333 ただいま作者が暴走中
…………あ。
しまったな。仕事放棄しちまった。
アランなんちゃらの仕事を手伝えって事だったのに、逃げてどうする俺。
でもなぁ、あの人いきなり魔法撃ってこようとするんだから、逃げてもいいだろ。ん。
……でもなぁ、仕事終わらせにゃ給料払ってもらえねぇし。信用下がるし。怒られるし。めんどくせ。
純だ。
ここなんて世界だっけ? ゲイム界? 多分これゲームだよなきっと。勇者に魔王って。
魔王を倒しに行く勇者の仲間の魔法使いジジを死なせんのが今回の仕事だった筈。
別にアラン……さんと一緒じゃ無きゃいけない訳じゃないだろうし、いっか。
とりあえず、逃げ込んだ街にあったベンチに座って、一休み。持久力ねぇもん俺。
通りを挟んだ向かい側に、お守り売ってる店があった。……何でこの国の言語日本語なんだ?
学業成就……忍に買って行ってやろうかな。あ、異世界のモン持ってっちゃ駄目なんだった。
異世界に持ち込んでいいのは霊界産だけって決めたの誰だ。
制服はともかく、得物やら小物まで霊界産じゃなきゃ駄目なんだもんな……。おかげで仕事中はコンタクト付けられねぇ。眼鏡は霊界産あるけど、邪魔だし。
……お前コンタクトだったのか、て? 言ってなかったっけ。
忍も眼鏡持ってるぜ。授業中とか、パソコン使うときとか位しか使わねぇけど。あ、後トランプゲームのスピードする時もかけてるな。
岳も眼鏡欲しいとか言ってたし。皆目ぇ悪いんだな、遺伝? じゃあ光もヤバいのか。
……て、そうじゃなくて。仕事。
取り敢えずそこら辺の奴に勇者一行知らねぇか聞いてみるか。……実体化、実体化。
黒ずくめの制服のせいで周りから浮くな。その辺の家からローブ盗むか。大丈夫、ちゃんと返すから。
「すみません。ちょっといいですか?」
ん? こっちから声かける手間が省けたな。相手は……普通の基準はよく分からんけど、普通の街娘としか言いようが無い。
「貴方、もしかして勇者様?」
「違います。どっちかって言うと魔物に近いです」
勇者の仲間殺そうとしてる訳だし。
「キャァアアアッ!? 魔物よー! 魔物が出たわー!」
……きっとあの娘の名前は街娘Aだ。それにしても、わざわざ確認してくれるとは。
「キャーッ! 勇者様ぁ! 勇者様!?」
「勇者ぁ! 今まで散々金巻き上げて言ったんだから、ちゃんと働けコラァ!」
勇者来てくれんのか? 楽でいいな。ちゃんと仲間連れて来いよって伝えてくれ、そこの街の人B。
突っ込むべきところが他にあった気がするけど、まいっか。
「おーうおうおう、勇者の居る街をお天道様が照らす中、堂々と姿を現すたぁ、いい度胸じゃねぇか」
……曇ってるけど。
「気に入ったぁ! 相手してやろうじゃぁねーか!」
声の威勢はいいけど、剣持つ手が震えてるぜ勇者様。
王に異世界から召喚されたとか書いてあったな、そう言えば。
大抵こういうので召喚されるのはリリア界……日本のある世界なんだよな。魔法の耐性ほぼゼロだから。科学は一番進んでるんだけどな。
日本語ペラペラだし、あの人日本人だろうな、多分。髪茶色いけど。
「あれ?」
ん? ……あれ?
「龍城さん? 何やってんですかこんなトコで」
あ、召喚されて勇者やってんのか。
「その言葉そのまま純に返してやらぁ。何やってんでぃ、そんな服着て」
『そんな服』は人の事言えんだろうが。典型的な、ゲームにありそうな勇者の服着てるし。
「いっちょ前に刀まで差しやがって」
文月くんから教わった滅茶苦茶剣法、木刀で習ったから。真剣の切り合いの場合の事まで教えてくれたし。折角霊界産の刀見つけて、手に入れられたんだから使わにゃもったいないだろ?
「それはともかく」
「ともかくしてんじゃねーよ」
「させてください。魔法使いのジジってのが居る筈でしょ? 何処ですか?」
「…………あれ。どこ行きやがったんでぇ、あの爺。アイヤ、知ってるか?」
『超絶美人の女剣士』とか書かれてた奴? あ、本当に見た事無いくらい美人だ。モデル並にスタイルもいい。
……めちゃくちゃでけぇけど。
絶対コイツ身長三メートル越してるぜ。どうやって建物入るんだろう。
「いいえ、存じません」
声もいいんだけどなぁ。やっぱでけぇ。
「そうか、マッチョ」
え、マジであの『力自慢』の名前マッチョなのか?
「ウホッ」
…………ゴリラにしか見えねぇけど。というかこの世界、ゴリラ居るのか。
たしかにゴリラの力は凄いだろうけど、コレはねぇだろ。
「分からないらしいヨ」
この子供誰? ゴリラの飼い主か何か?
「あー、きっと置いてきちまったんだ。足おっそいから」
年寄いたわれテメェ等。……俺が他人の事言えるのか? 言えねぇよ。棚上げだ。
『ぎゃぁあああっ!』
……悲鳴聞こえたけど。
流れ弾っぽい球状の雷が飛んできたけど。あ、今度は火の玉。
「タツキ様。ジジが居ました。コイツと似たような服を着た男と魔法を撃ちあっています。ジジが優勢みたいです。でもほぼ互角、やられたとしても別段不思議ではありません」
ん。アランさんか? 手伝いに行かねぇと。
「フンッ、なかなかやるな若いの!」
なぁジジ、アンタも目ぇ悪いのか?
アランさんって、少なくとも四十は超えた顔してるけど。五十歳一歩手前くらい。
どう頑張っても若いとは言えねぇだろ。
「君こそ……妖術の、そのように素早い発動、並の者には出来ん」
それ妖術じゃなくて魔法。どっちでもいいか。
「アランさん、援護しま……」
「いらん! 子供は黙ってろ!」
「分かりました」
黙ってジジに殴りかかるor蹴りかかるor斬りかかるのどれかしますよ。
そもそも援護は魔法の役割、俺は魔法使えねぇから援護も無理なんだよ。
……ついでに言うと、ノーコンだから飛び道具も使えない。自分で言うの嫌だけど。
岳はすげぇよ。ダーツさせたらたいてい狙ったところに行くんだから。
忍も、ゴミ投げたらほぼ百%ゴミ箱に入るし。光はまずダーツもゴミ投げもやんねぇな。
で、そんなこと考えながらジジの後ろに回ったけど。
……何て無防備なんだろう。背中がら空きですよジジ爺さん。
でも得体の知れんモノ……他人をそんな風に言っちゃダメだとか母さんに言われそうだな。でもとにかく、そんなのに触れるなって皐月姉から教わってるから、斬りかかる、だな。
……ジジがこっちを向いた? 気付かれたかな。
「ハクシュン!」
…………あぁそう、くしゃみをするためにアランさんから顔をそむけたのか。
そうだな、確かに人に向かってくしゃみすんのはよくねぇよ。でも戦闘中に敵から目を逸らすか普通。って、よく言われてた。俺が。
それはともかく、斬ってみよう。一発でご臨終してくれると助かるんだけどな。
「ぐぁっ」
……何の仕掛けも無かったよ。
今まで四人くらい返り討ちにしてたジジがあっさり十五のガキにやられやがった。
「アランさん、終わりました」
「……邪魔を、するなぁッ!」
「残念、もうした後なのでどうしようもありません」
「クソッ、何なんだこの少年。
彼は今まで四人もの死神を返り討ちにした男だ。それを一人であっさり片づけてしまうとは……。
しかしやはり、この人を馬鹿にしたような口調、たまに浮かべる人を蔑むような笑み……気に入らん。 消してやる、そうだ、消してやる!
だが今は報告書の作成が先決だろう。彼は今まで申し込まれた決闘を全て受け、一人残らず相手を冥界に送っているほどの実力者。この俺が負けるわけがないだろうが、油断は禁物だ」
……もう最初にあった時から思ってんだ。
この人がぶつぶつぶつぶつ言ってる、他人に説明でもしてるかのような言葉。本人は口から出てることに気づいてるのか?
気付いてなかったら教えるべきかもしれねぇけど、ちょっと気が引ける……。
だって、気付いてなかったらアランさん凄く恥ずかしいだろ?
まぁいいか。俺には関係ない。
「アランさん、口から全部出てるの気付いてます?」
「……え?」
「全部口から出てます、聞こえてます」
あ……顔真っ赤にして逃げ帰って行った。気付いてなかったんだな。悪いことした。
「酷いことするじゃねぇかい。気が合いそうじゃ」
「龍城さん、それなら香ちゃんとの方がきっと気が合いますよ」
「既に親友でい」
やっぱりか。
「……で、ここはいったいどこでぇ。七日くらい魔王探してんだが、野郎どこにも居やがらねぇ」
「王から金巻き上げただの、立ち寄った村や町やで金を強奪してるだの聞きましたが」
「どう家に帰りゃいいのかわかんねぇから不安で不安でつい」
『つい』じゃねぇだろ。
「元の世界に連れて行きますから。来てくださいよ」
「よしゃ、帰れる! じゃあ、アイヤ、マッチョ、今までありがとよ」
……あの二人、何談笑してるんだ。完全に無視されてるぞ龍城さん。
なんかごめんなさい。
332話と333話ごめんなさい。なんか。
『まぁ呪理阿だし』くらいで流していただけるとありがたいです。