちょっと気が引けるけど言うわ。それ、名前ねぇ上に書けそうな場所もねーぞ」
「…………なんでもっと早く言ってくれなかったの~!?」
「今気付いたから」
あぁー。光ちょっぴり涙目だよ。せっかく上手く行ったのにねー。
さて、次玲奈に電話。
『もしもし』
「あ、高山ですけど。鈴木さんのお宅ですか?」
『……忍?』
玲奈だった。やったー。手間が省けたー。
「うん、忍。残念だったね純じゃなくて」
『切るわよ』
「あぁーっ! ちょっと待って! 待って! 謝るから!」
『何よ?』
「ごめんなさい」
『はいはい、許すわよ。じゃあね』
ツーッ ツーッ ツーッ
何で切られたの!? 謝るから待ってって言ったのに!
……もしかして、謝ったら終わりだと思ったのかな。
えーい、もっかい!
『もしもし。忍?』
「なんで切ったの!?」
『……つい』
ついってなんだよ、ついって。
『何の用だったのよ』
「書初めあるでしょ、国語の宿題。あれの提出っていつだったっけ」
『さぁ……べ、別に分からないわけじゃないわよっ!』
「じゃあ教えてよ」
『…………』
ツーッ ツーッ ツーッ
のぉい! 分かんないんじゃんかぁ!
「お兄ちゃんの難しいね~」
「だろー? なんで『伝統を守る』なんだよ」
「ね~。なんで五文字なんだろうね~」
「なぁーっ」
仲良しだねー。一緒に頷き合ってる。
よし、次は最後の頼みの綱……ではないけど、電話の電話帳機能に入ってる最後の同い年、ゆうちゃん!
……あ、出たかな?
「もしもし?」
『かーめよ、かーめさーんよー』
絶対ゆうちゃんだコレ。
「高山ですけどー」
『ただいま留守にしております』
「嘘吐け!」
いったん喋った後で留守電になるわけがないでしょうが!
『ピーッとなりましたら』
「しつこいよ、ゆうちゃん」
『ふふっ、似てたでしょ? よくある電話の音声に』
いや、似てたけど。似てたけども確かに。
「似てたのは認めますよ。うん」
『でしょう? じゃあね』
「切るな!」
あ、ごめん岳、光。びっくりしたみたい。
『あら、用あったの?』
「無かったら電話しないよ」
『酷い! ただ君の声が聴きたかったんだって言ってほしかった!』
「誰?」
『知らないわよ。今目の前で電話している女の人が言った言葉だもの』
そんな人居るんですか。そしてどこにいるんですかアンタ。確かにコレ携帯番号だったけどさ。
『で、結局何の用? さっさとしてくれない?』
「話の腰折っといてよく言うよ」
『話の腰ってどこにあるの?』
え。
『話に腰があるのなら、話も腰が痛くなったり、マッサージされると気持ち良かったりするのかしら』
いやあの。えぇっと……。そんな訳ないでしょ、と。
「また脱線してるよー」
『貴方から脱線したわよね、今回は』
「はいはい。そうでした。で、用なんだけど」
『早く話してよ。さっきから待ってるんだから』
絶対楽しんでたでしょ。
「書初めなんだけど、あれの提出日っていつだっけ?」
『書初め? あぁ、……え? あぁ。冬休みだから出てるのかしら』
出てるのかしらじゃないよ。ゆうちゃんに聞いたあたしが馬鹿だった。
『書初め、って言うけど、最初も何もあれ以外に習字なんかしないわよね』
「あぁー、そうだね。そう言えば」
春にやろうが夏にやろうが秋にやろうがクリスマスにやろうが書初めだね。
「忍~? 電話使ってる~? 私使いたいんだけど~」
あ、おかーさん。……携帯持ってるじゃんおかーさん。
「ごめんゆうちゃん、おかーさんが電話使うって」
『はいはい、分かったわ。じゃあね。良いお年を』
「もう年開けて四日目だよ!」
『はいはい、分かったわよ。じゃあ、あけましておめでとう』
「おめでとう。今年もよろしく」
『こちらこそ。じゃあね』
プツッ
「はい、おかーさん」
「ありがと~」
……結局いつ提出なんだよ!
もういい。純兄が帰ってきたら純兄に聞く!
「もしもし~、純~? あっ! ありがとう~!」
……純兄どこに居るの? 携帯持ってない筈なんだけど。……あと、おかーさんは何に喜んでるの?
「仕事終わった~? うん……じゃあちょっと聞いてくれる~?」
霊界と電話つながるの!? 一般家庭にあるような電話で!?
「今日私の誕生日なのに純以外誰も祝ってくれないの~」
あぁっ! しまった、忘れてた!
「おかーさん誕生日おめでとう!」
純兄は覚えてたんだ……。
「か、母さん! 誕生日おめでとう!」
「おめでと~!」
「ありがとう~。ん~? うん~、満足~。じゃあ……あ~、忍が変わってほしいみたい~」
おぉ、視線だけで分かってくれた! 目は口ほどにものを言うとか言うもんね。
「もしもし」
『ん。書初めなら最初の授業日。おけ?』
「うん!」
さっすがー。分かってる。
『あ、俺の鞄の中に半紙入ってるから。使いな』
……なんであたしが半紙忘れた事まで知ってるんだろう。