328 大掃除(主に掃除機)の恐怖
ガーッ
あぁ、下で掃除機さんが騒いでいます……。もう少し静かに騒げませんかね。
『きゃぁーっ! きゃぁーっ! 吸ーいーこーまーれーるー!』
大丈夫ですよ、おはじきさん。あれの掃除機さんは二階に来ません。
だから私のすぐそばで暴れないでください。当たって痛いんです。パチパチ当たって痛いんですよ。地味に。
ニンジンとサツマイモの甘煮です。食べられませんよ。ご注意ください。
この間、本当にニンジンとサツマイモを甘く煮たニンジンとサツマイモの甘煮さんを見かけました。
おいしそうでした。私は食べられませんが。
ガーッ
あぁ、今度はすぐそば……この押し入れを出た先でしょうかね。
『キャァアアッ! 吸い込まれるぅ!』
大丈夫ですよ、お手玉さん。
あなたを吸いこんだら掃除機さんがお腹を壊します。
「兄ちゃんの奴ぅ……、なぁんでオレだけで部屋の大掃除しなきゃなんねーんだよ」
それは多分、貴方が普段お掃除をしないからですよ、岳さん。
純さんはこまめにやっていますからね。自分だけ使う家具の周りだけですが。
『たけにゃんもちゃぁんとやってるよぉー!?』
あら、ダーツさん。
「あ、大掃除なんだし、こん中もやっとくか」
……岳さんはいったんやり始めたらとことんやる方でしたね。
がらっと押し入れのふすまが開きました!
『きゃぁーっ! きゃぁーっ!? ちょーっ、マジで吸い込まれるべーっ!』
おはじきさん、何ですかその口調。
そして大丈夫です、今掃除機さんはお休みしています。
「うわー、結構詰まってんじゃん」
貴方よくここ開けてるじゃないですか。ダーツさんとか出すのに。今更ですよ。
「うっわ、布系のもある。はたかなきゃなんないのか。先にこっちやるべきだったなぁー」
ほんと、やり始めたらとことんやりますね。
しかも結構テキパキやってますね。どんどん周りからおもちゃの皆さんが出されていきます。
お手玉さんも、取り出されて、雲一つない……あ、言ったそばから出てきた。まぁとりあえず、空が見える窓の外でパンパンほこりをはたかれてます。
最後に私だけ残りました。
「……いやいや、オレ一人でこれは無理だろ」
でしょうね。
「姉ちゃーん! ちょい手伝ってー! ニンサツ出してはたいて放りだすんだけど!」
どこで聞いたんですかニンサツっての!
「ニンサツ―? 何それー。忍者のお札ー?」
隣の部屋から忍さんの元気な声が。最近会ってませんが、安心しました。
受験勉強とかで、ほとんど部屋に居ましたからね。休憩も多かったけど。
「ニンジンとサツマイモの甘煮! 姉ちゃんが言い出したんじゃねーのかよ!」
てめーですか、ニンサツ広めてくれやがったのはぁ。ずっと勉強してろ! で、ノイローゼになれぇ!
コホン、取り乱しました。のいろーぜってなんですか?
「あたし今こっちやってるから無理ー! 純兄居ないのー!?」
「昼飯前に出てったきりー!」
「ん、昼飯なんだった?」
「あ、お帰り兄ちゃん。姉ちゃん! 今兄ちゃん帰って来たからやっぱいい!」
「あーい」
ちょっと待ってください。今、純さんが突然現れたように見えたのですが。
気のせいですよね。押し入れで見えないところから移動して、突然見えるようになっただけですよ。
瞬きしている間にでも。
……私、まぶた無いから瞬きできないんですけど。
「兄ちゃん昼飯食ってねーの?」
「いんや。妙羅のおごりで食ってきた。で、何か用か?」
「あの人おごりとかすんだな……じゃなくて、これ!」
これ! って言われながら指差されるのはちょっと気分よくありません。
「ん。ニンジンとサツマイモの甘煮か。……言うのめんどくせぇし、ニサ甘でいっか」
よくありませんよ!? 何なんですか、にさあまって! 訳分かりませんよそれ!
「で、これが何?」
結局『これ』ですか!
「押し入れから引っ張り出して、外ではたきたいんだけどさ。重くてデカくて」
「それ以前に窓から出ねぇよ。こんなの」
何ですか、こんなのって。
「……だよなぁー」
「大体、なんでまた押し入れの中身なんか出してんだよ」
「大掃除。押し入れん中もやっとこーって思って」
「…………押し入れん中までするか」
いい心がけではないですか。私達も気分がいいですよ。
「ん……そうだな。まぁ、これは押し入れの一部みてぇなモンだし。出さなくてもいいんじゃねぇの」
「えぇー?」
「じゃ、掃除機だけかけとけよ」
え? 私にですか!?
「分かった」
そこ『分かった』なんですか!?
え、ちょっと、え? 掃除機さんがガーッとか言ってこっちに……。
ブラシみたいな形になってますけど、それ、絶対痛……。
『キャァアアアア!』